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米国の製造業にとって、戦後の世界は黄金時代だった。1940年代から70年代にかけて製造業は活況を呈し、米国に著しい経済成長を、企業に拡大し続ける利益を、そして労働者には将来の明るい見通しをもたらした。
国民の多くは、製造業が全盛期だった時代こそが本来あるべき姿だと信じており、活気ある新たな中間層の復活を製造業の再興に託している。
あらゆる政治的立場の政治家が、この時代を失われたものとして語り、関税導入や米国製品の購入によって容易に取り戻せるかのように訴えている。しかし、それは不可能だ。
20世紀半ばの米製造業モデルは通常のものではなかった。歴史的な偶然だったのだ。そして、われわれはそれを取り戻すことはできない。
産業の黄金時代は、それが出現したのとほぼ同じ速さで消失した独特な条件下で生まれた。
世界の競合国は爆撃によって屈服させられ、エネルギーは非常に安価で、米国の労働組合は雇用を外国のライバルに奪われる心配なく譲歩を要求できた。
これらは歴史の偶然であり、適切な政策で取り戻すことができる資本主義の特性ではなかった。
アメリカ産業史を見るとわかる、トランプ関税【2/3】アメリカ製造業の失われた歴史(2025/4/5 #1629)|木下斉
1960年代以降、アメリカの製造業は徐々に凋落の道をたどります。
戦後の黄金時代を経て、製造業はピークに達しましたが、1970年代からはエネルギー危機や高コスト体質、外国企業との競争激化により、鉄鋼・自動車など重厚長大型産業が打撃を受けます。
特に日本やドイツ製品の高品質・低価格攻勢が市場を席巻し、アメリカ製品の競争力は低下しました。
1980年代以降は、グローバル化と技術革新により生産の海外移転とオートメーションが進み、国内の製造業雇用は減少。かつての工業中心地は「ラストベルト」と呼ばれる衰退地域となります。
1990年代以降はハイテク産業やサービス業が経済の主役となり、製造業のGDP比や雇用比率は大きく低下しました。
トランプが掲げる「米国製造業の復活」に立ちはだかる3つの壁、「米国黄金時代の到来」は夢のまた夢! Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン)
ビジネス誌「フォーブス」によれば、その第一に挙げられるのが、米国と諸外国との賃金・生産コストのギャップだ。
たとえば賃金の場合、米政府「労働統計局」が公表している米中両国の2024年比較データによると、米国の平均時給30ドルに対し、中国は7ドルと4倍以上の開きがあり、ベトナム、カンボジア、マレーシアなどの東南アジア諸国では中国よりさらに低賃金が慣行となっている。
第二に、米国と諸外国との間の入り組んだ複雑なサプライチェーンの問題がある。
複雑なサプライチェーンは、関係各国企業間の数十年におよぶ試行錯誤を経て出来上がったものであり、短兵急に置き換えることはほとんど不可能であるばかりか、きわめて高価なものにならざるを得ない。
第三点目として、熟練労働力不足が挙げられる。
米国経済の重点は、過去数十年の間に製造業中心から圧倒的にサービス業にシフトしてきた。
製造業の衰退により多くの工場労働者が早期退職を余儀なくされ、あるいは食品、運輸、観光、その他の業界に転職していった。
若年世代の多くが自らのキャリアを最初から金融、通信、ITなどのサービス関連業に求め始めた結果、熟練労働力不足が深刻化してきている。
「デロイトトーマツコンサルティング」が「製造業研究所」と共同で発表したレポートによると、米国製造業界全体では2030年までに、熟練労働者不足が210万人にも達する見込みだという。