「塩狩峠」 三浦綾子 著

ネタバレを含みます。
あらすじ
明治時代中期の東京&北海道が舞台。
東京で永野家の長男として生まれた信夫は、母は生まれてすぐに死んだと聞かされ、祖母と父の3人暮らしだった。
祖母・トセからは日本男児として、男児かくあるべしと厳しくしつけられてきた。
そんな祖母が死んだとき、母親が信夫の妹にあたる待子を連れて現れる。
母はクリスチャンであったが(当時は)ヤソと呼ばれ蔑まれる存在であったため、厳格なトセから虐げられ、泣く泣く婚姻したまま別居とし続け、信夫には母は死んだと伝えていた。
そんな突然現れた母や妹、そしてキリスト教に戸惑う信夫。
徐々に打ち解けてはきたものの、今度は父にも死が訪れる。
一方で、小学校以来の友人であった吉川は北海道に引っ越すこととなった。
彼とは文通を続けていたが、妹のふじ子が肺を患ったことを知る。
そして23歳になった信夫は東京での仕事を片付け、新天地として北海道で暮らすことを決意した。
感想
50年以上前に書かれた作品。
まだ明治の前半であるため「士族」「町民」という価値観も残されています。
著者ご自身もキリスト教信者だったり、結核を患っていたりと実体験を交えて書かれたようですね。
主人公の信夫の心情が丁寧に描かれています。
幼い頃から大人になってまで、葛藤や苦悩、時には自惚れなども交えながらも徐々に成長していきます。
性欲に悩んだり、愛に悩んだり、死について悩んだり。
悩み多かった故、そして友人・吉川というかけがえのない存在によって芯の通った人物になりました。
そういった思考や言葉が淡々と書かれていますが、するすると入ってきます。
キリスト教の部分は私にはよくわかりませんのでラストの方は少し共感できませんでしたが、彼の人生が徐々に定まっていく様子は良い描き方でした。
キリスト教に嫌悪も畏敬も何もありませんが、キリスト教に限らず信仰により救われることは多々あるのかなと。
最後の方は泣きながら読んでいました。
久しぶりに感涙できる作品でした。
ちょっと余談。
吉川のような友人も羨ましく思いますが…
大阪に暮らす、親戚の隆士という人物がいて時々現れます。
信夫を吉原に連れて行こうとしたこともありましたが、(吉原がいいかは別として)そういう身近な大人~兄貴的な存在っていいなあと思います。
兄はいるので遊んではもらいましたが、そういう未知の体験を提供してくれる感じではなかったですし…
子どももいませんが、甥っ子に対してはそういう叔父になりたいものですね。
ネタバレと父の思い出
よく文庫本の後ろにあらすじが書いてありますが。そこには最後の大オチとそこに至る過程が完全に書かれているんですよね。(むしろ少年時代のことは全く書かれてませんでした)
中学生くらいの頃、父親からこの本を渡されたんですよね。
父がこれ以外に渡した本と言えば、「坊っちゃん」と「ファーブル昆虫記」くらいだったと記憶しています。
その際にも一応読んだはずですが、全く覚えておらず、幸いにも後ろのあらすじも目にする前に読み終えました。
父親が私に薦めた頃は40歳半ばだったでしょうか。
自分も40歳となり当時父親の年齢に近づいたときに、たまたま本屋でみかけたので読んでみました。
途中途中にも、いい言葉はあるんですよね。
完璧な引用ではないですが、
「日常で言ったこと・為したことは全て遺言と思ってもらいたい」
「人間はその時その時で自分でも思わないような人間になる」
などなど。
何となく、父親が思春期の私に読ませたかったという気持ちも分かりますね。
(まだ父親生きてますけど)