
こんにちは。estieでプロダクトマネージャー(PM)をしている三橋です。
このブログは「PM Blog Week」第6弾・1日目の記事であり、3月24、27日に開催予定のMeetupに向けた連載の一部としてお届けしています。
ここ1〜2年のAIの進化のスピードには目を見張るものがあります。特に生成AIが登場してからは、
- SaaSはAIエージェントに置き換わるのではないか?
- PMの仕事はなくなるのではないか?
といった議論を目にする機会も増え、PMとしては刺激的な状況になってきていると感じています。
一方で、こうした議論は少し抽象的すぎる気もしています。AIがすごいのは分かります。でも、自分のプロダクトにどのような形で影響してくるのか実感が湧かない、という方もまだまだ多いのではないでしょうか。
そこで今回は、少し逆視点からの思考実験をしてみたいと思います。
「もしAIが進化したら、自分のプロダクトはどうやったらオワコンになるのか?」
です。
プロダクトを作るPMとしてはあまり考えたくないテーマですが、逆に言えば、ここを考えることで「AI時代でも残るプロダクトの価値」や「AI時代にPMがやるべきこと」が見えてくる気がしています。
なお、この後に続く思考実験は、あくまで個人の妄想を含む架空の例であり、決してこのようなSaaSやPMの働き方を批判・否定する意図があるわけではありません。
思考実験:自分のプロダクトがオワコンになる未来
まずは、分かりやすく架空の例を置きます。いま自分がPMをしているプロダクトが、仮にこんなSaaSだったとします。
- 業務データはユーザーが画面から手入力する
- 入力されたデータをもとに、決められたロジックで集計する
- ダッシュボードは決められた形式でのみ見られる(KPIやレポートの型が固定)
いわゆる、
- 業務データをデジタルに置き換えて情報を見える化し、意思決定を前に進める
というタイプのSaaSです。
では、AIが進化すると、このSaaSにどのような影響が起こる可能性があるでしょうか。
結論から先に述べると、このSaaSが提供している価値のうち、少なくとも「入力」と「出力」は、かなりの部分がAIに置き換わる可能性があると思います。
例えば、
- 手入力が不要になり、請求書・議事録・メール・PDFなど、あらゆるファイルを投げるだけでAIが構造化し、必要な項目を抜き出して登録してくれる
- 出力は固定フォーマットに縛られず、欲しい形のアウトプットを自然言語で指定してAIが自由に作るようになる
という世界です。
要するに、
- データを入力すること
- データを整形して出力すること
この2つが、AIによって急速にコモディティ化する可能性があります。
そうなると、極論、
「このSaaSは本当に必要なの?」
となる可能性があり、冒頭の以下の2つの懸念が頭をもたげるのです。
- SaaSはAIエージェントに置き換わるのではないか?
- PMの仕事はなくなるのではないか?
ここまでが、今回の思考実験の前提です。
では、このような世界でSaaSが生き残るには何が必要なのか。そして、結果として、PMは今後何をしていくべきなのかを考えてみたいと思います。
プロダクトの価値を3つに要素分解してみる
多くのプロダクトは、シンプルに整理すると次の3つの要素で構成されていると思います。
❶ データ ❷ モデル(ロジック / AI) ❸ インターフェース(UI)
そして、これまでのSaaSは、この3つを組み合わせることで価値を提供してきました。
しかしAIの進化によって、
- ロジック
- UI
といった部分は急速にコモディティ化していきます。
つまり、相対的に価値が集中するのは「データ」です。ただし、ここでいうデータとは単なるデータ量ではありません。重要なのはその業界特有のデータ構造です。
AIはデータモデリングを代替できるのか?
ここで一つ疑問が出てきます。
AIはデータモデリングを代替できないのか?
です。結論から言うと、部分的にはできるが、本質的にはまだ難しいと思っています。
AIは、
- SQLを書く
- テーブル構造を提案する
- ETLを作る
といったことは得意です。
しかし、データモデリングの本質は業界の実体をどう抽象化するかだと思っています。
例えば不動産であれば、
- 物件
- フロア
- 区画
- 契約
といったエンティティがあり、それぞれが
- どういう関係にあるのか
- どの粒度で管理するべきか
- どのように履歴を持つべきか
を定義する必要があります。
そして、これは単なるデータ設計ではなく、業界理解 × 業務理解に基づく設計です。
AIは既存の構造を学習することは得意ですが、業界の正しいデータ構造を発明することはまだ簡単ではないように思います。だからこそ、Vertical Dataの価値が高まっていくのだと思います。
Vertical Dataという考え方
Vertical Dataは特定の業界の構造を理解したデータと言い換えることができます。
例えば不動産であれば
- 建物構造やスペック
- 区画構成
- 募集情報
などです。
そして重要なことは、繰り返しになりますが、Vertical Dataはデータだけではなくデータモデリングを含むという点です。つまり、Vertical Dataはこの業界のデータはこういう構造で管理されるべきという知識そのものと言い換えることができるのです。
Vertical DataがVertical AIを生む
AIはデータの上に成り立ちます。
そして業界に特化したVertical AIを作るには、同じく業界に特化したVertical Dataが必要になります。
つまり、
Vertical Data ↓ Vertical AI
という関係です。
例えば不動産業界であれば、
- 募集条件のシミュレーション
- 提案賃料の作成
- 市場分析
といった業務は、Vertical Dataがあることで初めてAI化できます。
逆に言うと、Vertical DataがなければAIはただの汎用ツールの範囲にとどまる可能性が高いです。
Vertical AIとは?
Vertical AIとは、特定の業界に特化したデータと業務プロセスを理解したAIのことです。例えば不動産であれば、提案資料の作成、売買物件の登録、各種調査など、不動産業務特有の作業をAIが支援する形になります。その際に重要になるのが、業界特有のデータです。物件・賃料・入居情報などの Vertical Data とAIが連携することで、単なる汎用AIでは実現できない業務体験が生まれます。
AIがUIとロジックを溶かすとき、残るもの
estieはこれまで、不動産に関わるさまざまな領域でデータを集め、整備し、構造化してきました。その過程で、不動産という業界のデータ構造そのものを作ってきた会社だと思っています。
言うなれば、Vertical Dataそのものを作ってきた会社であり、いまはその上に多くのVertical AIを構築している真っ只中にいます。
AIが進化すると、UIやロジックはどんどん作れるようになります。プロダクトの形も、これまでのようなSaaSという形に限らなくなるかもしれません。
しかしその一方で、業界特有のデータとデータモデリングの価値は、むしろ高まっていくのではないかと思っています。なぜならば、AIが業務を理解し意思決定を支えるためには、その業界の構造を理解したデータが必要になるからです。
ここでタイトルに戻ると、
AIがUIとロジックを溶かすとき、最後に残るのは Vertical Dataとデータモデリングなのだと思っています。そして、これからのPMはVertical Dataとデータモデリングに向き合っていく必要がある。それが現時点での私の結論です。
最後に
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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