前回:

今回の記事を更新するにあたって他の方の宿泊体験も参考にしよう~といろいろ検索していたら、旅行ブログの体裁を取ってはいるけれど実は著者の体験ではなく、wikiや公式サイトの記述だけを(半ば)コピペして編集しただけの「生成AI系ブログ」が引っかかって頭を抱えていた。とりあえずスリランカ旅行でしか調べていないけれど他の国バージョンもいくらでもありそう。多分、数えきれないくらい。
そういうサイトに掲載されている画像は本人が撮影した写真でも描いた絵でもなく、明らかに現地にないものや存在しない風景のような何かが視認できる、でたらめなイメージ。役に立たないだけでなく面白くもない、とはまさにこのこと……。
それから別件の調べ物の最中には、書評ブログの体裁で、自動生成したでたらめな小説の概要をのせているウェブサイトにも遭遇する。読んでみると本文に登場しない嘘の登場人物についての紹介もあって笑えない……いや、その作品そういう物語じゃないから。
こういった虚に虚を重ねたインターネット上のコンテンツが増えていくのだとしても、私は私が考えた事柄や実際に体験した事象、脳裏に浮かんだ風景などを実際に自分自身で書くことをやめないだろう。
Heritance Tea Factory "The Tea Factory Hotel"
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来歴概略
ホテルの前身であった施設は、かつてのHethersett Tea Plantation(ヘザーセット・ティー・プランテーション)内に存在していた紅茶工場である。
1870年代。当時のスリランカ(英領セイロン)政府により売りに出された、まだ開拓の手が入っていなかった土地に入札をして、最初の所有者となったのがW・フラワーデュー氏だった。プランテーションの名はタミル語だとPupanie(英:Flowers of Frost)といい、まるで、海抜約6800フィートの場所にあるこの土地に霜が降りる様子を詩的に表したようだが、それは同時にフラワーデュー氏の名前(Flowerdew)の言い換えでもある。
1891年にロンドンのミンシング・レーンにて競売にかけられたヘザーセット産の茶葉1ポンドは、当時の平均価格の約30倍……1ポンド10シリング6ペンスで落札されたという。この概要はホテルの各客室の壁にも飾られていた。


参考:
1968年までにヘザーセット紅茶工場は最盛期を過ぎ、機械類も時代遅れだと判断されて、やがて閉鎖へと至った。建物自体は取り壊されずに放置されていた。
それが現在のような高級ホテルに生まれ変わるきっかけは1992年、エイトキン・スペンス社(Aitken Spence & Co. Ltd.)のディレクターがこの地を訪問したこと。改装にあたって同社は操業時の設備を極力残す方針で工事を行っており、それゆえ宿泊施設となった今も、いくつかの機構はまだ運転が可能な状態にある。
私も実際にその一部が動くのを見ることができた。
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館内の様子
高地の雰囲気

赤道からさほど離れていないように見える、晴れた日中は酷暑のスリランカでも、標高が高ければ夏でも朝晩はかなり気温が下がる。とりわけ秋や冬であれば想像以上に冷えると言っていい。
ゆえに館内各所には暖房器具が備わっているのだ。避暑地の山小屋か、別荘のような。
ビリヤード台の雰囲気も山荘ホテルの趣が濃い。幼少期に家族旅行などで連れて行かれたような場所の数々を連想させられるのが、個人的にはなんともノスタルジックな感じだった。例えば軽井沢みたいな……あとは最近再注目されているようなところだと清里とか。「昔、暑い季節に訪れた高原や付近の町の記憶」はどうしてこうも心に残るものなのだろう?



ビリヤード台のある部屋、メタリックでメカニカルで視覚的に楽しい、パイプが並んだセントラルヒーティング的な壁の暖房はさすがにまだ作動していなかったけれど、エレベーター横にあったストーブには薪がくべられていた。古びた感じの飾りの薬缶。扉に嵌め込まれた、くすんだガラス越しにゆれる炎が心地よい。
それからまるで白壁のドールハウスに見えるのは、1915年につくられたアポロ・ファイアプレイスの展示。置いてあるのはロビーに並んだソファの近くだった。
このヘリタンス・ティー・ファクトリーではチェックイン時にロビーのソファに案内されると、まずおしぼりを渡されるので、それで手を綺麗にする。するとしばらくして戻ってきたスタッフから手に氷砂糖をのせられて……それに併せて提供されるのが1杯の紅茶。口の中で砂糖を溶かしながら、温かな一杯を味わう。

甘いという以外には風味に乏しい砂糖が、砂糖であるからこそ、とても端正に紅茶の香りを引き立たせるのだろう。束の間の至福の時間。茶液に溶かしてしまうのではなくて別々にしておくというのはロシアンティーのジャムのようだと思った。帰宅したらそれもやりたい。マーマレードでもいいし、レモンカードでもいい……。
そういったことを考えながらカードに宿泊者情報を記入して、荷物をポーターに任せたあと、次に案内されたのはエレベーターだった。
手動エレベーター
この日の朝にキャンディの紅茶博物館で乗ったものと似た形で、こちらのエレベーターもまた扉が二重になっており、その都度自分で開閉する必要がある……のだけれど、すっかり自動式に慣れているのでカゴが到着してもただ突っ立ったまま待ってしまう。そもそも横に引けばいいのか、手前に引けばいいのか?
なにぶん古いものなので失敗したら壊れてしまうのではないかと怖くなる。エレベーター破壊不審人物として認識されてしまったらどうしよう。覚悟を決めて取手に向かい、腕を伸ばす。



使用中の状態で光る〈IN USE〉の赤いボタンが飴玉のようで本当に素敵。じっと見てしまう。カゴの内部は金色の壁に囲まれていた。製造元として、ヘリタンスのインスタグラムではWaygood OTISの名前が挙げられていたので英国製だろう。
エレベーターの周辺を取り巻くように階段が設けられているので、そちらを昇降しながらでもカゴの上下を観察することができて面白かった。わりと内部の空間が狭いため、あまり他の人と一緒に利用するのもなと思い、私ははじめに案内された時と最後に荷物を下ろす際を除いては使わなかった。知らない人は苦手。閑話休題。
目的階の客室へ向かう途中、縦に長い吹き抜けの空間に圧倒された。改めてここが、収穫された茶葉が加工されるために運ばれてきた場所なのだと思って。幾千幾万、幾億枚もの新芽が建物内を旅して、最後に梱包されて海を越えていった。ぼんやりした想像が大きく翼を広げ、不意にゴウンゴウンと何かを巻き上げる機械の音が耳に届いた気がしたが、どうやらそれは気のせいではないようだった。
階段の方へと向かう。
作動する機械


1日のうち、夜の決まった時刻になると作動するナショナル・ジェネレーター。そのラクダ革のベルトを辿って再び下の階におりると、説明板を読むことができた。これもまた前述したエレベーターと同じく英国製、1930~32年にバーミンガムで作られたもので、製造会社はWalkers and Sons&Co. Ltd. とある。昔の動力室(今のホテルのキッチン)からここに移されてきた。
最大80馬力で動かすことができるシングルシリンダーのエンジンは写真で見る印象よりもかなり巨大で、本当かどうかは分からないのだけれど、おそらく建物にこの機械を運んでくるためには象(elephants)のみが有効な手段であっただろうと書かれていた。そんな光景を遠くから見てみたい。
かつてヘザーセット工場を支えていたわずか2つの強力なエンジン、そのうちのひとつであるこのジェネレーターは現在、ホテルの宿泊客に雰囲気を楽しんでもらうために5馬力程度で動くよう調整されている。
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客室
ダブルルーム


自分の部屋に到着したあと、写真を撮るなどして時間を過ごしていたらポーターが荷物を持ってきてくれた。作法が本当に分からないけれどチップを渡してみる。個人的に建物内ロストバゲージ(とは……?)が異様に気になってしまうため、階段だろうとエレベーターだろうと自分の荷物は自分で持って歩きたいものだから、ラグジュアリーなホテルでの宿泊に本当に向いていない! と感じる。
でも今回は紅茶がテーマのひとり旅、どうしてもどうしても元紅茶工場の建物には宿泊がしたかったのだ。
壁の掲示に目を通すとどうやらこのフロアは現役時代、萎凋(withering)の過程で使われていた場所のようだった。工場見学時の復習になるが、紅茶になる茶葉は萎凋の過程を経て、次に揉捻の段階へと移る。ああ、それにしてもなんて好みに合う部屋の佇まいだろう。



大きな窓の木枠も、赤と緑を基調にした設えも素晴らしい。ドレスコードを示すクラシカルな金属製のプレート、書き物机、ミニテーブルを挟んで向かい合わせになったソファ、どれを前にしても黙ってはしゃいでしまう。私は何か任務を背負ってヌワラエリヤに来たのだという妄想を少し楽しむ。
まあ、実際は唐突に「万事滞りないか」などの連絡が謎の同僚から入ることもない、個人的な目的以外が皆無のお気楽旅行なのだけれども……。それもまた贅沢なのかもしれない。何をしに訪れるわけでもなく、その場所を味わって帰る。早いところ部屋着に着替えてゴロゴロしたい気持ちと、夕食の際にもう一度ワンピースを着なければならない面倒さが拮抗して、そのまま本を読み始めることにした。山尾悠子の『ラピスラズリ』。
館内の温度はほどよく整えられており、過ごしやすかった。



シャンプーやコンディショナーが充填された黒い壺は可愛いけれど、ちょっと頑張ってブンブン振らないと細い口から中身が出てこないのが玉に瑕。いや、あえてそういう風にしているのだろうか。実際の意図は不明。
それにしてもユニットバスって使いにくい。住宅で風呂トイレが別々であることの大切さを強く思う。
それに目を瞑れば洗面台は広く、鏡も大きく、身支度のしやすさは申し分ない。友達と泊りに来ても準備が混みあわなさそうで良い。
窓からの眺め
そのあとは空の色が青から紫へと推移する、いわゆるマジックアワーというものを堪能した。



日没前の美しい色彩には心を奪われ、しかも工場らしい四角い煙突が目の前にドドンと見える状態はまさに私向けの部屋の配置といえて、大満足。夕刻だけではなく朝の印象の方も同じく。この壁の大部分が窓であることによる、独特の光の入り方が大好き。
俯瞰すると、高い煙突の根元に広がる芝の上にはブランコがあり、いつでも散歩に出ることができる。
毎日のように降る激しい雨とそのあとに訪れる晴れ間、湿度を含んだ空気を感じながら敷地内を歩き回るのは素晴らしい気分転換になるだろう。もちろん、部屋の大きな窓から雷を眺めるのも、また。
紅茶!紅茶!紅茶!

ヘリタンスの客室に備えられている茶葉はティーバッグのものではない。
茶葉の大きさが異なるBOPとPekoe、それぞれのリーフが金属の袋に入れられていて、銀色のティーポットに自分で投入し蒸らして飲む仕様。もちろんストレーナーもついているし、人によっては必須のお砂糖もきちんと用意してあるのに加えて、やはり「元紅茶工場ホテル」の極め付きはパックのミルク(生乳)も準備されているところか。
そう、これ、これこれこれこれこれこれ! これだよ~と大喜びしながらお湯を沸かし、さっそく飲み比べを楽しむ。どちらも最初にストレートで飲んでから、同じようにミルクを混ぜ、風味の変化も確認する。


ペコーの方が裁断されておらず、茶葉が大きい分、ブロークン・オレンジ・ペコーに比べるとすっきりした味わいのはずなのだが、今回は前者もわりと濃く抽出されてはっきりとした印象を受けた。湯量に対して少し茶葉が多かったのかもしれない。どちらにせよ、美味なことには変わりなかった。
そしてミルクを加えた際の舌触りの変化が個人的には驚きで、なんとなくインドのアッサムティーを連想させる感じがあり、不思議だと思う。わずかにトマトのようなふくよかでフルーティーな風味、これはもしかしたらお茶それ自体だけではなく牛乳の種類にもよるのかもしれない。もしくは普通に水質の話でもあるのかも。
客室に置いてあったミルクにはAMBEWELAの文字があり、今度現地でこのパックを見かけたら買って他のお茶でも試してみたい気がする。
新鮮なリーフの産毛がしっかり浮いた、おいしい2杯だった。
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食事
夕食


夕食と朝食、どちらも会場は同じで、形式もバイキング。きちんとした感じの料理が並んでいるものの、なかなか自分が食べられそうなものを見つけるのが難しくて悩んでしまった。
前にも書いたことがあるかもしれないけれど、私は「お皿を持ったまま歩く」必要があり、さらに「歩きながら何を食べたいか考える」必要も発生するこの行為を非常に苦手としている。マジのマジで一度にひとつのことしか考えられないので、基本的に席に座ってすべてが運ばれて来るのをおとなしく待っていたいのであった。この時も皿選びがまずかったのか「そのお皿はパスタ用です、マダム」などと係の人に言われる始末。放っておいてほしい。見逃してほしい。
しかしここでそんなことも言っていられないので、とりあえずパパダムみたいなものと、揚げられた鶏肉のようなものと、さらにそれとはまた異なる揚げられた鶏肉のようなものを皿に取る。それに、酸味のあるソースみたいなものを添えてみた。もう何も分からない。デザート的な扱いとして白羽の矢を立てたのが水牛のヨーグルトとチョコソース、カスタード。
全面的に「選ぶのが下手くそ」な感じが出ているけれどもう仕方ない。


ちなみにテーブルごとに給仕のスタッフが付き、飲み物の注文を聞いてくれたり、何やらメニューを渡してくれたりするので、追加料金で良ければ何かアラカルトで頼める料理もあるのかもしれなかった。勇気がないのと胃袋が小さいのとで冒険はやめておいたけれど、気になる名前のカクテルがあったのでそれだけ試してみることに。
きれいな赤いベリー色をした液体、添えられた苺、ティー・ファクトリー・クイーンと呼ばれていた。
紅茶とココナッツジュースと苺と……あとなんだっけ、ウォッカか何かが配合されている。すっきりしていて酸味の奥にほのかな甘さもありおいしかった。なお、食後にはティーが運ばれてくる。

さて唯一の落ち着くひとときが訪れた。
どうしてたかが食事でこんなに疲れてしまうのだろう、と思いはしつつ、普段わりと引きこもっているのでこの精神の摩耗もよい体験だと思うことにする。机の上にともった蠟燭の炎は癒し、あとは寝るだけ。明日も茶園を見学しに行くのだ。
朝食
紅茶を飲んで本を読んで夜が明けて、完璧な朝の光に包まれ、良い気分で食事会場へとおりていく。


今度は昨夜よりもう少し上手にご飯を選べるのではないか、と期待して数種類のうちから選んだカレーが「激辛」な代物ですっかり涙目になった。もう「せっかくなのだからスリランカらしい料理を優先して食べたい」などという淡い望みの成就は諦めた方が良いと思う。人間には得意なことと不得意なことがある。
しかし唯一引き当てた大当たりといえば、茶葉入りのバター!
これがびっくりするくらいおいしい。パンの層に閉じ込められた、あのほんのり甘い空気とよく馴染む軽やかな味わいで、抹茶塩と似た方向性で大好き。これ沢山家に置いておきたい……。なお、写真に写っている薄緑色の飲み物はたしかアボカドのジュースだったかと記憶している。特に甘みも塩気もなく、まろやかな優しい舌触りは嫌いではなかった。

最後までしっかり提供された紅茶は、晩餐時のストレートとは異なるミルクティーにしていただく。満足。ここはヌワラエリヤだけれど、ミルクもお砂糖も多めに入れたら、キャンディ系の茶葉を思わせるこっくりとした風味が醸し出されたのがまた良し。
ちなみにお茶が運ばれてきた際、給仕のスタッフが「よかったらレビューを書いて」とのことで自分の名札とQRコードを提示してきたり、チェックアウトを待つ際の列でも別の従業員に全く同じことを尋ねられたりしたので、そういうサービスの方針なのだろうなとは理解した。
理解したのだけれど、やっぱり食事中にコードを読み込んでと頼まれるのもちょっと嫌(手が汚れているのだが……)だし、後者に言われた「レビュー英語で書けますか?」 みたいな冗談(英語が分からないような人間だったら今、あなたと会話できてないですよね……)はちょっとこちらを下に見ている感じが全然笑えなかったので、相手に悪気はないにしろ再訪はまあ無いかなと考えていた。
とはいえ素晴らしい建築のホテルであったことには疑いがなく、紅茶好き、工場好き、産業遺産系愛好者はぜひ一度訪れてみてほしい点でおすすめできる宿泊施設。
運転手に挨拶をして次の目的地…… Jetwing Warwick Gardensでのティーテイスティング体験へ出発する。
記事は(5)へ続く(後日更新)