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第十七話 八王子山の血路 『仮観の法灯ー新説:比叡山焼き討ちー』

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これまでのあらすじ

元亀二年九月十二日 織田信長による比叡山焼き討ちが始まった。芦浦観音寺の少年、海(かい)は、絶望的な状況下で比叡山の命と文化を救うべく、明智光秀と「共犯」の密約を交わす。
一方比叡山の僧侶・詮舜は腐敗した僧兵たちを焚きつけ、信長軍を引き付ける「囮」として死地へ送り込む。その裏で、老僧・実賢は八百年(当時)の伝統を誇る「不滅の法灯」を守るべく、自らの命を賭した最後の勝負に打って出た。
それぞれの「嘘」と「覚悟」が交錯する中、比叡山の炎は勢いを増していく。

 

登場人物紹介

実賢(じつけん): 比叡山の老僧。八百年の「不滅の法灯」を救うため、自らの命を賭した最期の勝負に挑む。エロ爺。

澪(みお): 山門に仕える比叡女。絶望的な業火の中、命がけの脱出を試みる。

海(かい): 芦浦観音寺の少年。光秀との密約を手に、知略と高い身体能力で、歴史の裂け目から命を掬い上げる。

 

 

第十七話 八王子山の血路

九月十二日、早朝。 ついにその時は訪れた。山門陣営は坂本方面の織田軍本陣へ主力を向けたため、それ以外の進軍路防衛は相対的に手薄になっていた。想定していたよりも遥かに多数の軍勢が瞬く間に山上を蹂躙した。

根本中堂周りは 火の海となり、阿鼻叫喚の地獄と化した。堂内で、老僧・実賢(じつけん)は独り、震える手で油を掬っていた。

「……消させはせん。これだけは、絶対に消させはせんぞ」

普段、女人堂でおどけていた「好色爺い」の面影はどこにもない。彼は八百年、一度も絶えることのなかった「不滅の法灯」の火を、手持ちの小さな灯篭へと慎重に移し替えていた。

その時、堂の扉が荒々しく蹴破られた。

「坊主共は皆殺しだ! 首を持っていけ!」 乱入してきたのは、返り血を浴びた織田の足軽たちである。実賢は灯篭を懐に抱え込み、後ずさる。

「逃げられよ、実賢様!」 駆けつけたのは、若き堂衆(どうしゅ)たちであった。

彼らは薙刀を振るい、壁となって足軽たちの前に立ち塞がった。

「老いぼれの首など放っておけ! あのクソ坊主どもを仕留めろ!」

よろめく足取りで逃げ出そうとする実賢。背後から飛んできた刃が、実賢の脇腹を浅く裂いた。

「ぐっ……!」

実賢は激痛に顔を歪めながらも、杖を突き、仲間が作ってくれた血路を必死に抜けていった。背後からは、自分を逃がしてくれた若者たちの断末魔が響いてくる。

自分と入れ替わりに次々と僧達が信長側の足軽に向かっていくが、おそらく長くは保たないであろう。

若い火が消されていくのを背中で感じながらも実賢は振り返らなかった。振り返れば、手元のこの火が消えてしまうような気がしたからだ。

 

比叡山麓 八王子山付近
 比叡山全域が猛火に包まれる中、西塔の僧侶たちを中心とした避難列は、八王子山から北方へと動き始めていた。お滝もまた、預かっていた大部分の子供たちの手を引き、煙の向こうへと消えていった。

 だが、その列から取り残されている一団があった。

「痛い……痛いよ、澪(みお)姉ちゃん」

「我慢して。今、布を巻くからね」  澪は、逃走中に鋭い石で足の裏を深く切ってしまった幼い少年の手当てをしていた。

周囲は火の粉が舞い、逃げ遅れた人々の悲鳴が響く。焦れば焦るほど、少年の出血は止まらない。

 そこへ、闇を切り裂くように海が駆け込んできた。 「澪! 何をやっている、早く動け! いつ前線が崩れるか分からんのだぞ。」

「海様! ですが、この子が……歩けないのです」

 海は少年の傷を一瞥し、澪に代わって手早く手当てをおこなったあと、周囲を見渡した。自分が背負っていくこともできるが、この混乱の中、自分にはまだ全滅を避けるための「目」としての役割がある。

ふと、近くの藪の陰で、腰を抜かしたようにガタガタと震えている若い僧が目に留まった。

「おい、貴様!」  海は若い僧の胸倉を掴み、無理やり立たせた。

「荷物も持たず、怪我もなしか。よし、伝教大師様(最澄)が貴様に大事な仕事を与えてくださったぞ。この子を背負って避難路を走れ。一刻も早く、前の列に追いつくんだ。行け!」

「は、はっ! 承知いたしました!」  若い僧は、直立不動の体勢になった。

海の放つ圧倒的な殺気に「織田の兵より恐ろしい」と感じたのか、訳も分からぬまま怪我を負った子供を背負い、死に物狂いで避難列を追っていった。

 

「澪、お前もだ。後のことは俺がやる。……早く行け!」  

海は澪の背中を強く押し、避難を促したその時だった。 山頂から降りてくる坂の向こうから、燃え盛る炎を背負って、幽鬼のような人影がよろめきながら現れた。

続く

 

次回予告 第十八話:装裾一触

地獄の業火が八王子山を舐め尽くす中、血路を這う老僧・実賢。その手には、八百年の時を刻む「不滅の法灯」が静かに揺れていた。
瀕死の師と再会した澪。託されるのは叡山の魂か、それとも老僧の底なしの煩悩か。
少女を生存へと突き動かす前代未聞の退場劇。燃え盛る闇の中で、比叡山の歴史上最も熱く、最も不謹慎な「継承」が幕を開ける。

 

 

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<解説>
1. 「不滅の法灯」:嘘と真実の分岐点
史実では、元亀二年の焼き討ちによって最澄以来の「不滅の法灯」は完全に途絶えたとされています。 しかし本作では、その絶望的な歴史の裏側で、「誰にも知られず火を繋ごうとした者たちがいた」という可能性を活写しています。普段は好色な爺を装っていた実賢が、若き僧たちの肉壁を背に、脇腹を裂かれながらも灯篭を抱きかかえる姿は、本作屈指の聖なる執念を描き出しています。

2. 知略家・海の「機転による慈悲」
海が怪我をした少年を自ら背負わず、震えていた若い僧を脅しつけて走らせた場面は、彼のキャラクターの本質をよく表しています。 海には、個別の救済よりも優先すべき「全体の状況把握」「避難路の確保」という重責がありました。伝教大師(最澄)の名を出し、宗教的な権威に弱い若い僧の心理を逆手に取って強制的に役割を与える。この冷徹なまでの判断力こそが、結果として一人でも多くの命を救う「知略による慈悲」となっています。

3. 運命の交差点:澪と幽鬼の影
避難列から遅れた澪と、子供たちの救助に奔走する海。この混乱の極みにおいて、二人は「偶然」再会します。しかし、安堵する間もなく現れた「炎を背負った幽鬼」の影。 この人影が、血路を抜けてきた実賢なのか、あるいは追撃の手を緩めぬ織田の兵なのか。炎の赤と煙の灰に包まれた八王子山で、物語は運命的な合流へと向かっていきます。

 

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