
2017年に鳩山ニュータウンに移住したアーティスト菅沼朋香さんが、焼き菓子作家の山本蓮理さんと共同開発した「空家スイーツ」。
高齢化率埼玉県No.1(令和3年現在)の鳩山ニュータウンの空き家等の庭に実っている果物を使用したロシアケーキだ。
原産地が空き家という、世にも珍しいスイーツに込められた想いやこだわりを作者の菅沼さんにうかがった。
「駐車場の屋根に実るキウイ」がスイーツになる

▲空家スイーツ(撮影:林ユバ)
ーあらためて「空家スイーツ」って、どんなスイーツなんでしょうか。
鳩山ニュータウン(埼玉県比企郡鳩山町)の空き家等の庭に、実っている果物を使ったロシアケーキです。クッキーの中心に果物のジャムをのせて、見た目がレトロで可愛くて、ニュータウンのイメージに合ってます。
鳩山ニュータウンのお土産として使ってもらいたかったので、日持ちさせるために焼き菓子にしました。
収穫の季節になったら実った果物をいただいてジャムにして、冷凍して使ってます。
ー原産地が空き家! 空き家の果物だけで足りるんですか?
果物を提供いただいてるのは空き家だけではなくて、具体的には空き家が4軒、お住まいの家が22軒ですね。空き家もふくめて持ち主の方に許可を得て、採取してます。
「うちの庭にも果物実ってるから、どうぞ!」って提供してくれる家がどんどん増えてます。
ー空家スイーツのラインナップを拝見すると、梅、八朔(はっさく)、柿、キウイにみかんと果物の種類、すごく幅広いですよね
最初は3種類だったけど、今では11種類まで増えてます。
キウイを提供してくれるお宅にうかがったら、駐車場の屋根を支えに、キウイのツタが伸びて実がなってました。八朔のお宅は、中古で家を購入した時には、すでに立派な八朔の木が生えてたそうです。

▲空き家の庭に実る金柑

▲空き家に実る、梅の収穫
庭があると、季節を感じられる
ー「空家スイーツ」を始めたのは、何がきっかけだったんでしょうか
2017年、鳩山ニュータウンに移住したのがきっかけですね。
移住したての頃、のちに空家スイーツを一緒にやる焼き菓子作家の山本蓮理さんと同じ職場、公共施設の「鳩山町コミュニティ・マルシェ」で働き始めたんです。
ちょうど彼女は、子どもの頃から好きだったお菓子を仕事にしようっていう人生の転換期で。コミュニティ・マルシェでシェアキッチンや手作り品の委託販売をやる計画があったので、私が声をかけて、東京からコミュニティ・マルシェまでわざわざバイトにやって来るようになりました。
鳩山町コミュニティ・マルシェでは、お菓子の委託販売をやってるので、彼女もお菓子を販売しようって思ったんですけど、町を活性化するための施設なので、地域外の人が作った物は、地域の原材料を使うことが条件だったんですね。

▲コミュニティ・マルシェの様子(撮影:林ユバ)
ーはい
でも、鳩山町の原材料って言っても、お菓子に使えそうな特産品が見つからず、直売所に探しにいってもピンとくるものがなくて困ってました。
そんな時、近所を散歩してたら、空き家の庭に柿が実って道路にぼとぼと落ちてて、カラスが食べてた。「鳩山産の材料があった!」ってピンときました。
そこから、空家スイーツの構想が出来上がりました。

▲収穫されず道に落ちていた、空き家の柿
ーそういう経緯だったんですか
空家スイーツは庭に実る果物を使ってるので、庭のある生活の豊かさを伝えたいなって思ってます。「庭なんてなくていいから、都会の便利な場所で住みたい」という需要が大きくなって、鳩山ニュータウンは衰退していったので。
鳩山ニュータウンは埼玉県内で高齢化率No.1で、空き家も増えてますし。
ー菅沼さんは移住されて庭のある生活をしてますが、庭のない生活とは何が違いますか?
季節感ですね。季節を感じます。
東京に住んでた時は、季節感を求めて、紅葉を見に秩父に行ったりしてました。
でも、庭があると、特別な旅行じゃなくても、すぐそこに季節が感じられるんです。

▲菅沼さんが運営する「ニュー喫茶 幻」。均質なニュータウンで多様性の開花を目的としたサイケデリックなコミュニティカフェだ(撮影:林ユバ)
ー季節感ですか。ちなみに、山本さんはまだマルシェでお仕事されてるんですか?
お菓子のお仕事で忙しくなって、1年ぐらいでマルシェは卒業されてます。
今は、お菓子の仕事をバリバリやってて、昨年法人化して、本も2冊出してます。シェアキッチンもご自身で3つ作ってるんですよ。
硬い食べ物が苦手な住民が多いから、柔らかなしっとり食感に
ー味には、どんなこだわりがありますか
果物のジャムをクッキーにのせて、果物の味をそのままダイレクトに感じてもらえるように作ってます。
ー確かに、食べてみたらフルーツ感がすっごいありました!
膨張剤や保存料といった添加物不使用で、身体に優しいのも特徴ですね。
開発当初から果物の種類が増えることを想定して、細かく改善を繰り返しまして。どんな果物にも合うクッキー生地にしています。

▲空家スイーツのセット
ー味だけじゃなく、見た目もカワイイですよね
いろんなロシアケーキをお取り寄せして、食べてみて、見た目の検討をしたんですけど。やっぱり、箱開けた時にいろんな形、いろんな色のクッキーが並んでて、宝石箱みたいな感じがいいなと。
宝石箱をイメージして、いろんな形を作ると、丸だったり四角だったり、何種類か形のパターンが必要。一口でジャムに到達する形もあれば、一口目はクッキーだけで食べる形も出てきます。なので、クッキーだけで食べても成立する味に調整してます。
ーすごいこだわりだ!
山本蓮理さんが、こだわって考えてくれてます。
それと、鳩山町には硬い食べ物が苦手な高齢の方が多いので、食感はしっとりとやわらかめに仕上げてます。
ー実際、どういう方が購入されてますか
地元住民の方が多いですね。
おばあちゃんが「孫への仕送りに入れます」って買ったり、鳩山の手土産に選んでくれたり。
ネット販売では、レトロ好きが買ってくれます。見た目がレトロで可愛いってInstagramに載せてくれます。地域創生に関心ある方は、鳩山町のふるさと納税の返礼品として選んでくれますね。
ー空家スイーツについて、今後の展望はありますか?
空家スイーツをきっかけに鳩山ニュータウンを知ってもらって、遊びに来てもらう流れが出来たらいいなと思ってます。そのために、SNSで募集した仲間と果物収穫体験を行ったりしています。
鳩山町コミュニティ・マルシェでは、鳩山ニュータウンの空き家を巡るツアーをやってるんですけど、そんな時に、「この木か~」とか眺めながら空き家スイーツ食べてもらいたいですね。
書いた人:松澤茂信

珍スポットマニア。日本全国1,000ヵ所以上のちょっと変わった観光地や飲食店を巡り歩いています。
- Twitter:松澤茂信
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