一応、当ブログでも微妙に配慮してGeopoliticsを「地政学」と言ったり「地政論」と言ったりしてきましたが、個人的にはどちらでもいいとは思っています。そんなに重要なポイントではないです。
今回は「これはそもそも日本の学問全般についての課題ではないか」と少し思ったので、Geopoliticsだけでなく全般的な視点について考えてみましょう。
日本の事情
「Geopolitics(地政学)は、"学"と付いているが学問ではない」が日本での通説です。
たしかに日本のアカデミックな環境において学問としての体制や制度は整っていませんし、方法論的な統一性も無く、専門的な学部・学科があるわけでもありませんので、地政学は学問ではないとした指摘は妥当と言えます。
何より、戦前・戦中に軍事を正当化する目的に使われていた過去があることから、日本のアカデミーから根源的に忌避されている分野であることは間違いないでしょう。
ただ、「Geopolitics(地政学)は学問ではない」と暗記してしまうのは少し問題です。
「Geopolitics(地政学)は(日本では)学問ではない」のであって、海外では学問として取り扱われることもあるのですから。
日本と海外の違い
大学のプログラムをまとめたサイトを見れば分かりますが、日本には無いだけで、例えば欧州には地政学の学士・修士課程プログラムなどがあります。
◆https://www.educations.com/geopolitics
もちろんメジャーな学問に比べれば少ないですが、「学問ではない」と言い切れるほどではありません。古典地政学はだいぶ衰退したものの、批判的地政学はむしろ立派な学問分野になっていると言えるでしょう。
上のサイトでも分かるように、米国でも地政学を専門で教える学校はありますし、また、国際関係論や安全保障学の分野では頻繁にGeopoliticsが用いられています。
つまり日本ではそうではないだけで、地政学は国際的には学際的な基盤を持つ認められた学問分野として理解することが適切です。
お国柄と学問分野
日本では学問とされていないが、海外では学問とされている。或いはその逆に、日本では学問とされているが海外では学問として確立されていない。
これは地政学に限った話ではなく、むしろよくある現象と言えます。
学問とは自然物ではなく「社会的な承認に基づくカテゴリーの名称」であり、何を学問とみなすかが社会によって異なるのは自然なことです。
例えば「国際関係論」は欧米では巨大な学問分野ですが、日本ではメジャーではなく政治学の一部として扱われることが多いでしょう。「安全保障学」も海外では一般的ですが、日本では軍事への社会的抵抗が強いために学問分野として確立されていません。
他にも「宗教学」や「メディア研究」、「文化人類学」や「ジェンダー研究」辺りが、海外ではメジャーな学問で、日本ではメジャーではないか、そもそも学問として確立していない分野の例として挙げられます。
率直に言ってしまえば、日本では学問を保守的・権威的に捉えている傾向があると言っていいでしょう。言い換えれば、社会的インパクトや学問の影響力ではなく歴史や伝統といった"格"を重視する傾向があります。
データサイエンス学部の新設ラッシュなど、日本でも近年は新しい学問分野への適応速度が高まってきたとは思いますが、そういった学部を見て「最先端・革新的・社会的需要が高い知のフロンティア」と捉えるか、「データサイエンス学部なんて聞いたことがない、それは大丈夫なのか、ちゃんと学べるのか、就職できるのか」と捉えるか、どちらかと言えば保守的な後者の発想になる人が多いかと思われます。
人々が後者のように考えるのであれば、新しい学問分野が日本で育ちにくくなるのは必定です。
結言
良否や善悪を断定したいわけではありませんが、個人的には学問分野が発展しやすいほうが世のため人のために良いのではないかと思っていますので、新しい学問分野が芽吹きにくい日本の傾向は課題だと考えています。
とはいえ、別に悲観的ではありません。データサイエンス学部の新設ラッシュが起きているように、日本でも風潮は変わってきていますので、今後は日本でも新しい学問分野がどんどん発展していくことでしょう。
余談
実のところ、この辺りは文化的な差異が一番大きいのではないかと思っています。
海外、特に欧米は体系化・細分化していくことを好むので、新しい学問分野が次から次へと登場する。
対して日本は枠組みを決めてから要素を考えるため、新しい学問分野を作ることが得意ではない。
どちらが良い、どちらが偉い、という話ではありませんが、そのような差異がありそうです。
海外では物事を「体系的」に分類することが一般的です。
欲求についても一次的欲求・二次的欲求など構造的な体系を構築しています。そしてその中に入る要素数は固定的ではありません。
対して日本はどちらかと言えば有界集合による分類を好みます。「三大〇〇」に限らず、「御三家」「四天王」「五大」「八景」「十大」など、まずは範囲を事前に定義して、その中に要素を入れ込むことが一般的です。