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「正義の味方」から考える正義の暴走

 

 自らを「正義」と定義する人は、誰を「悪」と見なしているのか

 

「正義の味方」

 ヒーロー番組「月光仮面」から使われ始めた言葉である「正義の味方」。

 「正義の味方」とは、人々の正義に寄り添い、人々を支え、時に助ける存在です。

 

 「法の番人」が法そのものではないように、「正義の味方」も正義そのものではありません。あくまでも"正義に味方する者"です。

 日本を代表する「正義のヒーロー」アンパンマンも、彼は自らを正義だと定義してはいません。彼は困っている他者を助ける者、そして人々の幸福・安全・生活を守る者であり、誰かが正義とみなした価値の側に立つ正義の代理人です。

 

 月光仮面しかり、アンパンマンしかり、「正義の味方」が正義そのものではないならば、なにが正義か。

 それは、基本的には大衆です。

 「大衆こそが正義である」、それが"社会的正義"の本質となります。

 

正義≒大衆

 「正義の味方」は大衆が悪とみなすものを倒し、大衆が善とみなすものを守る役割に従属する、言わば大衆の価値観を体現する存在です。

 もちろん正義それ自体は単一的なものではない以上、大衆とは異なる正義を持つ人の側に立つ「正義の味方」も存在し得ます。

 しかし基本的に物語的な「正義の味方」は大衆に支持されるものであり、それはすなわち正義≒大衆であることを裏付けていると言えるでしょう。

 少なくとも社会とは大衆であり、社会における正義とは大衆の価値観を指します。

 

 翻って、"自らを正義と定義する者"は「自らの正義の味方」です。その正義は大衆からの支持を受ける社会的正義ではありません。

 むしろ自らの正義と社会的正義にズレが生じているからこそ、そういった人は大衆ではなく自らを正義と定義します。

 そして正義と対立するものは敵であり悪である以上、自らを正義と定義する者にとって、大衆こそが悪であり、大衆こそが敵となります

 

大衆の正義と敵対することの意味

 率直に言って、自らを正義と定義し、大衆を悪、大衆を敵とみなすことはあまり望ましくない心理状態です。

 大衆とはすなわち社会です。社会が敵であると感じる心境は孤立感を生み、非常に息苦しい世界観を生きることになります。

 さらに、社会を敵と感じると、常に悪から取り囲まれているように感じ、被害妄想的に社会から攻撃されていると認識されてしまいますし、それらの認知的不協和を解消し自らの正義を正当化するためには大衆を攻撃して悪を打ち滅ぼすしかありません。

 そのような心境は独善的な「正義の執行」や「悪への制裁」といった正当化を引き起こし、果ては自らの攻撃性を免罪する心理を生じることでしょう。本来、如何なる道徳観においても「他者を攻撃すること」は悪のはずなのに。

 

 また、自らを正義と定義する行為は自己修正力を致命的に損ねます。

 何故ならば、正義は正しいからです。

 「自分は正義であり、正義は正しいのだから、自分は正しいのだ」

 「誤りを認めることは正義の敗北であり、それは悪である」

 ここまで到達してしまうと、もはや容易なことでは正道に戻ることができません。

 

 個人に限らず、社会にとっても悪影響をもたらします。

 自らを正義と定義し、大衆を悪とみなす人は、社会を監視して大衆を裁き正義を実現しなければならないと考えます。それは一種の独裁的な裁判官です。

 大衆を次から次へと吊るし上げようとする人はSNSでもよく見かけるかと思いますが、それは自由な言論の封殺と社会の委縮を引き起こします。

 さらに言えば、個人あるいは少数の正義が強制されて大衆が「悪」として沈黙させられる社会は民主主義の真逆、独裁であると言わざるを得ません。それはとても不健全な状態です。

 

結言

 繰り返しとなりますが、「正義の味方」とは、人々の正義に寄り添い、人々を支え、時に助ける存在です。

 しかし「自らの正義の味方」は他者を攻撃するための武器として正義を用います。そこには対話も、多様性も、自己修正も、寛容もない、正義を名乗る者による道徳の独裁です。社会としては許容し難い考え方と言えます。

 もちろん大衆の正義が常に本質的な道徳性を備えているわけではありませんが、少なくとも大衆の正義を否定して敵対する行為それ自体も決して道徳的な結果をもたらさないことには注意が必要でしょう。

 大衆の正義に疑義を持つのであれば、すなわち社会にもっと道徳をもたらしたいのであれば、正義をぶつけ合うのではなく、別の対話的な方法をとる必要があります。

 




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