初めて搭乗するスリランカ航空の機内では、ピーコック・ブルーのイメージカラーが気持ちをわくわくさせてくれる。
キャビンアテンダントさんの制服は同じ色を基調とした民族衣装のサリー、中でもお腹が露出している開放的な装いで、かなり冷房の効いている空間にいて寒くはないのかと心配になった。湯たんぽと腹巻を抱えた幻のおばあちゃんが脳内に誕生し、すばやく通路を疾走する。
最近は国内旅行の機会が多く、いつも最低限の持ち込み手荷物のみで飛行機を利用していたので、数日分の着替えを詰め、これから紅茶の箱を入れるためのスペースで構成されたスーツケースを別途で預けることなど久しぶりで、手元に貴重品しかない身軽な状態で席に座っているのは新鮮な気分だった。
いわゆるコロナ禍の影響をずっと受けていたため、国外へ足を運ぶのすら数年ぶり、という驚きがある。
それでもだんだん思い出してきた。こうした旅は、たとえ頻繁でなくても、確かに自分の日常と人生の一部であったことを。願わくは、今後もそのようにあれますよう。


「近いうちにインドやスリランカや中国の茶園を見学しに訪れたいと思います」
……と、以前の記事に書いていた。実のところその時より前から少しずつ計画自体は進めていて、現実的に捻出できる時間と相談し、通帳とのにらめっこを繰り返し、他に考えられる要素もすべて加味して選んだ場所が今回スリランカであった。
スリランカ……英国植民地時代の旧称、セイロン。インドの南に浮かぶ雫の形の島で、面積は北海道の約0.8倍。1948年に自治領としての独立を、やがて1972年にはイギリスからの完全独立を果たして、国号がふたたびスリランカ共和国に改められた経緯がある。そして、現在の「スリランカ民主社会主義共和国」となったのがその6年後、1978年のこと。
1983年に勃発し約26年にわたって続いた内戦の背景、民族間の対立は紅茶の生産とも深く、大きく関係する。茶園見学では基本的に訪れる機会のない、島の北部や東部の一部地域には未だに地雷が埋まっており、撤去作業が続いている。
私は自分の好きな紅茶が、この場合はセイロンティーの元となる樹がどのような土地で育ち、雨を受け、陽の光と風に晒され、いかにして人間の手により摘み取られているのかを一度はこの目で見てみたかった。
自分の好奇心を満足させるために。



スリランカ航空、成田空港とバンダラナイケ国際空港(コロンボ)を結んでいる直行便はJALとのコードシェアで、運行は週に4便(2024年10月現在)。私は火曜日の11:35に成田を出発し、約9時間20分で現地に到着する便【UL455】を選んで搭乗した。
この場合、3時間半の時差を加味すると到着は現地時間の17:25になる。
それまでに提供される機内食は2食。日本・スリランカ間を飛ぶ航空機のためか、各食がどちらかの国らしいものとなっていた。
チキン・オア・フィッシュ・オア・ヴェジタ~~~リアンと滝のように流れ落ちる早口で問われて選択したのはチキン。はじめのご飯はスリランカ風のカレーで、細長くパラパラしたお米に茹でた野菜の付け合わせ、そこにパンと魚介サラダとチョコレートムースケーキが付いてきた。味はまあまあ好みに合い、量は十分。8割程度を完食。


次に提供された機内食は軽めの夕食で、日本風の鶏肉料理(所謂てりやき? 名前が分かりません)と粘りのあるジャポニカ米。いつもの自分達の食事、という感じがする。
白米の上には黒ゴマ。他はきゅうりを含む野菜サラダ、何種類かのフルーツ。これも上と同じく味はまあまあ好みに合い、量は十分……と言うしかない。さらに同じように8割程度を完食。私は非常に偏食で、文字通り好みが著しく偏っているため、大抵の食事に対してこういう紋切り型のつまらないコメントをしているのは許してほしい。
今回の旅の目的は何を差し置いても紅茶。紅茶を味わい、紅茶について考え、紅茶を今までよりもちょっとだけ深く知ること。1杯の紅茶を楽しむときに、その原産地の風景を、体験に基づいて鮮やかに想像できるようになること。
飛行機内でも珈琲の他、しっかりと紅茶が提供された。ブラックティー、ここではもちろんスリランカ産のセイロンティー。お砂糖? ミルク? いいえ、まずはそのままの香りと風味を確かめてから。

はじめはこれ、なんか少し薄いんじゃないかな……と思う。しばらくして、決して単純にそうとは言い切れないらしいと分かる。
一番の特徴は、大抵のお茶ならば少しは持っているはずだと予期する要素、渋みや苦味の存在がどこまでも希薄であること。舌に引っかかる感じや重さが全然なくて、クリアな印象がある。また個人的に、一部のアッサムティーをストレートで飲んだ際に残るぼんやりした後味のようなものが、この紅茶の奥からも感じられた。
だいぶ説明しにくい風味である。草花の葉の青みのような何かがごくわずかに。
国ごとに見られる「水質」と、茶葉から抽出されるタンニンやステインの関係についてはこれまでも考える機会があったけれど、やはり機内で提供された紅茶も硬度の高い水でいれられているのだろうか。あるいはこの茶葉自体にも特徴があるのか、どうなのか。
あまり細かく裁断されていないタイプの茶葉かなとは思ったけれど、後述する旅の途中でたくさんBOP(ブロークン・オレンジ・ペコー)の紅茶を飲んでみた結果、いずれも私は日本で飲むものより「かなり薄め・軽め」と感じた。影響しているのは水なのか、抽出時間や温度なのか、それ以外なのかはてさて。
何の変哲もない飛行機内の紅茶から、すでに旅への期待が高まっていく。
記事は(2)へ続く
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