最新2月11日公開分(集計期間:2月2~8日)のビルボードジャパンソングチャートでは、ブルーノ・マーズ「I Just Might」が58→18位に急伸。洋楽の総合トップ20入りは珍しいのですが、しかし今回の上昇からは日本の音楽業界における問題が多々浮かんできたと捉えています。

(上記CHART insightは有料会員が確認可能なもので、20位未満の指標順位も明示されています(ビルボードジャパンでは有料会員が知り得る情報の掲載を許可しています)。また、以下に紹介するCHART insightも同様に、有料会員が確認可能なものとなります。)
ブルーノ・マーズ「I Just Might」は1月9日金曜にリリース。時差の関係で日本では同日午後の公開となり、1月14日公開分(集計期間:1月5~11日)のビルボードジャパンソングチャートでは総合100位に達していません。一方で初の1週間フル加算となった1月21日公開分以降は4週連続で総合100位以内に登場し、当週は58→18位へと急伸した形です。
「I Just Might」の原動力となったのは、CHART insightにて黄緑で表示されるラジオ。8→3→7→8→1位と推移し、当週初の首位に至っています。一方でデジタル指標群は強くはなく、ダウンロード(紫)は5週連続で300位以内に入り加点されながらも最高は1月14日公開分における85位。また動画再生(赤)は100位以内未達となり、300位以内ランクインは1月14~21日公開分にとどまっています。
そして重要なのは、当週の総合ソングチャートにおける上昇に際しストリーミング(青)が関わっていないという点。初動を押し上げるのみならずロングヒットにおいても最重要指標となるストリーミングは、「I Just Might」において直近3週連続で100位未満ながら300位以内に入り加点されるも、当週は300位に達せず加点対象から外れています。つまりこの接触指標が加点されたならば、当週の総合トップ10入りも有り得たはずです。
他方、ブルーノ・マーズ「I Just Might」において当週ラジオが急伸したのはなぜでしょう。この点について、指標の基となるプランテックのラジオオンエアチャート記事から背景をつかむことができます。ビルボードジャパンはこのチャートに基づき、調査対象局の聴取可能人口等を加味した上でラジオ指標を算出しますが、基となるプランテックのチャートでも「I Just Might」は首位を獲得しています。
2月27日にリリースを控えたアルバム「ザ・ロマンティック」からの先行曲となる同曲は、1月9日の配信リリースとともにFMを中心に広くオンエアが開始され、同週1月5日~1月11日チャートで12位に初登場。翌週さらに勢いをつけ3位へと浮上し、その後も大量オンエアをキープし続けると5週目を迎えた今週、前週比214%増と急伸。他を圧倒し首位へと上り詰めた。洋楽の総合1位は昨年3月10日~3月16日チャートでのレディー・ガガ「アブラカダブラ」以来46週ぶりだ。
全てのFM局ふくめ、調査対象の9割以上となるステーションでのオンエア獲得は、今週最も広範囲のカバー率。解禁当初より確認されてきたリクエストオンエア数も伸び、洋楽では最多数とさすがの注目度だ。ロゼとの大ヒット曲「APT.」(191位→18位)も相乗効果で急伸。アルバムリリースへ向け早くも盛り上がりをみせている。
プランテックの記事では「I Just Might」が、ロゼ & ブルーノ・マーズ名義での「APT.」共々急伸した旨が紹介されながら、しかし明確な理由は記載されていません。ただし、記事の後半には『洋楽勢が大躍進』『上位30曲では3割以上を占める結果』と記され、その一因としてグラミー賞が挙げられています(『』内は上記記事より)。
ガガやジャスティン4年ぶりTV歌唱、“アパトゥ”大合唱にディアンジェロ追悼…【第68回グラミー賞授賞式®】名場面を振り返る https://t.co/0pDvUxpqx5
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2026年2月9日
日本時間の2月2日月曜に開催された第68回グラミー賞授賞式ではロゼ & ブルーノ・マーズ「APT.」がオープニングを飾り、ブルーノはさらに「I Just Might」もパフォーマンスしています。2月2日は日本の最新チャートにおける集計期間初日に当たるため、「I Just Might」や「APT.」のラジオでの急伸はグラミー賞効果も大きいといえるはずですが、プランテックの記事ではその旨が記載されていません。
他方、記事の後半には「I Just Might」に関して、『定期枠でのオンエア積み上げ』という記載があります。同曲は2月27日にリリースされるニューアルバム『The Romantic』からの先行曲であり、国内盤も同日リリースされることから、日本のレコード会社による働きかけがパワープレイにつながったと捉えていいでしょう。なおこの働きかけは、特に男性アイドルやダンスボーカルグループにおける施策に共通するものと考えます。
もっといえば、当週の集計期間は首都圏ラジオ局における聴取率調査週間に該当します。この期間はここ最近のヒット曲がより多く流れる傾向にあり、高い知名度を誇るブルーノ・マーズの新曲に尚の事人気が集まったものと考えます(が、その旨も記事には掲載されていません)。
"グラミー賞効果" "アルバムリリース月におけるパワープレイ"そして"聴取率調査週間におけるオンエア曲の傾向"がブルーノ・マーズ「I Just Might」のラジオでの急伸につながったというのが自分の見方です。無論、これらの背景について推測の域を出ないと言われればそれまでですが、しかし少なくとも「I Just Might」の急伸をグラミー賞(でのパフォーマンス)と関連付けなかったプランテックの記事には違和感を抱いた次第です。
そして同時に、グラミー賞が開催されながら「I Just Might」のストリーミングが加点対象から外れたという事態は、グラミー賞が日本の(広義の)音楽ファンにリーチしなかった可能性、もっといえば洋楽離れを示すに十分かもしれません。またラジオとストリーミングのチャート上の乖離(グラミー賞で最優秀新人賞を獲得したオリヴィア・ディーン「Man I Need」はストリーミング自体未加点)も、あらためて浮き彫りになった形です。

日本では日曜の選挙を経て、排外主義(を含む排他主義)が加速するものと懸念しています。さらに、円安が進めば海外歌手による日本公演のチケットが高騰することが考えられるのみならず、円安に加えて日本の空気の悪化を懸念し日本公演を控える歌手も出てくるでしょう。たとえばバッド・バニーは米の悪政を踏まえ、昨年のツアーから米公演を外しています。
今後の不安材料を考慮すれば海外歌手の来日(公演)は減り、洋楽の浸透度は尚の事下がりかねません。洋楽を日本の音楽ファンにどう浸透させるかを音楽業界が考えることも必要ですが、その音楽業界がきちんと政治に向き合い意見を投じることが重要であるというのが私見です。