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何に重きを置くか、価値観の違いによる銅!

連日日本勢の活躍がつづくミラノ・コルティナ五輪。この日もカーリング女子日本代表フォルティウスの奮闘や、スノーボード女子ハーフパイプで世界を席巻した日本女子の活躍など、多くの話題がありました。そのなかで、一言いわずにおれないのが、限りなく金に近い銅、別の世界線なら金になっているはずの銅、フリースタイルスキー男子モーグル堀島行真さんの銅メダルについてです。

前日、冨?日向子さんが3位と同スコアながらターン点が少なかったことで4位となった惜しい結果がありました。「モーグルはやっぱターンなんよ」という世界観によってわかれたメダルの有無。この堀島さんの銅もやはり同じように「モーグルはやっぱターンなんよ」「エアも大事だけどエアじゃないんよ」「エア頑張られても何か違うんよ」という世界観によって金ではなく銅だった、そういう性質のものだと思います。なので、胸を張って、金の顔で帰ってきてほしいと思います!




今大会、堀島さんは金候補の一角、本命に近いところにいたと思います。ビブナンバー1は直近のワールドカップで世界ランク1位の者の証。そのチカラそのままに予選ではただひとり80点台、しかも85.42点という高いスコアを出して、堀島さんは一発で決勝進出を決めました。これまでの三大会いずれも金を獲り得るチカラがあったと思っていますが、今回は「獲り得る」ではなく「獲るべき」まできていた、そう思います。多少本番で固くなることを差し引いても。

迎えた決勝1回目(準決勝)。最後に登場した堀島さんは、第1エアをダブルフルツイスト(難度1.05)、第2エアをコーク1080(難度1.05)の構成で滑ります。タイムは22秒61で上々、ターン点48.3点も上位につけます。ただ、エアについては第1エアは出来栄え6.2〜6.3、第2エアも7.5〜7.6と伸びません。解説の上村愛子さんが「とてもキレイですね」と見た第1エアの評価が失敗ジャンプレベルで低いのは謎でしたが、質なのか、高さや距離なのか、あるいはスムーズさなのか、何か問題があったのでしょう。そこは専門家の目を信じるしかありません。

ちなみにモーグルのエアの得点は実施した技の難度×ジャッジの評価で決まり、やや乱れがあると評価7.0くらい、クリーンに成功すると評価8.0くらい、大成功で評価9.0くらいになる感じでしょうか。同じ難度1.00の技を実施しても、出来栄えによって7.00点になったり8.00点になったり、9.00点になったりするわけです。そこで出来栄え6.0台を出してしまうと、そのエアひとつでライバルとは2.00点から3.00点くらいの差がついてしまいます。ここは決勝に向けて調整していきたいところです。

迎えた決勝、堀島さんは4番目に滑り、決勝1回目上位の4人の結果を待つ流れとなります。堀島さんはこの舞台で最高の自分を出すべく、大きな決断をしました。ここまで実施してきたよりもさらに1回ひねりの多い、コーク1440を第2エアに投入したのです。着地は後傾になりましたが、手も尻もつかないいわゆる「成功」の着地です。最終的にライバルは誰も実施することのなかったこの大技を決めた、これがスノーボード会場であったら、もうそのひとつだけで拍手喝采であり、「さぁ、ほかのみんなも1440出さなければ勝ちはないぜ?」と観衆とジャッジの空気すら変わるようなものだったろうと思います。

しかし、ここはモーグル会場。

モーグルの価値観で競う試合です。

堀島さんの得たスコア83.44点は十分に高く、金を含めたメダルに値するスコアでした。しかし、そのなかにおける「コーク1440を決めた」という事実はさほど評価されておらず、何なら「やらないほうがよかった」まである冷遇ぶりだったのです。堀島さんが全選手で唯一決めたコーク1440の難度は1.22、出来栄えの評価は6.8〜6.9、得たスコアは8.35点でした。これがどのくらいのスコアかというと、実は第1エアで決めたダブルフルツイスト(難度1.05/評価8.2〜8.3)で得た8.71点より低いのです。大技を決めたけれど、実は点数的にはそんなに積み増せていなかった。

そして、このエアの部分が金でも銀でもなく銅になった分かれ目でした。堀島さんのタイムは金銀となった2選手よりも上で決勝8人中で3位。ターン点48.3点は、金メダルとなったクーパー・ウッズさんの48.4点にはわずかに及ばないものの、銀のミカエル・キングズベリーさんの47.7点を十分に上回るものでした。ただ、金銀がエアで17.74点、18.68点を取ったのに対して、堀島さんは17.06点に留まっていました。金銀のふたりが跳んだエアは第1エアは堀島さんと同じダブルフルツイストで、第2エアは「グラブを入れたコーク720」と「コーク1080」でした。堀島さんよりひねりが2回、1回、それぞれ少ない技でした。しかし、技の難度はひねった回数ほどに違わない(銅1.22/銀1.05/金1.01)ことで、完成度による評価の差で、この第2エアだけで0.8点ほどの差をつけられたのです(銅8.35点/銀9.13点/金9.19点)。

もし堀島さんが第2エアでこれまで実施してきたコーク1080(難度1.05)を選んでいたら。そして、第1エアと同様に評価8.3程度の出来栄えで実施していたら、スコアは8.71点となりメダルの色は金に変わっていました。これを考えると、エアでひねりを増やすことのメリットは小さく、難度の低い技であっても美しく決めたほうがスコアが高かったという、身もふたもない現実が浮かび上がってきます。かねがねそう感じていたことではありますが、モーグルでエアを頑張るのは割に合わない、そういう話なのかなと。

↓決まったように見える大技ですが「やらないほうがマシ」まであったという話です!




残念な思いはありますが、これがこの世界線におけるモーグル競技の価値観です。大事なのはあくまでもターン。エアで曲芸を競う競技ではない。エアの回転数にはそんなに興味がないし、回転数を増やしたとしても乱れたら意味なし。そういうクルクル勝負がやりたければエアリアルとかビッグエアとかをやってくれ。そんな価値観のなかで勝つためには、この日の堀島さんの選択はもしかしたら違っていたのかもしれません。

それでも、それでも、僕は、自分ができる最高の技を最高の舞台でやることには、メダルとは別の譲れない価値があると思います。堀島さんとて完璧な出来栄えでの1440を決めるつもりで跳んだのでしょうから、それはもう唯一無二の選択だったと思いますし、勝つための尊い挑戦だったと思います。守るよりも攻めるべき、その哲学を大事にするひとりとして、堀島さんの選択を敬意をもって尊重したいと思います。

惜しむらくはこの世界線のモーグルでは、エアで頑張るのは割に合わないなということだけ。

たとえば体操で跳馬の価値点を見れば、同じ形でひねりの回数が違うドリッグス(伸身カサマツ1回半ひねり)、ロペス(伸身カサマツ2回ひねり)、ヨネクラ(伸身カサマツ2回半ひねり)では価値点が4.8、5.2、5.6と半分ひねりごとに0.4点ずつ違います。1回ひねりで点の伸びる割合としては跳馬の「5.6÷4.8=約1.17」もモーグルのエアの「1.22÷1.05=約1.16」も同じくらいですが、体操の跳馬の場合はここに出来栄えのEスコアを掛け算するわけではなく、1回多くひねったぶんの0.8点差は出来栄えによらずそのまま残ります。そして、跳馬の0.8点はモーグルの0.8点よりも遥かに大きな価値があります。大きなミス1個分くらいの価値の差が、最初からひねり1回に対して与えられている。

フィギュアスケートなどはもっと顕著で、トリプルジャンプと4回転ジャンプとでは基礎点に5点程度の差があります。3回転トゥループと4回転トゥループとでは、基礎点4.20と基礎点9.50で倍以上の差があります。たとえ失敗したとしても回転数が上の技に挑むだけのメリットが最初からあるわけです。その点で、この世界線のモーグルのエアは「回転数を増やして乱れるくらいならやらないほうがマシ」という設定になっており、それが競技としての考え方なのだろうと思います。「曲芸で勝ち負けを決めるつもりはないんだよ」という。

それはひとつの考え方だと思います。

回転数こそすべてという状態になれば、相対的に体格が小さい人が多いアジア系が有利になるのはさまざまな競技を見ても明らかです。それが競技として正しい状態かもしれないし、そうならないように回転数に対する価値を低く見積もるというのもひとつの考え方ですし、それを決めるのはモーグル界の選択です。モーグル界の選択と、堀島さんの選択は、上手く嚙み合わなかった。ただそれだけです。この世界ではない、別の世界線のモーグルでは、圧倒的な大技を決めた堀島さんが文句なしの金を獲った世界線もあるだろうと思います。

他人がどう評価しようが、堀島さんがやったことの凄さは変わりません。

見る人によって価値観が違うだけのことです。

なので、まぁ、これが採点種目だと思って、

気にせず、次に向かってほしいと思います。

デュアルモーグルでは完璧なランで金を獲って、見せつけてやりましょう!

↓オリンピックの勝ち方を探すよりも、堀島さんの価値観を見せつけて、世界を変えてしまえ!




僕の世界線では堀島さんにプラチナメダルが授与されています!