『文學界』で連載していた又吉直樹の小説『生きとるわ』を読んだ。小説を読んだのは久しぶりである。
近くの図書館のリサイクル本コーナーに『文學界』2024年1月号が置いてあったのを持って帰り、新連載開始として冒頭に掲載されていたのが読んだきっかけ。
何気なく読み始めたらグイグイと引き込まれ、続きが読みたくなって、図書館でバックナンバーを読んだ。すると何と発売されたばかりの最新号が最終回であった。
短期集中連載と謳っていたが、1年以上にわたる全14回の掲載だったことになる。
又吉直樹は『火花』『劇場』『人生』を読んだことがあり、どれも面白かった。
彼のエッセイも好きで、何冊か買って持っている。
太宰治の強い影響を受けた、ペーソスに溢れた自虐的な笑いを盛り込んだ万年文学青年のようなグルグルした自意識過剰な文体が癖になるところがある。
言うまでもなくお笑い芸人としてのユーモア感覚も他の作家の追随を許さない鋭さを持っている。繊細な人間関係を描き人情に訴えるところもあり、個人的には太宰治よりも織田作之助の現代版という印象を受ける。
この『生きとるわ』は、これまでの又吉直樹の作風が一段発展した形で魅力が発揮されている感があり、自分が読んだ限りでは疑いなく最高傑作と思う。
ネットを少し漁ってみたがまだ詳しい感想のようなものはあまり目につかないが、個人的にこの作品の長所を挙げると、作家自身のパーソナリティを反映しているように見える主人公の描き方のいつもの巧みさに加え、物語の副主人公である横井というキャラクターの造形が見事である。
高校時代の同級生たちが社会人になりそれぞれの人生が交錯する。登場人物の書き分けがすぐれていて、特にオカルト的な世界観(本人によれば陰謀論ではない)にハマっていく大倉にはリアリティを感じた。高校時代からヘタレなところのあった横井は結局正真正銘のクズ男に成り果てるのだが、このいかがわしさの塊のような人物の憎み切れない一面や主人公がそれに半ば自覚的に騙されて行く姿が説得力を持って描かれている。
やはり高校生のときからの縁で夫婦となる妻との関係性の顛末も涙なしでは読めない。
まだ単行本化される前なので詳しいネタバレは避けるが、個人的には最後のちょっとしたどんでん返しには疑問が残った。ここは当然異論もあるだろう。
『人生』を読んだ時には、これで自伝的な作品には一区切りがついて、これから又吉直樹はどんな小説を書くのだろうと思っていたが、この小説は彼の作家としての健在ぶりをみせつける(まさに「生きとるわ!」)充実した一作であると思った。
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