第10章 公益通報などの観点から見た県の対応の問題点について
第3 本件文書の作成・配布行為に対する兵庫県の対応の適否
1 本件文書の作成・配布行為の公益通報該当性・・・3号通報に該当
2 斎藤知事と片山副知事ら利害関係者が関与したこと・・・極めて不当
3 通報者を探索した行為
(1)メール調査と元西播磨県民局長らへの事情聴取について・・・違法
(2)公用パソコンの引き上げ行為について・・・違法
4 令和6年3月27日付け人事・・・人事の発令は無効
5 元西播磨県民局長に対して行った懲戒処分
(1)本件文書の作成・配布行為を処分理由の1つとしたことについて
・・・違法・無効
(2)その他の理由に基づいて行った処分について・・・適法・有効
第4 元副知事に対する要請行為について・・・内部公益通報には当たらない
第5 本件内部公益通報の調査結果を待たず、先行して懲戒処分を課したことについて・・・不相当
第6 令和6年3月27日の知事の記者会見における発言について・・・極めて不適切
斎藤知事は、本件文書について、「ありもしないことを縷々並べた内容を作ったことを本人も認めている。」などと発言したが、そのような事実はない。発言は、斎藤知事が自身の言説を強調しようとしたものであり、極めて不適切で、直後に撤回をされるべきであった。
また、斎藤知事は、元西播磨県民局長を「公務員失格」、「うそ八百」などの言葉を用いて非難したが、本件文書には数多くの真実と真実相当性のある事項が含まれており、「うそ八百」として無視することはできず、むしろ、県政に対する重要な指摘をも含むものであった。少なくとも、調査未了の段階で、強い語句や断定口調でマスコミに伝えて公に知らしめる必要性はなかったし、斎藤知事の発言は、元西播磨県民局長に精神的苦痛を与え、職員一般を委縮させ、勤務環境を悪化させるもので、パワハラに該当する行為であった。

第11章 原因・背景分析等
3 公益通報に対して適切な対応を取ることができなかった原因
(2)コミュニケーション不足を背景とする批判耐性の弱さ、冷静さの欠如
・・・苛立ちは、人の批判耐性を弱める。そのため、斎藤知事や幹部職員は、自らに対する批判的な言動を含む本件文書に接した際には、冷静に対応することができず、拙速な反発的対応につながったと考えられる。
(3)組織上の問題
・・・しかし、兵庫県において、知事と組織の中心メンバーの間には、同質性が醸成されていた。また、中心メンバーとその他の職員との間には分断が進み、その他の者も含めて自由闊達な議論が行われる気風が失われていく傾向がみられた。
組織の分断が進んだ状況の下で、同質性が強くなっていた中心メンバーのみでは、本件文書の作成、配布を自分たちに対する誹謗中傷ではなく、公益通報として取り扱うという発想は生まれようがなかった。そして、本件では、県議会議員から公益通報に該当する可能性の指摘があった後、令和6年4月1日以降も、その中心メンバー内では、他の意見を慎重に検討するという機運は生まれなかった。
特別弁護士への相談はなされたが、本件では組織的な安全装置が働かなかったというべきであり、そのことも、本件文書問題について、違法・不当な取扱いがなされた原因と考えられる。
(4)制度上の問題
・・・しかし、公益通報者保護法が定められた趣旨とその目的、その理念に基づき事業者が守るべきことなどについての啓発活動は不十分であった。そのため、本件文書問題に関わった知事と副知事、その他の幹部は、当初、誰一人本件文書問題を公益通報の問題としては捉えなかった。
(5)情報管理に関する問題
本件では、元西播磨県民局長のパソコン内に存した私的な情報が県職員を通じて他に流出した可能性がある。通報者の私的情報は、通報内容とは無関係であり、県当局とすれば、厳重な情報管理により流出を防止する必要がある。流出が疑われる事態は、本件文書問題が生じた後に生じたものであるが、そうであるだけに問題は深い。
第12章 まとめに代えて
・・・本件百条委員会は、本件文書問題についての調査報告書を定例議会に提出し、事実関係の分析結果を報告するとともに、知事のパワハラや県当局の公益通報に対する対応についての見解を明らかにして、改善提言を述べる等したが、斎藤知事は、これに対しても、「違法の可能性があるということは適法である可能性もある」、「パワハラに該当するか否かは司法の判断することである」等として、報告書を正面から受け止める姿勢を示していない。報告書は、元西播磨県民局長の公用パソコン内に存した私的な情報が漏洩したことを問題視し、現在第三者(弁護士)によって行われている調査の結果を速やかに公開し、刑事告発を含めた厳正な対応を求めるとの意見を示したが、この点についても、情報漏洩をした職員を懲戒処分する可能性があるとの理由を述べて、必ず公開するとの姿勢は示していない。逆に、公用パソコン中の私的情報に触れて、中身は見ていないとしながら、「倫理上極めて問題がある文書だった」、「わいせつな文書を作成していた」などと発言した。
本調査委員会が、調査を通じ、最も述べたいところは、組織のトップと幹部は、自分とは違う見方もありうると複眼的な思考を行う姿勢を持つべきということである。また、組織の幹部は、感情をコントロールし、特に公式の場では、人を傷つける発言、事態を混乱させるような発言は慎むべきということである。
