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書評|Spotifyのメタクソ化と音楽文化の危機に警笛を鳴らす|"Mood Machine" by Liz Pelly

今回紹介するリズ・ペリーによる『Mood Machine: The Rise of Spotify and the Costs of the Perfect Playlist』は音楽ストリーミング最大手Spotifyの内部構造と影響力を分析した書籍です。リズ・ペリーはニューヨーク大学芸術学部(NYU Tisch School of the Arts)で非常勤講師を務める傍ら、様々なメディアで音楽に関する記事を寄稿しているライターでもあります。リズ・ペリーは2017年からSpotifyについて批判的な分析を行ってきました。本書は、これまでの調査報道を包括的にまとめ上げた労作となっています。

その主張を一言で表せば「Spotifyは利益追求のために音楽文化をダメにしている」だと思います。SF作家でありジャーナリストでもあるコリイ・ドクトロウのいうところの「メタクソ化(Enshitification)」がSpotifyでも起きているという主張です。

Mood Machine: The Rise of Spotify and the Costs of the Perfect Playlist (English Edition)

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リズ・ペリーはメタクソ化の背景として、Spotifyの創業の成り立ちを詳しく解説します。Spotifyの創業からメジャーレーベルとの契約までは以前に『Spotifyの誕生と成長|二年半の赤字から音楽市場V字回復の立役者に』という記事でまとめました。大枠としてここと書いてあることにそれほど変わりはないのですが、リズ・ペリーはその後の「メタクソ化」につながる(と彼女が考える)部分に関して詳しく解説しています。

メジャーレーベルが大きな取り分を確保し、残りをそれ以外が分け合う仕組み

Spotify以前にも多くの音楽ストリーミングサービスが生まれては消えていき、その過程でメジャーレーベルとの契約も定型のものがほぼ出来上がっていました。それは利益配分と一部株式の譲渡、広告の無償化などです。音楽業界はユニバーサル・ミュージック・グループ、ソニー・ミュージック・エンターテイメント、ワーナー・ミュージック・グループの三社の寡占で、新興企業であるSpotifyにそれを覆す力があるはずもありません。Spotifyはその誕生の時からメジャーレーベルの支配を受け入れる形でスタートしましたし、それが現在でもそのまま残っています。

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リズ・ペリーがSpotifyを批判する理由の一つがこのようなメジャーレーベル中心のビジネス構造を変えなかったことです。レコードからCD、ストリーミングサービスにメディアが変わっても、独立系のアーティストが割を食っていることには変わりがないじゃないかと。

SpotifyのBGM化(ムード音楽化)

スーパーマーケット、コンビニやエレベーターの中などの商業施設で当り障りのない音楽がBGMとして使われることがあります。この源流はかなり古く、エジソンまでさかのぼることができるそうです。エジソンはシリンダー型のレコードを発明したことで有名ですが、エジソンがレコードを売り込むために作ったサービスの一つが「ムード・ミュージック」です。それをさらに発展させて一大事業に育てたのがMuzakでした。

Spotifyの初期ユーザーは熱心な音楽ファンでした。熱心な音楽ファンは自分が聴きたい音楽が分っています。聴きたい音楽が分っているので、検索してその音楽を探します。一方で事業を成長させるためには、もっと幅広い層のユーザーをSpotifyは取り入れる必要がありました。そのためのカギとなったのがBGM化でした。

多くのリスナーは特例のアーティストを聴きにプレイリスト選ばない。その時のムードを優先にする。だとしたらコストの安いコンテンツで埋めた方がいい。そうすれば利益が増える。そのようなロジックでロイヤリティの安い「BGM的」な音楽を生み出す仕組みがパーフェクト・フィット・コンテンツ(PFC)です。PFCのプロバイダーはEpidemic SoundFirefly Entertainmentなど十数社存在するそうです。 このPFCを作っているアーティストたちはクレジットもされず「ゴーストライター」ならぬ「ゴーストミュージシャン」という扱いになっています。

SpotifyのムードプレイリストはMuzakのストリーミング版ともいえるもので、独立系のアーティスが聴かれる機会を奪っているというのもリズ・ペリーがSpotifyがメタクソ化しているとする根拠の一つとなっています。これもSpotifyが新たに起こした現象というよりは、Muzakなど昔からあったことをSpotifyが変えずにむしろ強化したという批判です。

ムード音楽化がもたらすジャンルの劣化

リズ・ペリーはSpotifyのムード音楽化は特定音楽ジャンルの劣化も招いていると主張します。代表的な例が「アンビエント」と「環境音楽」です。アンビエントも環境音楽も思想があって生まれたものですが、Spotifyのプレイリストとしての「アンビエント」と「環境音楽」はPFCで埋め尽くされています。ブライアン・イーノや芦川聡や吉村弘が目指したものとはかけ離れていると批判します。

個人的にはブライアン・イーノの音楽を聴きたければブライアン・イーノを検索すればいいじゃないかと思う。ただ、リズ・ペリーが言いたいのは「アンビエント」プレイリストから本物のアンビエントであるブライアン・イーノの音楽を聴く機会が奪われているということなのでしょう。ただ、自分が「アンビエント」をキーワードに探して一発目に出てくるのはブライアン・イーノや吉村弘も含むこのプレイリストですが……

このほかにもJ DillaやMadlivに代表されるローファイ・ヒップホップも変質してしまったと言います。Spotifyで人気のLofi Girlのプレイリストは初期のローファイ・ヒップホップにあった精神が受け継がれていない、平坦な音楽だと批判します。


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これはハイパーポップにも言えるといいます。個人的にSpotifyの「Hyperpop Classics」というプレイリストはその名にふさわしくHyperpopの代表的な曲やA. G. CookやSophie、Chalie XCXなど主要なアーティストをしっかりカバーしてると思うけど。

あと、ジャンルの劣化ってSpotifyだけじゃなくてYouTubeの影響もあるようなあ……とは思う。多くの人がかかわれば、初期の濃密さはどうしても薄まってしまう。グランジだって初期と後期ではだいぶ違うわけで、音楽のジャンルって昔からそうじゃなかったっけ?と思わなくもない。

Discover Modeは法律で禁止されているペイオーラ(賄賂)にあたるのではないか?

リズ・ペリーの主張は「もともとまともな音楽業界がSpotifyによってメタクソ化された」というより、「もともとメタクソ化していた音楽業界をSpotifyは変えなかった」だと感じました。そういう主張であれば、確かにそうかもしれないと思います。

一方で、素直に納得できる部分もあります。Discover Modeについての批判は的を得ていると感じましたDiscovery Modeはアーティストが通常より低い印税率を受け入れる代わりに、アルゴリズムによって生成されるプレイリストでの楽曲露出を増やすというものです。この仕組みがペイオーラ規正法で禁止されている行為にあたるのではないかという批判です。ペイオーラとは楽曲の放送回数を増やすために放送局へ支払われる見返りで賄賂に当たるとして禁止されました。

確かにこのような慣習が横行してはアーティストに入る印税が低くなるので、健全な音楽活動に支障をきたす可能性があります。

まとめ

一部納得できる部分はあるものの、リズ・ペリーが本書で展開している主張はボクにはあまり響きませんでした。リズ・ペリーはいかにもアートスクールな視点で議論を展開してきます。ボクも彼女が好きな音楽はたいてい好きです。多分音楽的な趣味はあう。Galaxiy 500とかもアルバム三枚とも持ってます。たぶん、彼女はボクと同様に熱心なインディー系の音楽ファンなんだと思います。もっとインディー系のアーティストに聞かれる機会を持ってほしい、そしてそれが収入として成り立つようになってほしいと願う気持ちも分かります。ただ、それって押し付けるものでもない。

音楽の熱心なファンと、消極的なファンの間には昔から大きな溝があります。熱心なファンであればどんな手段を使ってでも新しい音楽を探そうとします。消極的なファンはラジオやテレビ、インターネットで消極的に受け取った情報で音楽に触れます。それは昔から変わっていないし、ストリーミングになっても変わっていない。それを変えるのがSpotifyのやるべきことでもないと思う。

熱心な音楽ファンの一人であるボクからすれば、聴きたい音楽が検索してすぐ出てくればいい。そして、自分が気に入った音楽のプレイリストを自分で作れればいい。不自然なプレイリストがあれば気が付く。そんなプレイリストは聴かなければいい。それが熱心な音楽ファンってものです。

そういう意味で、このオーディオブックは聴いていてずっとモヤモヤする内容でした。あと、オーディオブックはご本人が朗読してくれているのですが、半疑問形(英語ではUptalkという:見本はこちらのYouTubeビデオで)の独特なしゃべり方が気になって仕方がなかった。もっとはっきり言えば、Uptalkを何時間も聞き続けるのは苦痛ですらあった。それが本書に対する印象にとって、いい影響になっていないような気もする。オーディオブックで著者本人が朗読するのは基本的にはいいことだと思うのですが、プロが朗読したほうがいい場合もあるんですね。




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