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健康に対する確信が揺らぐ『遺伝子が語る 免疫学夜話』

健康とは何でしょうか。

今現在健やかであることでしょうか。それはそうだろうという気もします。しかし、今健やかだとして、例えばインフルエンザ・ウイルスやカンピロバクターといった病原体にたやすく感染して発症するならば、それでも健康と言えるでしょうか。

では、何らかの病原体が来てもそれらをはねつける力を持っていることが健康なのでしょうか。

日経サイエンス誌の書評で知った『遺伝子が語る 免疫学夜話』という本を読みました。

そして何とも言えない不安な気持ちになってしまいました。

この本を読むまで、私は健康であるとはどういうことかに対して、一定の視点を持っているつもりでした。それらはこれまで学んだ科学や、これまで読んだ一般向けの科学解説書からの知識に立脚するものです。正直言って、一般市民としては人並み以上の知識があるつもりでした。

しかし今は、健康であるとはどういうことかについて以前ほど自信がありません。

この本は自己免疫疾患の研究者が自分の研究分野の話を一般向けにかみ砕いて説明した本です。内容はやや散漫で、書籍としては話の焦点を掴みにくいところががあちこちにあります。

しかし、書かれている内容はこちらが言葉を失うようなものです。おそらく、この本に書かれている内容は、冒頭に現れるこの問いへの回答と言っていいでしょう。

免疫系が自己を攻撃するような破滅的なことが、「進化」の過程で選択されるはずがない、生体はそれを防ぐための仕組みを備えているはずだ、というわけです。 ところが、実際には自己免疫疾患やアレルギーといった病が存在します。それはなぜなのでしょうか?

免疫系が自己を攻撃するような遺伝子疾患がある場合、そのような遺伝子はその個体が子孫を残しにくいため、淘汰圧力をうけて消滅していくはずです。ところが、実際にそのような疾患はいくつもあり、多くの人を苦しめています。

このパラドックスに対して、筆者は『この現象は過去のパンデミックによる人口ボトルネックで説明できる』と説きます。

イタリアはサルデーニャ島の鎌状赤血球症はマラリアへの耐性を示す病としてよく挙げられます。この島では赤血球が異常を起こす遺伝子疾患(鎌状赤血球症)を患う人が多いのですが、この疾患を持つ人の赤血球にはマラリア原虫が寄生できないため、マラリアが発症しません。

この例自体は私も『免疫の意味論』をはじめとする本で読んでいました。

ただ、本書ではさらに踏み込んだ仮説を披露しています。

どうしてそんな都合のよい遺伝子疾患が、マラリアの多いサルデーニャ島に蔓延しているのか。それはかつてこの島の人たちがマラリアで激しい人口減少(ボトルネック)に直面し、全滅寸前に追いやられたからではないか、というのです。

苛烈な疫病で人口が激減したとき、偶然にも鎌状赤血球症を発症していた人たちは、生き残って子孫を増やす可能性が高かったはずだというのです。言い換えると、激しい運動ができないために本来子孫を残すうえで競走上不利なはずの鎌状赤血球症の遺伝形質が、疫病によって子孫繁栄の上で有利になるという逆転現象が起きたと考えられているのです。

本書にはこれに似た事例がいくつも挙げられます。そして、核心である「免疫が自身を攻撃する」遺伝子疾患が、生存競争上有利に働くような疫病のメカニズムが紹介されます。

自己免疫疾患は言うまでもなく健康を損なう病気です。しかし、この病気は祖先が過去の疫病を耐え抜いた痕跡かもしれません。同じ疫病が再度猛威を振う時が来たら、バタバタと倒れる『健康』な人をしり目に自己免疫疾患を抱えた人はパンデミックを耐え抜くかもしれません。

最初に書いたように、本書の読後、私は健康とは何かわからなくなってしまいました。それはひょっとすると本書の冒頭にあるような「医学が発達する前の病気と発達した後の病気は違う」ということであり、私がそれを十分に理解していないという事なのかもしれません。




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