15年ほど作業療法士として働いてきて、最も難解で、かつ、こちらの心身に深刻なダメージを与える要因は、仕事上の技術的なトラブルではなく、特定の認知特性を持った「他者との関わり」です。
『自律神経の科学』による生理学的知見と、『他人を攻撃せずにはいられない人』『パーソナリティ障害』『ヒトは「いじめ」をやめられない』などの心理学的・生物学的分析を統合し、理不尽な攻撃から自身の自律神経を守るための「防衛プロトコル」を策定します。感情論ではなく、自身のパフォーマンスを維持するためにシステム的にまとめてゆきたいと思います。
1.スマートウォッチで記録された「攻撃」の痕跡
まず、他者からの攻撃やストレスを受けた際に、自分自身の身体の内部で何が起きているかを確認します。
1.1 交感神経への過負荷
スマートウォッチであるFitbit(フィットビット)を、私は、足首につけて、24時間からだのバイタル測定をおこなうようにしています。その解析によると、理不尽な攻撃を受けた際や、その出来事を脳内で反芻(思い出し怒り)している期間、私の安静時心拍数(RHR)は平均で+8 bpm上昇していました。『自律神経の科学』によれば、これは交感神経が常時オンになり、アクセルが踏みっぱなしになっている状態です。外部からの過剰な入力(ストレッサー)に対し、処理リソースが限界まで使われている「高負荷状態」にあると言えます。
1.2 二次被害としてのリカバリ失敗(睡眠障害)
この高負荷の影響は夜間処理にも及びます。交感神経の過活動は、通常であればシステムを冷却・修復すべき副交感神経の起動を阻害します。その結果、深い睡眠(Deep Sleep)が減少し、翌朝の心拍変動(HRV)が低下します。これは、夜間の身体修復プロセスが正常に完了せず、前日の疲労やストレスホルモンがクリアされないまま翌日を迎えることを意味します。この状態が続けば、システムダウン(うつや自律神経失調症)のリスクが高まります。
2.攻撃する相手の特性を理解する
なぜ、一部の他者は理不尽な攻撃を仕掛けてくるのでしょうか。「こちらの対応が悪かったのか」と自責の念に駆られることもありますが、心理学の専門書を参照すると、問題の本質は相手の「認知や行動の特性」にあるケースが多いことが分かります。
2.1 「万能感」と認知の歪み
攻撃的な言動をとる人物の中には、「自分は特別であり、ルールを超越できる」という肥大化した自己愛(万能感)を抱えているケースがあります。具体的な事例を分析すると、「自分だけは優先されるべき」「ルールは自分に合わせて変更されるべき」という思考回路が確認できます。彼らにとって他者は、独立した人格ではなく、自分の欲求を満たすための存在として認識されている可能性があります。そのため、こちらが正論で対応したり、思い通りにならなかったりすると、激しい怒りを表出します。
2.2 ターゲット選定のメカニズム
『他人を攻撃せずにはいられない人』によれば、彼らがターゲットにするのは、必ずしも「弱そうな人」だけではなく「能力が高そうな人」「幸せそうな人」「正論を言う人」などが、彼らの劣等感を刺激し、攻撃対象となることがあります。彼らは自身の抱える不安や葛藤を処理しきれず、それを他者に投影(プロジェクション)して攻撃することで、一時的な精神的安定を得ようとする傾向があります。つまり、その攻撃は、こちらの不備に対する指摘ではなく、彼ら自身の内面的な課題が外部に漏れ出している現象と捉えられると考えます。
2.3 行動原理の違い(System 1 vs System 2)
行動経済学の書籍『ファスト&スロー』の視点を借りれば、彼らは直感や衝動(System 1)で即座に行動しており、論理的・客観的な思考(System 2)による抑制が効きにくい状態にあると言えます。「事実」よりも「その時の感情」が優先されるため、過去の発言と矛盾が生じても、本人の中では整合性が取れている(ように感じている)と考えられます。この「行動原理の根本的な違い」を理解することが、まずは対策をたてることの第一歩となります。
3.自分自身の特性(どうして反撃・反芻してしまうのか)
相手の特性が明らかであるにもかかわらず、どうして私自身が、その言動を深く受け止め、反芻し、自身の自律神経リソースを消耗させてしまうのか?私自身が、軽度のASD(自閉スペクトラム症)の特性があり、私自身の思考パターンにも、特定の「脆弱性」が存在するためです。私のASD特性としては、世の中を「法則」と「ルール」で理解しようとします。「AならばBである」という予測可能性を重視するために、「必ず解があるはずだ」として反芻を継続してしまいます。そのため、解決不能なパラドックスを演算し続ける状態となり、脳のエネルギーと自律神経を限界まで使用してしまいます。
3.1 「論理的整合性」への執着
「なぜ彼は矛盾したことを言うのか?」「論理的に説明すればわかるはずだ」と考えがちです。しかし、相手が感情や衝動で動いている場合、論理的な対話は成立しません。異なるプロトコル(通信規約)で動いている相手に対し、こちらのプロトコルでの接続を試み続けることは、脳のエネルギーの無駄遣いとなります。
3.2 ドーパミン駆動の「正義の罠」
相手の非論理性を分析し、脳内で反論するプロセスは、一種の快楽(ドーパミン分泌)を伴います。「自分は正しい」と再確認することで得られる感覚には中毒性があり、これが「反芻思考」を止められない原因となります。しかし、この脳内シミュレーション作業は交感神経を刺激し続け、結果として自律神経のバランスを崩壊させます。