書店で見つけて、若干の躊躇いの後に購入。
同誌のマイケル・ジャクソン追悼特集はむしろすすんで購入した(そして後悔した)のに、プリンスのものを買うのに抵抗感があったのは、まだ彼の死を現実のものとして受け入れたくないという心理が働いていたためであろうか。いずれにせよ余り積極的に読みたい気分というよりは、半ばファンとしての義務感から購入に至った。
とまれ、MJのときのように、各記事について簡単な感想を述べておきたいと思う。かなり厳しい話もするが本音でいきたい。
【少数者の王子/松浦理英子】
いきなり泣いた。100点。
【TAFKAPかく語りき/ジム・ウォルシュによるインタビュー記事】
1996年11月に行われたインタビュー。ワーナーの束縛を脱して「エマンシペイション(解放)」をリリースする直前の、ポジティブなバイブスに溢れていた頃。カリスマ的な天才にしか使えない語彙と、超常的なヴィジョンが片時も頭から離れることのない人種にしか出せない高揚感に満ちている。インタビュアーのジム・ウォルシュは、控えめな日本人にはありえないほど突っ込んだ質問で切り込んでいくが、その度に魔術のような目くらましに遭うばかりだ。今となっては点数のつけようのない貴重な記録。
【笑っちゃうほどすごいし、ありえないほど美しい 向井秀徳と西寺郷太による対談】
西寺郷太は『プリンス論』も書いているしいまや日本におけるプリンス学(笑)の権威であるのは知っているけど、元ナンバーガールでザゼンボーイズの向井秀徳がプリンス・フリークだったことは不勉強にして知らなかった。向井のスタジオでギターとドラムとシンセを演奏しながらプリンスの楽曲について語り合ったこの企画は、誌上収録だけではなく音源で聴きたかった(対談の音声をダウンロードできるサイトにリンクするとか。もう手遅れか)。80点。
【音楽への無条件の信頼/湯浅学】
湯浅学のMJ追悼号の記事は酷評した記憶があるけれども、プリンスについてはとても誠実に語ってくれた。70点。
【「闘争者」としてのプリンス・ロジャー・ネルソン/吉岡正晴】
音楽評論家としてプリンスの音楽面について語ることは他の媒体で十分にしているので、この記事では「創造的表現の自由」のためのファイターとしてのプリンスに焦点を当てて書かれている。奇しくも先日亡くなったモハメド・アリについての言及もこの場に相応しいものだろう。70点。
最近はすっかりメタル評論家と化している感のあるバラカン氏だが(嘘つけ)、MJについては「お前がしゃしゃり出てくんなボケ!」と言いたくなるような駄文を寄せていた彼が一体プリンスについて何を語るのか? と思って読んだら、「プリンスはいいメロディを書いた。でもスティービー・ワンダーには劣るけど(笑)」「80年代に一度同じホテルに泊まって見かけたことがある」というだけの相変わらずの中身のない駄話。日本のメディア関係者は、そろそろ英国人(でしかも日本語が喋れる人)の音楽観を無条件に崇拝してしまう悪しきコンプレックスから解放されてはどうだろうか。20点。
だから何? というだけの感想しか持てなかった。高名な文芸・音楽評論家であらせられるのは知ってるけど、プリンスについて書く資格のある人はもっと他にいるんじゃないだろうか。そしてプリンスについて書くべき内容はもっと他にあるんじゃないだろうか。20点。
【「この曲のベース・ラインはどこだい?」/大谷能生】
この記事のタイトルは、「ビートに抱かれて」を聴いたマイルス・デイヴィスがプリンスに尋ねたとされる有名な質問だ(大谷と菊地成孔の共著『M/D』で知った)。後半部の濱瀬元彦の「下方倍音列」と絡めて語られる音楽論についてはやや牽強付会の赴き無きにしも非ずだが、前半部でプリンスの音楽がMTVを通じてお茶の間に飛び込んできたときにぼくたちの世代が感じた異物感と衝撃を大谷は的確に言い表している。70点。
【踊れなくなったプリンス/宇野維正】
晩年のプリンスが肉体の酷使から来る痛みに悩まされていたことはすでに誰もが知る事実となったにせよ、90年代前半からすでに「踊れなくなっていた」(痛みと闘っていた)のだろうという指摘にはハッとさせられた。自分が我を忘れて陶酔した「サイン・オブ・ザ・タイムス」と「ラブセクシー」の激しいダンス・パフォーマンスが彼の肉体にどれほどの負担を与えるものだったのか。本来ダンサーではない彼がMJへのライバル心もあって自分を追い込んでいった過程は想像することしかできないが、胸が痛む。宇野が指摘する通り、「生きている時のプリンスは、そんなことを考えさせる隙を一切ファンに与えなかった」。読みながら二度目の涙が出た。90点。
【インタビュー 気持ち悪くて気持ちいい 及川光博(聞き手かつとんたろう)】
できれば岡村靖幸か、そうでなければスガシカオあたりが望ましかったところではあるが、ミッチーがふさわしくないとも言い難い。微妙な線を狙ってきた、というよりオファーを受けてくれたのが彼だったということだろう。ミッチーへの悪気はないが、プリンスについてのインタビューなのか彼自身についてのインタビューなのかが曖昧になってしまっているきらいがある。内容は特筆すべき点なし。50点。
【聖なるセックス(マシーン)/大和田俊之】
このあたりから『現代思想』らしい硬めの記事が続く。ファンクとディスコ、シンセに関する分析は「まあ興味深い」の域を出ないが、筆者のプリンスへの確かなリスペクトは伝わってくる。70点。
【プリンスと人種をめぐる諸相/出田圭】
豊富な知識に基づく分析。70年代の米国音楽業界がロックを白人の文化としてその利益を確保すべく、黒人によるロックへのアクセスを封じたという説が真実だとすれば、プリンスの仕事にはマイルス・デイビスが70年代に試みた音楽的越境(クロスオーバー)の継承者という側面もあるのではないかと感じた。75点。
【特異性の論争/森元斎】
哲学者によるエッセイ。MJ追悼号におけるこの手の文章は衒学的で読めたものではなかったが、筆者のプリンスへの確かなリスペクトが伝わってくるために読ませる。MJとプリンスの追悼号のこの差異が何故に生じるのかについて考えさせられた。70点。
【プリンスという<コンセプト>を探る 萩原健太と高橋健太郎の対談】
高名な音楽評論家による対談。ポップミュージックの全ジャンルに精通した二人が俯瞰的に語っているからプリンス個人への思い入れのようなものは感じられないが、こういう記事があっても構わないだろうという意味で70点。
「プリンスは基本的には詩人である」という観点から読み解く。個人的には、初めて買った『パープル・レイン』に入っていたシートに書かれていた、あのキモいポエムを想起できたのが収穫だった。「あなたは自分が何者か知ってる? そうすればどちらが先に叫んだのかなんて、どうでもよくなるはず。どっちが先にリンゴを食べたかだって、関係なかったでしょう? いずれにしろ哀しい結果におわったのだから。」70点。
【想像力の架け橋を/樋口泰人】
「パープル・レイン」や「アンダー・ザ・チェリー・ムーン」などの映画についての考察。退屈で読みながら途中で寝てしまった。50点。
【プリンスのドリームスケイプ/新田啓子】
「気持ち悪い」が最大級の賛辞となるポップ・スターは僕の知る限りプリンス以前にはいなかったのではないだろうか。だから彼がいなければ岡村靖幸が日本でこれほど受け入れられることもなかったのではないだろうか。70点。
つづく