オデッセイ。
この車名の語源には、「波乱万丈の長旅」いう意味があるという。
古代ギリシャの長編叙事詩『オデュッセイア』に由来とか。

それを、もう少しすると、手放すことになる。
長い間ありがとう、なんて
まだ少し照れくさくて言えないけれど、
確実にその日は近づいている。
2010年式のオデッセイ。
大きくて、重くて、
でもどこか頼もしかった。
助手席には、いつもカミさんがいた。
何気ない買い物の帰り道。
病院へ向かう静かな朝。
意味のない会話と、意味のある沈黙。
あの車の中に、確かに時間が積み重なっている。
買い替えを決めるとき、
いちばん迷ったのはそこだった。
車を替えることは、
思い出を置いていくことなのではないか。
でも、ひとつだけ決めていたことがある。
ナンバーは変えない。
あの数字は、
私とカミさんの誕生日を組み合わせたものだ。
ただの数字ではない。
長い間、前と後ろに付いて走り続けた、
二人の小さな印だ。
車は変わる。
けれど、その数字はこれからも一緒に走る。
思い出は車の中にあるわけじゃない。
自分の中にある。
そして、ナンバーという小さな形で、
これからの車にも引き継がれていく。
だからこれは、別れというよりも一区切りだ。
オデッセイ、本当にありがとう。
あなたが運んでくれた時間は、
ちゃんと次の車にも続いていく。
助手席の記憶も、
ナンバーの数字も、
そして私自身にも。