2026年2月上旬に、私は職場である介護施設の現場を「抑うつ状態」という理由で離れ休職をしています。私は、作業療法士で、利用者の生活機能の維持・向上を支援する立場にありながら、私自身の心身状態を維持することが困難な状況となりました。原因は、私の思考特性と職場環境のミスマッチにあります。
情報処理の特性と「反芻」
私にはASD(自閉スペクトラム症)傾向の特性に基づく、特有の情報処理傾向があります。それは、他人の些細な言動が、フィルタリングされずに「ノイズ」として流入してしまうことです。多くの人が無意識に無視できる情報であっても、私はそれを処理すべき情報として認識し、過度な反復・反芻(はんすう)を行なってしまう傾向があります。「あの時の発言の意図は何か」「この業務の非効率さはなぜ放置されているのか」といった思考が、業務時間外や睡眠中であっても継続してしまいます。
「休むこと」が困難な仕様
心身不調の際、一般的には「何も考えずに休むこと」が推奨されますが、私のような特性を持つ場合、思考を意図的に停止させることは極めて困難です。思考が常に回り続ける特性を持っているため、無理に思考を止めようとすると、かえってストレスが増大し、焦燥感を招く結果となります。「考えないこと」は、私にとって有効な休息手段ではありません。思考を止めることができないのであれば、アプローチを変える必要があります。「思考を止める」のではなく、「思考の枠組み自体を変える」こと。そのために私が参照したのは、ルネ・デカルトの『方法序説』であり、システム思考というフレームワークでした。
1.身体データのモニタリング
デカルトは『方法序説』の中で、心身二元論を提唱しました。精神(考える私)と、物体としての身体を区別する考え方です。現代医学では、この考え方が適切かは別として、私のような過敏な特性を持つ人間にとっては、精神衛生を保つための有効なツールになると考えました。「私がつらい」と主観的に捉えるのではなく、「私の身体が異常反応を示している」と客観的に切り離して捉えることで、感情的な動揺を抑えることができるのではないか?私は現在、自身の身体状態をFitbit等のデバイスを用いて数値化し、管理しています。感覚的な不調ではなく、再現性のある数値データを判断基準としています。
エラーログの解析
私が不調の予兆として設定している、具体的な数値指標は以下の通りです。
1‐1. RHR(安静時心拍数)の基準
いちばんわかりやすい指標はRHR*1です。平常時では、私のRHRは50台後半で推移していますが、負荷がかかると、わかりやすく上昇します。
危険域:68 BPM以上
平常時より約10拍高い状態です。過去のデータ(年末70.2 BPM、1月下旬70.6 BPMなど)から、この数値を超えた時点で、恒常性の維持が困難になっていると判断されます。
注意域:61 〜 67 BPM
交感神経が優位な状態です。1月後半はこの範囲で推移しており、慢性的な負荷がかかっていたことがデータから読み取れます。
1‐2. HRV(心拍変動)の低下
自律神経のバランスを示すHRV*2は、回復力の指標となります。私のベースラインは45〜55msですが、不調時はこれが40ms未満(特に30ms台)まで低下します。1月中旬には30ms台を連続して記録しており、身体の回復能力が停滞していたことがわかります。
1‐3. 皮膚温の変動
私の皮膚温変動のベースライン(恒常的基準)は「+0.5℃」です。この基準値からの乖離を、身体的なストレス反応として評価します。基準値を超えて上昇が続く場合、体内で何らかの負荷が生じていると判断されます。
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睡眠の質の変化
休職となった要因の一つとして、睡眠構造の変化が挙げられます。データ解析の結果、深い睡眠(Deep Sleep)の割合が低下していました。特に、睡眠中の覚醒レベルが高くなっていました。身体は睡眠状態にあっても、脳の活動レベルが下がらず、覚醒に近い状態が続く傾向が見られました。あたまのなかでの思考処理が継続しているため、十分な睡眠時間を確保しても疲労が回復しない状態であったと考えます。
データの客観視による効果
自身の不調を「RHR 68」「HRV低下」「睡眠の質的変化」という数値に置き換える作業は、精神的な負担を軽減します。「自分自身の精神的な弱さ」に原因を求めるのではなく、「身体機能の低下」という物理的な現象として認識できるためです。デカルトが精神と身体を区分したように、身体データを客観的にモニタリングすることで、不必要な自責の念を防いで、具体的な対策(休息、環境調整など)に意識を向けることができるようになります。
2.思考の外部化と構造化
内部循環する思考の処理
ASD傾向を持つ私にとって、脳内で思考を反芻(はんすう)させることは、解決策を生まないばかりか、精神的なリソースを浪費する「労働」となってしまいます。解決できない問題や、他者の不可解な言動が「ノイズ」として内部で循環し続ける状態は、システムのオーバーヒートを招きます。
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ここまでは、身体という「ハードウェア」をデータで監視し、システムダウンを防ぐ方法について述べました。しかし、私の本質的な課題は、頭のなかで無限に生成される「思考のバグ(反芻)」をどう処理するかという「ソフトウェア」の問題にあります。続く有料パートでは、思考を外部化してバグを排除するための具体的な技術(Zettelkastenや因果ループ図の運用)と、私の特性「過敏な反応」を、苦痛の源泉から「喜びの発見機」へとシステム転換させるための方法論について記述します。感情論ではなく、論理で生きづらさを緩和させたいと考えて行なっている方法です。
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*1:完全にリラックスした状態(主に睡眠中や起床直後)の1分間あたりの心拍数(BPM)
*2:心臓の連続する拍動の間隔(RR間隔)が、1拍ごとに微妙にゆらぐ現象。自律神経(交感神経・副交感神経)の働きを反映し、HRVが高い(ゆらぎが多い)と副交感神経が優位で健康・リラックス状態、低い(ゆらぎが少ない)とストレスや疲労、交感神経の過活動を示す。