日本の音楽業界においてデジタルアーカイブが未だ徹底されていないことが、日本国内、そして海外でも再浮上の機会を逃していると捉えています。今回は直近における事例を採り上げます。
TWICEの日本人メンバーで構成されたMISAMOが10月9日にリリースした「NEW LOOK」は、安室奈美恵さんが2008年にリリースしたシングル(『60s 70s 80s』収録曲)のカバー。最新10月16日公開分ビルボードジャパンソングチャートでは21位に初登場を果たしています。


動画再生5位、ストリーミング28位と接触指標群が好調な「NEW LOOK」は、MISAMO側がLINE MUSIC再生キャンペーン(→こちら)を採用していることも影響しているといえます。一方でApple Musicも好調に推移、また直近10月19日付日本のSpotifyデイリーチャートでは23位まで上昇し、キャンペーンに頼らないヒットに成る可能性は十分です。
カバー版のヒットはオリジナルバージョンの注目度を高めると考えるのが自然なのですが、安室奈美恵さんは自身の作品をデジタル全般(ダウンロード、サブスクおよびYouTubeといったサービス)から昨年11月に引き上げており、フィジカルが一気に売れない限りオリジナル版がチャート返り咲きを果たすことはできません。
この引き上げについては昨年末のブログエントリーにて紹介しています(上記エントリー参照)。採り上げた記事では契約見直しや重複楽曲の整理が理由だとする関係者発言がありますが、安室奈美恵さん側が理由を明示する、メディアがきちんと取材するという姿勢はみられません(匿名の関係者発言をそのまま信じることは好ましくないと考えます)。そして現在も、引き上げの状態は続いています。
俳優の西田敏行さん亡くなる 76歳 東京の自宅でhttps://t.co/XmXz7dIr9f#nhk_video pic.twitter.com/dtAGp2Klyf
— NHKニュース (@nhk_news) 2024年10月17日
西田敏行さんの訃報は芸能以外でのニュース(番組)でも大きく採り上げられています。『NHK紅白歌合戦において、基本の4パターンである司会、歌手、審査員、応援(ナレーションを含めると5パターン)全てで出演経験があるのは西田のみ』であり(『』内は西田敏行 - Wikipediaより)、今年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)にて追悼企画が設けられるかもしれません。
西田敏行さんの作品は僅かながらサブスクでも解禁されており、そこには代表曲の「もしもピアノが弾けたなら」(1981)も含まれます。しかしながらYouTubeではミュージックビデオや公式オーディオは解禁されていません。またたとえばSpotifyにおいて、訃報後現在までに日本のSpotifyデイリーチャートにて「もしもピアノが弾けたなら」は200位以内に登場していません。
訃報を受け、主にラジオ、ダウンロードそしてカラオケが上昇する(受け手の行動が可視化される)ことは、ビルボードジャパンソングチャートの動向から証明されています(上記エントリーでは谷村新司さん、もんたよしのりさん、BUCK-TICK櫻井敦司さんの動向を紹介しています)。一方でストリーミングは伸びにくい状況です。
訃報を受け、KAN「愛は勝つ」は総合ソングチャートで100位以内に返り咲きました。サブスク環境が不十分ながらYouTubeでは公式オーディオが掲載され、動画再生指標が加点されたことが要因です(上記エントリー参照)。他方、西田敏行「もしもピアノが弾けたなら」はYouTubeに公式動画(オーディオ含む)が用意されておらず、YouTubeになければサブスクにもないとして、聴取が継続されない可能性が考えられます。
今回のエントリーの冒頭、『日本の音楽業界においてデジタルアーカイブが未だ徹底されていないことが、日本国内、そして海外でも再浮上の機会を逃している』と記しました。デジタルアーカイブの充実はいつ何時でもチャート上で再浮上する可能性を生み出します。しかしアーカイブの充実は、チャートでのヒットだけが目的ではありません。
デジタル未解禁を続ける歌手の、その背景にあるものは本人が語らない限りは厳密には解りません。フィジカル購入の促進、所属事務所やレコード会社側の意向、サブスク運営側への不信感等が想像できますが、サブスクユーザーにとってはそれら理由に関係なく、"気になった音楽を聴くことができない"という点において等しくマイナスです。
ましてやコアファンも置き去りにしかねない、また海外の音楽ファンが日本のエンタテインメント業界そのものに不信感を抱きかねないこともマイナスイメージに大きく作用します。日本のエンタテインメント業界側は総出で未解禁歌手や芸能事務所等の説得を試みるべきであり、それは同時にこれまでの不条理をなくす契機となります。今年は大きく業界が動いた年であり、これを機に健全化を図ることを強く願います。
安室奈美恵さんのデジタル引き上げやKANさんのサブスク環境不十分という状況を紹介した昨年末のエントリーにて、このようにまとめました。安室さんに関しては、先述したようにメディアがきちんと追及していないことも強く疑問視しています(推測記事が大半であり、憶測(もっといえば邪推)の域を越えないのもまた問題です)。
また引用部分の最後の一文はSTARTO ENTERTAINMENTの、前会社時代の創業者における性加害の社会問題化について記したものですが、前事務所を過度に忖度してきたメディアの姿勢も改善したとは言い難いというのが厳しくも私見です。保身、そしてその継続による慣例がみられる以上、その状況下でたとえばデジタルアーカイブの充実を問う声は出てこないのではと感じています。
それが日本の音楽業界におけるデジタル環境の充実を難しくしているならば、業界全体がきちんと話し合った上で個別ではなく一斉に舵を切らない限り、改善は難しいでしょう。悪しき慣例が、たとえばグローバル化(そもそもデジタル化しなければ掴めないことです)を遅らせる、そして海外音楽ファンの日本への信頼度を損なわせる可能性がある以上、自省のできない方が業界から離れることも必要だと考えます。