あっという間に売り切れになって買えなかった『MUSICA7月号 表紙巻頭特集=藤井 風』の重版が決まり、欲しい方は大体手に入れたと思うので、インタビューを読んでの感想を書こうと思う。できれば実際にインタビューを読んでから読んで欲しい。

インタビューは3本あって、1つめは2024年7月29日に行われた、2022年秋以降に訪れた混沌と惑いを赤裸々に語ったインタヴュー。2本目は2025年5月に行われたサードアルバム 「Prema」 完成インタヴュー。3本目はこの間のシングルを集めた『PrePrema』の曲ごとのインタビュー。
2022年3月にセカンドアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』をリリースした後、単独で全国を廻ったホールツアー「Fujii Kaze alone at home Tour 2022」を経て、同年10月15、16日にはパナソニック・スタジアムでバンド編成による初のスタジアムライヴを行う。
風にとっては、2022年10月に出した「grace」と同月のパナソニックスタジアムでのライヴがそれまでの活動の集大成であり、そこで「言いたいことは言い切った」という感覚があったという。
その直後に、2018年に投稿したYouTubeのカバー動画にNワードが含まれている曲をそのまま歌っているものがあって、それが問題視され、自分が無知のままにそれを歌ってしまったと謝罪するという出来事があった。
さらに、藤井風が特定の宗教の信者として「隠れ布教」を行っているのではないかとの記事が週刊誌に書かれ、風が突然ツイッターをやめるなどし、ファンの間にも動揺が広がった。
同時に2022年秋くらいから「死ぬのがいいわ」がサブスクで人気となり、世界中でヒットチャート入りするという現象が起こった。
この2022年最後の時期を風は「カオスみたいなものが一気に押し寄せてきた」と表現している。それ以降はずっと「手探りの日々」が続いているとも言う。
実際、このまま引退することも考え、そう口にすることもあったという。
風の中では、ポップシンガーという職業に対するこだわりはなく、「よりよい人間、よりよい人生であるために、アーティスト活動というものが絶対じゃない」という感覚があった。
もともとデビューの頃にあった「自分がこういう曲を出したい」と思っていたものは最高の形で出すことができたので、よりよいアーティストになりたいという気持ちより、 よりよい人間になるためにはどうしたらいいのか、よりよい人生にしていくためには、みたいなことへの比重が大きくなっていったという。
正直、これを読んだ時には驚いた。風にとっての優先事項は「さらによいアーチストになること」よりも「よりよい人間になること」なのだという。
これは普通のミュージシャン、というより表現者にはない発想だろう。
風には「自分の曲を世の中に広く伝えたい」という欲求はあっても、「売れたい」「ビッグになりたい」という欲求は希薄なのだ。それも普通のミュージシャンには考えられないことだが、彼の過去のインタビューなどを読めば何となく納得できる。
しかし、「ミュージシャンやアーチストであること自体にも執着がない」というのは相当に特異なことではないか。
アーチストはどちらかといえば実生活の充実や人間的な部分を犠牲にしてでも「よい作品」を創りたい人種であるという印象があるし、そういう姿勢を突き詰めるのが「よいアーチスト」であるという見方もある。
だが風の価値観はそうではない。彼は商業至上主義には与しないし、芸術至上主義の立場にも立たない。
「シンプルに一人の人間として、よい生き方をすること」に価値を置いている。
風はコンサートで必ず観客に向けて「これは私のコンサートではなく、あなたのコンサートです」と話しかける。
そこには「ステージに立つ人間が特別なのではなく、すべての人がそれぞれに特別な存在なのだ」という考え方がある。
その言葉が決してポーズではなく、本心からこう語っているのが分かるから、観客は素直に感動できる。
こうした風の言動はデビュー時から常に一貫しているから、このインタビューでの発言も、何らポーズではないありのままの本心だということが分かる。
自分の伝えたい表現、伝えたい言葉は最高の形で発表し尽くして、燃え尽きたように感じていた風を、その後の活動へと駆り立てたものは何だったのか。
サードアルバムに向けた手探りの、長い葛藤が始まった。
つづく