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第八話 猛将の眼光 『仮観の法灯ー新説:比叡山焼き討ちー』

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これまでのあらすじ(第1話~第7話)
琵琶湖の少年船頭・海は明智光秀と出会い、堅田の紛争を収めてその才を認められる一方、比叡山では少女・澪が腐敗した僧兵たちの実態に怯えていた。霧深い女人堂で運命の邂逅を果たした二人は、信仰と現実の狭間で激しく言葉を交わす。戦火が迫る中、海は密使として坂本の織田本陣へ向かい、そこで猛将・蜂屋頼隆と対峙することになる。

 

 

第八話 猛将の眼光

元亀二年、九月。坂本。

海(かい)は、慶順からの密書を携え、坂本の織田本陣へと向かっていた。表向きは「陣中への干魚と兵糧の納品」という、観音寺と織田軍の取引を装った潜入である。

坂本の町は、すでに織田の兵火に備えて、家々の壁には隙間なく竹束や盾が並べられ、戦の乾いた臭いが満ちていた。 海が本陣の門をくぐろうとした時、背後から地響きのような蹄の音が迫った。

「――どけい、小僧!」

鋭い声と共に、一騎の騎馬武者が海のすぐ脇を駆け抜けた。泥を撥ね飛ばし、馬を鮮やかに操って降り立ったのは、漆黒の当世具足を纏った男。蜂屋兵庫頭頼隆(はちやひょうごのかみ よりたか)である。

「兵庫頭(蜂屋)殿、お戻りか」 奥から現れたのは、明智光秀であった。 頼隆は光秀に短く頷くと、傍らで泥を拭っている海を、鷹のような鋭い眼差しで射抜いた。

「十兵衛(光秀)殿。貴殿の陣には、近頃は小鼠(こねずみ)まで出入りを許すようになったのか。軍機が漏れては一大事ぞ」

頼隆の声は、低く、冷たい。彼は腰の刀の柄に手をかけたまま、海へと歩み寄る。その威圧感は、並の大人なら腰を抜かすほどのものであった。光秀は微かに口角を上げ、海を庇うように一歩前に出た。

「これは失礼した。この者は芦浦観音寺の使いでな。琵琶湖の『道』を誰よりも知る、私の大事な道案内よ。……海、兵庫頭殿にご挨拶を」

海は泥のついた顔を上げ、頼隆の目を真っ直ぐに見つめた。恐怖はない。ただ、この男が放つ「合理的で無駄のない殺気」を、動物的な本能で観察していた。

「……芦浦の海の使い、海です。蜂屋様。軍機を盗むほど暇じゃありませんが、坂本の道の悪さと比べりゃ、俺の船の底の方がよっぽどマシだとお伝えしておきます」

「ほう……」 頼隆の目が細められた。光秀の陣でこれほど堂々と口を利く子供はいない。頼隆は海の腰にある「光秀から貸与された小刀」に目を留めた。

「十兵衛殿。その小刀……貴殿の家宝ではないか。それをこのような童(わっぱ)に預けるとは、よほどの信頼か、さもなくば狂ったか」

「案外どちらも、かもしれませんな」と光秀が自嘲気味に笑う。

その時、本陣の隅で兵たちが運び込んでいた大筒の荷崩れが起きた。どうやら配属されたばかりの若い輜重兵のようだ。重い火薬箱が、今にも傾いた大八車から滑り落ちようとしている。兵たちが慌てふためく中、海は咄嗟に駆け出していた。

「右だ! 左の車輪に噛ませた石が甘い! 全員左へ回れ、右から支えるな、潰されるぞ!」

少年の鋭い叫びが、混乱する兵たちを統制した。まさか指示を出しているのが自分らより若い、ただの船乗りとは気づかず、言われるがまま従った。海は自ら泥の中に膝をつき、車輪の下に近くの角材を蹴り込む。間一髪で荷は止まった。海は平然と立ち上がり、泥を払いながら言った。

「大八車を使うなら、坂の勾配だけじゃなく、風の向きも考えたほうがいいよ。この湿った風じゃ、縄が伸びて緩むんだ」

若い兵達は「誰?」という表情で顔を見合わせながらも、海に礼を言った。

 

頼隆はしばし沈黙した。そして、ふっと口元に冷笑ではない、ある種の得体の知れない感心を浮かべた。

「光秀殿、先ほどは失礼した。『狂ったか』というのは取り消そう。そなた、名は海と申したな。」

ちょっと誇らしげな光秀を一瞥して、頼隆はつづけた。

「咄嗟の判断が早い、また指示が的確である。戦場(いくさば)に向いておるな。光秀殿に貸しておくには惜しい。焼き討ちが終わったあと、この蜂谷頼隆が召し抱えてやってもよいぞ」

「お言葉ですが、将軍。身に余る光栄なれど、判断の速さ、指示の的確さは本来船乗りにこそ必要なものです。俺は琵琶湖の風にしか従いませんよ。」

海が不敵に言い放つと、隣にいた光秀が声を上げて笑った。

頼隆は鼻を鳴らし、そのまま本陣の奥へと歩を進めたが、その背中は、海という存在を「ただの子供」から「警戒すべき異質な存在」としてその脳裏に刻み込んだことを示していた。

海は、掌に残る泥の感触を噛み締めながら、立ち去る頼隆の背中を睨んだ。 (蜂屋頼隆……。この男、光秀様よりもずっと『信長』に近い。……厄介な奴に出会っちまった)

続く

 

 

次回予告 第九話 聖俗混淆

「動かぬ水は腐り、山は墓場だ」――海が放つ残酷な否定が、澪の信仰を揺さぶる。 静寂の闇に灯る千年の法灯と、濁りを浄化する水の理。老僧実賢が説く「真実」とは。

 

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<解説>

改めて蜂谷兵庫頭頼隆(はちやひょうごのかみよりたか)について調べてみたのですが、どうも他の派手な武将たちに比べ、パッとしないんですよね。

織田信長の古参の家臣で黒母衣衆という精鋭部隊であったにも関わらず出世が遅いし、目立った合戦での活躍もありません。ゲーム信長の野望シリーズ でもほぼ皆勤賞レベルの武将であるにもかかわらず、です。

どちらかというと、総大将と言うより信長の信頼の厚い最側近で、必要なところに軍事力を手当するような遊撃隊的な存在だったのではないか、と推測しています。

今大戦である比叡山焼き討ち。誰がどのエリアを担当していたのか?詳細には語られていません。こういった場合は執筆者の自由度が上がりますな、ふっふっふ。

 

焼き討ち後に比叡山+坂本一帯を任された明智光秀が主力であったのはほぼ間違いないようです。

第三話で登場した佐久間信盛は、前年の志賀の陣にも主力で出陣していました。比叡山包囲のうち北側を担当し、なおかつ北陸から再度進軍してくる可能性のある朝倉軍に睨みを利かせていたと考えます。従って堅田の支配に手が回らなかったのではないか、と。

かといって明智光秀も、焼き討ち前は森可成 亡き後の宇佐山城(比叡山の南)を本拠地としており、西側の坂本から攻め込むのであれば手が足りない、と。

そこで都合よく登場したのが蜂谷頼隆。信長の命を受けて「明智を手伝ってやれ」と。

明智配下、という訳ではなく同等の立場で遊撃隊TOPとして坂本で陣頭指揮を執っている、という設定でこの物語は進んで行きます。

海(かい)に振り回される少し損な役回りです。後半に海と干戈を交えない、熱いバトルがありますのでご期待下さい。

 

次回はエロ爺の真面目なお説法に耳を傾けましょう

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