斎藤知事に県職員が怒り 「元県民局長の処分撤回し謝罪しましょう」幹部説得もスルー
2025年03月28日 07時10分集英社オンライン
斎藤元彦・兵庫県知事の疑惑を調べた第三者調査委員会は、パワハラなどの疑惑を告発した後に自死した元西播磨県民局長・Aさん(享年60)を斎藤知事らが処分したことは公益通報者保護法違反だと断定した。
だが3月26日に記者会見した斎藤知事は「さまざまな意見がある」として、違法だと認めることを拒否した。その直前、複数の県幹部が斎藤知事に「Aさんの名誉回復を図ってご遺族に謝罪しましょう」と働きかけていたことが分かった。この進言を蹴った斎藤知事に、県職員らの怒りは収まらなくなっている。
■「結局、解決への道を閉ざしてしまったんです」
第三者委が指摘した計11件のパワハラ行為は認めるが、自分への処分は行なわない。匿名で疑惑を外部に知らせた元県民局長のAさんを特定し、処罰したことが公益通報者への不利益な取り扱いを定めた法に違反するとの指摘はそもそも受け入れない――。
第三者委の報告が公表されてから1週間を経て斎藤知事が3月26日に示した反応に、県職員の一人は怒りを通り越し「もう無理です。斎藤知事とはやっていけない」とあきれ果てた表情を見せた。彼がそう語るのには理由があった。
「斎藤知事が地位にとどまりながら県政の混乱を終わらせるために、複数の県幹部が知事の説得を試みたんです。でも知事はその進言をけんもほろろに扱い、結局解決への道を閉ざしてしまったんです」
そう言って頭を抱えた県職員は「やっぱり斎藤知事では無理です」と絞り出すように話す。失敗した説得とは、告発者であるAさんの名誉を回復させようというものだったという。
「Aさんは昨年3月12日、知事が日常的にパワハラやおねだりを行ない、公金不正支出の疑いもあるなど7項目の疑惑を綴った告発文書をメディアなど10か所に送りました。
文書の存在を知った斎藤知事は腹心だった片山安孝副知事(昨年7月に辞職)らに発信者探しを指示。メールの分析でAさんを疑った片山氏は、事情聴取でAさんから自分が発信者だという自供を引き出し、県公用パソコンを取り上げました。
そして斎藤知事は昨年3月27日の記者会見でAさんを『公務員失格』『うそ八百』と非難したのです。
その後5月には、告発文書を送ったことと、他に3つの不適切な行為をしたとの理由でAさんを停職3か月の懲戒処分にします。ほかの理由はいずれも、取り上げたパソコンの中にあったデータを見て、はじめて県当局が分かった内容でした」(地元記者)
だが、その後、他の職員からもパワハラ証言が出るなどして告発文書には信ぴょう性があるとの見方が強まり、県議会が調査特別委員会(百条委)を設置し疑惑究明が本格的に行なわれることになる。そうしたさなかにAさんが急逝。自死とみられた。
「百条委の設置前、片山氏が取り上げたパソコンの中にあったAさんの私的なデータがプリントアウトされ、当時の井ノ本知明総務部長が県議らに見せて回っていました。
百条委ができてからは、当時いずれも維新に所属し、委員会の副委員長だった岸口実県議と同委メンバーだった増山誠県議がこの私的データの開示を執拗に求めました。いずれも、Aさんを貶めて告発は信用できないと印象づける狙いだったとみられます。Aさんは私的データの内容が出回ることに苦しんでいました」(Aさんの友人)
■「遺族に謝罪しましょう」県幹部の説得もむなしく…
Aさんの尊厳は亡くなった後も傷つけられた。県議会の不信任決議を受けて失職した斎藤知事が再選を目指した昨年11月の出直し知事選で、「当選は目指さず斎藤さんを応援する」と言って立候補した立花孝志NHK党党首が、Aさんの私的データの「内容」とするものを街頭演説などで公言。
同時に「疑惑はうそで、斎藤さんはハメられた」との主張を繰り返し、これがSNSで拡散し斎藤知事再選を後押ししたとみられている。
だが、選挙の後も百条委の活動は続き、ついに今年3月4日、斎藤知事が部下にキレ散らかしたことはパワハラと認められる要素を満たし「不適切な叱責があったと言わざるを得ない」と明言する調査報告書を公表。そこではAさんの処分も「公益通報者保護法に違反している可能性が高い」と判断した。
ここから兵庫県庁を巡る情勢は混迷の度を深める。斎藤氏は県議会本会議が百条委報告を了承した3月5日の記者会見で、報告書は「1つの見解」にすぎないとして受け入れない態度を強調。
さらにAさんの処分を撤回しないのかと聞かれると、突然饒舌になってAさんのパソコンに「倫理上極めて不適切な、わいせつな文書」があったと言い始めたのだ。(♯37)
「この発言で県職員の間では斎藤知事への不信がさらに高まりました。井ノ本氏や岸口、増山両県議と同じことを、知事が自ら始めたと受け止められました」(県職員)
一方、斎藤知事の支持者の間でも「知事と対立する県議会の一部である百条委の報告は信用できない」との不満の声が渦巻き、県が設置した第三者委員会なら百条委の判断を覆すだろうとの期待が高まっていた。
「ところが3月19日に出た第三者委報告は、パワハラも告発者つぶしの公益通報者保護法違反も、百条委以上に明確に認める内容になりました。二つの委員会で相次ぎ“クロ”と扱われた斎藤知事は即座に反応できず、1週間の沈黙を続けたのです」(地元記者)
そして、この間に複数の県幹部が斎藤知事に働きかけたのがAさんの名誉回復を図ることだったという。事情を知る県関係者が話す。
「“わいせつ文書”発言には多くの県職員と幹部が憤り、動揺しました。しかしもう一年も続く県の混乱を収めるには第三者委の報告が出たタイミングしかない。そうした考えで、複数の幹部が斎藤知事に対し、『Aさんの処分を撤回して名誉を回復させ、ご遺族にも謝罪しましょう』と働きかけたんです」
■「自分に都合のいい意見しか聞かない」
百条委報告を一蹴した斎藤知事には県議会からも不満が高まっていたが、定例議会の会期末が近づいても知事に問責や辞職勧告、さらには二度目の不信任決議を突きつけようとの動きは顕在化しなかった。
「『また不信任決議案が出される』といったうわさも一時流れましたが、事情を知らない者によるデマか根拠のない妄想です。なぜなら、県議会の主要会派は県幹部らの知事説得の動きを察知し、奏功することを願っていたからです。
しかしだれも知事の最終決断を読めなかった。そうして迎えた最終日の3月26日に、斎藤知事は第三者委の“違法”との指摘をまったく受け止めず、Aさんの処分は『適切だった』とこれまで同じ主張をしたんです。こうして県職員と議会の最後の期待は吹き飛びました」(県議会筋)
斎藤知事は会見で、公益通報者保護法違反かどうかは弁護士ら専門家でも「意見が分かれる」と主張。違法には当たらないとの主張をしている専門家の例として、斎藤知事を擁護し続けた増山県議が百条委に推薦した弁護士や、「私の弁護士」を挙げた。
「結局、自分の望む方向へ進めるため都合のいい意見しか聞かないということです。Aさんを処分した昨年春と、何も変わっていません」(冒頭の県職員)
Aさんを非難した会見から3月27日で1年。斎藤知事自身の手により、当面混乱を収拾する道は絶たれた。県議会と県職員の間では失望と怒りが広がっている。

【問題発覚から1年】「ボトムアップの県政なんて大ウソ」、斎藤元彦知事肝煎りの新組織が兵庫県庁の分断を招いた
3/28(金) 11:11配信
JBpress
一連の文書問題でなおも揺れる兵庫県。斎藤元彦知事が昨年3月の定例会見で、自身を告発した県民局長の降格人事を発表してからちょうど1年が経過した。県設置の第三者調査委員会がまとめた調査報告書に対し、斎藤知事は「私自身は見解が違う」と述べるなど、なお従来の主張は変えていない。前回に続き、報告書の記述から、問題が起こった原因と県職員や県議会の反応をお伝えする。(以下、文中敬称略)
(松本 創:ノンフィクションライター)
■ 「一番問題なのはコミュニケーションギャップ」
「われわれは、知事の個人的な資質を問題にするつもりはございません。問題はむしろ、制度とか組織の問題として考えないといけないだろうと。その点で一番問題なのはコミュニケーションギャップ、ないしは不足だろうと思います」
告発発文書問題で兵庫県が設置した第三者調査委員会の委員長、藤本久俊は調査報告書提出後の記者会見でそう語った。
斎藤元彦が知事の資質を欠くことは、前回の記事を含め、これまで何度も書いてきた。失職後の出直し選挙で再選はされたものの、その公正性には大きな疑念が生じ、県民の分断が広がっている。今月初めに百条委員会の調査結果が出たが、「一つの見解」と矮小化し、一顧だにしない。そして彼の県政下で、県職員や元県議が3人、職務に関わると思われる理由で自死に追い込まれている──。
だが、第三者委の藤本が「個人的な資質の問題にはしない」と述べたように、すべてを個人に帰責し、糾弾するだけでは本質的な解決にはならないことも間違いないだろう。兵庫県庁の体制や組織風土にまで踏み込んで、背景要因を取り除かなければ、知事が代わってもまた同じことが繰り返される恐れがある。第三者委の報告書と委員長の言葉の意味を、私はそう受け止めている。
まず、組織としての問題が最も現れたのが、告発文書を公益通報と取り扱わず、告発者探しに走った県の判断である。
■ 告発者探しは違法、懲戒処分も無効と判断
元県民局長が昨年3月、県警や報道機関など10カ所に送った文書は、公益通報者保護法に定める「3号通報」、つまり外部公益通報に当たると第三者委は判断した。贈答品(いわゆる「おねだり」)の件は贈収賄罪、プロ野球優勝パレードをめぐる「キックバック」疑惑は背任罪など、刑法に触れる可能性のある内容が含まれていたためだ。
副知事(当時)の片山安孝が百条委で主張した、「クーデターという不正目的だから公益通報には当たらない」との主張は退けられた。知事や側近幹部への不満はうかがえるものの、元県民局長は退職間近であり、知事失脚や政権転覆を意図したとまでは認められないこと。また、「職員の将来を思っての行動だ」と報道機関向けの文書で説明していたことなどが理由だ。
文書が公益通報である以上、告発者探しは違法となる。元県民局長を特定したメール調査も、片山が行った事情聴取や公用PCの回収もだ。調査が違法だから、5月7日に下された「停職3カ月」の懲戒処分も無効だと第三者委は判断した。ただし、懲戒理由は文書の作成・配布以外にも3つあり、それらは有効だという。いずれにせよ、懲戒処分はいったん取り消し、再検討されねばならない。
斎藤や県幹部はなぜ公益通報として取り扱わず、違法な探索行為に走ったのか。報告書は、斎藤が文書を入手し、片山ら側近4人を呼んで対応を協議したスタートから誤っていたと書く。いずれも文書に名前が出てくる利害関係者であり、「極めて不当」だと。
〈上記利害関係のある者が揃って対応策を協議したために、各々が自分の指摘されている事実を否定し合う会話の中で、本件文書を「核心部分が真実でない怪文書」と決め付け、公益通報者保護法の適用可能性に思い至らず、通報者の探索へと至ることとなった。このように、県が措置の方向性を見誤った原因は、利害関係のある者の関与にこそあると言うべきである〉
元県民局長に処分を下した翌日、神戸市内のある会合で斎藤と片山に会った報道関係者によれば、2人は文書問題を楽観視していたという。斎藤は「私は調査に関与してないんで」とはぐらかし、片山は「あんなん、どうってことない。すぐ終わりますわ」と笑い飛ばした。被告発者でありながら、調査・処分する側に立った2人は、これで幕引きできると高を括っていたのだろう。
だが、県議会から、客観的な第三者調査を求める声が上がる。今年1月に死亡した竹内英明元県議が所属した「ひょうご県民連合」である。他会派もこれに続き、並行して百条委設置の声も高まってゆく。当初は再調査に否定的だった斎藤も受け入れざるを得なくなり、第三者委の設置を表明した。元県民局長の処分決定から、ちょうど2週間後のことだった。
■ パワハラの背景には「新県政推進室」が生んだ分断が
冒頭に引用した委員長発言にあるように、第三者委は県庁の組織や制度の問題も分析している。斎藤のパワハラが多発した背景要因として、「コミュニケーションの不足とギャップ」を筆頭に挙げる。
きっかけは、斎藤が就任直後に新設した「新県政推進室」だった。「改革意欲のある職員を集め、行財政改革や重要施策に取り組む」と発表された知事直轄組織である(2023年に廃止)。
兵庫県では、斎藤の前任の井戸敏三が20年、その前から数えれば通算約60年にわたり、副知事経験者が知事を務める“禅譲体制”が続いてきた。県政を刷新したいという思いが強い斎藤は、新県政推進室の主要メンバーを宮城県庁や総務省時代に知り合った比較的若い職員で固めた。県の最高幹部である本庁の部長は一人も起用しなかった。
その体制が県庁内に分断を生んでいく。
斎藤は新県政推進室のメンバーを通じて自身の政策や考えを発信し、部局をまたぐ調整も任せた。逆に庁内からの報告や懸案も彼らを通じて入ってきた。新県政推進室以外の大多数の職員とは間接的なコミュニケーションしかない。すると、知事協議の時間が取れない、知事の意向がわからない……と不満が溜まっていき、逆に斎藤の側も報告が遅い、その件は聞いていない……と苛立ちが募ってゆく。それがパワハラの背景だと、報告書は書く。
「いちばん大きいのは、議論する文化がなくなったことです。井戸知事の時代は2週間に1回、本庁から県民局まで30人余りの幹部が集まる政策会議があり、闊達に議論していた。それが斎藤知事になってから、政策会議は1カ月に1回開かれるかどうか。それも極めて形式的で、誰も発言せず、上からの伝達事項を聞くだけだといいます」
ある職員は私の取材に対し、前知事時代との違いをそう語った。
「かつては『ご報告』という意見具申の方法があったんです。各部局から上がってくるペライチ(A4用紙1枚)の資料を、井戸知事の退庁時に毎日10枚以上渡す。それを知事が自宅で読み、一言書き込んで翌朝に戻す。要協議や要説明となれば、知事協議の時間を取り、直接やり取りする。そういう中で、こちらの考えも整理されていったんです。今はそういうチャンネルが何もない」
県政を知り尽くした井戸時代は、「上に物が言えない」と多選の弊害が指摘されたが、こうして意見を吸い上げる仕組みはあったわけだ。
■ ワークライフバランス重視の知事と思うように協議できず
ところが、斎藤はワークライフバランスを重視して自宅に仕事を持ち帰らず、知事協議の時間もなかなか取れない。やっと取れても「一本(案件)15分」。簡単なパワーポイントで説明するという。だが、そんな短時間で政策や事業の詳細は伝えられず、斎藤も理解や判断ができないだろうと、この職員は言う。
「就任時は期待しましたよ。でも、あっけなく裏切られた。『ボトムアップ型の県政』なんて言ってましたが、大ウソですよ。知事のやりたい施策が一方的に降ってくるだけになった」
報告書はこのほか、以下のような組織や職員の問題を挙げている。
知事とそれを取り巻くメンバーが同質的な集団となってしまったこと
組織の分断
自由闊達さに欠ける組織的な姿勢
パワハラ防止意識の浸透が十分でないこと
我慢強い職員風土
そういう背景要因が重なり合う中で告発文書が出回り、通報者探しが行われた。
〈組織の分断が進んだ状況の下で、同質性が強くなっていた中心メンバーのみでは、本件文書の作成、配布を自分たちに対する誹謗中傷ではなく、公益通報として取り扱うという発想は生まれようもなかった〉
そして昨年3月27日。知事定例記者会見で元県民局長の処分について聞かれた斎藤は、こう気色ばんだ。
「職務中に、職場のPCを使用して、事実無根の内容が多数含まれ、かつ、職員の氏名等も例示しながら、ありもしないことを縷々並べた内容を作ったことを本人も認めている」
「公務員ですので、選挙で選ばれた首長の下で、全員が一体として仕事をしていくことが大事なので、それに不満があるからといって、しかも業務時間中に、嘘八百含めて、文書を作って流す行為は公務員としては失格です」
■ 「私自身は見解が違う」と知事は違法性認めず
人事課が作成していた想定問答を大きく踏み越え、幹部職員たちは驚いた。怒りに任せて口にしたこの言葉から、今に至る兵庫県政の混乱は始まった。第三者委報告書は、この発言は元県民局長に精神的苦痛を与え、職員を委縮させるパワハラだと指摘。〈極めて不適切で、直後に撤回をされるべきであった〉と書いている。
あの記者会見から1年。2025年度予算が成立した3月26日、斎藤は1週間前に公表された第三者委の調査報告書に対する見解を会見で語った。その回答は予想されていたとはいえ、報道陣を悪い意味で驚かせた。
「ご指摘は真摯に受け止める」と壊れたテープレコーダーのように連呼しながら、第三者委が違法と断じた外部公益通報の取り扱いや通報者探索については、「いろんな意見がある」「あの時点ではやむを得なかった」「私自身は見解が違う」と一切認めない。自身のパワハラはいちおう認めたが、処分は特になし。幹部職員らが求めたという元県民局長の処分撤回もしなかった。
この会見前、ひょうご県民連合の控室を訪ねると、竹内元県議の机の上に調査報告書が並べられていた。同会派で竹内と交流が深かった迎山志保は言った。
「この報告書から逃げることは、県民の疑念や県職員の不安の払拭から逃げること。それらを払拭せずに県政を前に進めるなんて、できるわけがない」
