最後の最後まで金に迫った銀!
熱戦つづくミラノ・コルティナ五輪。日をまたいで激闘がつづいていたフィギュアスケート団体戦は、最後の最後の最後までメダルの色を争う競り合いがつづく熱い戦いとなりました。アメリカが金、日本が銀、最後に色は分かれましたが、どうなっていたかわからない、どうなっていても不思議はなかった、そういう決着だったと思います。
団体戦の仕組みはアイスダンス、ペア、女子シングル、男子シングルの4種目で予選(リズムダンス/ショートプログラム)、決勝(フリーダンス/フリープログラム)を実施し、その際の順位をポイントに換算して、その総合点で競うというもの。各カテゴリの1位なら順位点10点、2位なら順位点9点…と加算していったその最終スコアがアメリカ69点、日本が68点というものなのですから、本当にあとひとつ、どこかのカテゴリで順位が違っていればという話でした。素晴らしい戦いで、誇れる銀になったと思います。
↓なんかもう感動のフィナーレみたいになりましたけど、本番の個人戦はこれからです!
戦前の計算では、金に至る道を見出すのはかなり難しいように思っていました。各種目の下馬評でいうと、アイスダンスはアメリカ、ペアは日本、女子シングルは日本、男子シングルはアメリカが上回るだろうというところでした。ただ、順位点での換算となったとき、日本はアイスダンスで大きな順位点は得られないであろう見立てでしたので、そこでの差を挽回するには至らないだろうと思われました。
しかし、日本チームは金を追い、金に迫り、最後の最後まで可能性を追求しました。緒戦となったアイスダンスのリズムダンス、日本のうたまさペアは五輪という大きな重圧のなかで躍動し、8位・3点を獲得する見事な滑り出し。アメリカは現在世界一のチカラを持つとみられるチョック/ベイツ組でしたのでもちろん1位・10点の発進とはなりましたが、悪くない立ち上がりでした。
ペアでは日本のりくりゅうペアが個人戦の金を宣言するかのようなチカラを存分に示して日本が1位・10点、アメリカは5位・6点と差が詰まります。互いに世界のトップ選手を抱える男女シングルでは、まず女子で日本の坂本花織さんが集大成の大会にふさわしい圧巻の演技で1位・10点とし、アメリカのアリサ・リウさんの2位・9点をおさえます。
そして、日本にとって大きかったのが男子シングル。今季圧倒的なチカラで別次元の戦いをつづけるアメリカのイリア・マリニンさんに対して、日本の鍵山優真さんが「生涯最高」に近い演技で対抗します。マリニンさんは持てるすべての技を繰り出したわけではない「団体戦としての堅実な構成」「初の五輪らしさのある演技」でしたが、そのわずかなつけ入る隙を見事に突いて日本が1位・10点を獲得したのです。
↓会心の演技が「金」への扉を1枚開いた!
10チーム参加の予選を終えてからわずか数時間後に始まった決勝最初の種目アイスダンスのフリーダンスでは、力量通りの展開ではありますが、アメリカが1位・10点を加算し、日本は5位・6点の加算となりました。ここで日をまたぐわけですが、その時点での順位点はアメリカが44点、日本が39点というものでした。ここから規定を睨みつつ展望を計算するわけですが、本当に紙一重、糸一本のような道が確かに見えていました。
ペアでまず日本が1位・10点を取り、アメリカはショート順通りに5位・6点だったとする。これで1点差。女子シングルではこれは当日の出来いかんという部分もありますが日本が1位・10点を取り、アメリカは2位・9点だったとする。これで同点。最後の男子シングルでアメリカが1位を取れば、アメリカが金となる…それは逆に言えば、ペアと女子シングルで「こうなりそう」な範囲の結果になったとき、アメリカは男子シングルで勝たねばならないということでした。
全体の日程を考えたとき、ショートとフリーで2種目まで可能なメンバー入れ替えはまず日程の近い男子シングルで使いたいところでした。団体戦決勝から中1日で始まる個人戦、同じ日程間隔のアイスダンスに比べても4回転ジャンプの連発など体力的負担が大きくなる男子シングルは入れ替えをせずにこなすのは避けたい、避けるべきであろう種目だったはず。しかし、日本チームは鍵山優真さんと佐藤駿さんというグランプリファイナルの表彰台に立ったふたりでの入れ替えができますが、アメリカにはこのふたりを上回れるほどの入れ替えメンバーはいません。これがまさに団体戦。日本は世界一のりくりゅうペアと坂本花織さんが連闘でプレッシャーを掛け、男子シングルにバトンをつなぐことで、アメリカに「イリア・マリニンの連闘」を強いた。そうしなければ勝てない状況を作った。
それでもまだ日本の勝機は紙一重、糸一本です。「こうなりそう」な結果の通りだとアメリカが1点差で勝利する。ただ、どこかでもう1点差がつく状況…具体的には女子シングルに入れ替えで出てくるアメリカのアンバー・グレンさんが3位以下に留まるなどした場合、順位点で日本とアメリカが並ぶケースがあり得ます。その際は、「異なる種目の中で上位2つの順位点を合計して決定」となります。アメリカはすでにアイスダンスで1位&1位の20点が確定済ですが、その他の種目では20点の可能性はありません。逆に日本は残る3種目すべてで1位&1位で20点の可能性があり、ペアと女子シングルはそうなる可能性が高い。仮に男子シングルでアメリカが勝ったとしても、それは2位&1位の19点まで。つまり「総合で同点ならタイブレークで日本が勝つ」が濃厚であると。アメリカはリードする立場ながら追われる怖さをこれ以上ないほど突きつけられて臨む決勝です。
まず迎えたペアのフリープログラム。意地を見せたのはアメリカのカム/オシェイ組。苦しんできたジャンプ要素も踏み止まって決め、団体金を取るために頑張れるのは自分たちだという会心の演技。演技終了後に咆哮しながら抱き合うような演技で、中継解説の高橋成美さんからも「本当に嬉しい!」と、国とか勝負とかを超えて、同じスケーターとして熱演を讃える歓声があがります。この会心の演技は、あとから演じたカナダのペレイラ/ミショー組にスロートリプルループでのミスが出たことで、予選順位を覆す4位・7点につながりました。日本のりくりゅうペアも「史上最高」に迫るような素晴らしい演技で1位・10点を獲得しますが、団体戦としての趨勢はここで大きくアメリカに傾きました。この時点でアメリカ51点、日本49点。日本は男女シングルの順位で都合ふたつ上回る必要が出てきました。
↓フィニッシュと同時にガッツポーズが出るようなりくりゅうペアの見事な演技!私はガッツポーズが終わるまで降りない!
つづく女子のフリー。揺蕩う勝負はまだ決着を許しません。好演技つづく流れで4番目に登場したアメリカのアンバー・グレンさんは、演技冒頭に3つ連ねたジャンプ要素で着氷のこらえや、乱れによるコンビネーションの抜けなどが生じ、加点の部分で伸ばすことができませんでした。中盤からはしっかり立て直し、抜けたコンボもリカバリーしたものの、先に演技を終えていたジョージアのアナスタシア・グバノワさんには及ばず。これが初の五輪での初の演技という難しさでしょうか。その後、日本の坂本花織さんが力量と経験を高らかに示すような圧巻の演技で1位・10点としたことで、日本はここで2点差を詰めます。日本、アメリカがともに59点で並ぶ大接戦。メダルを確定させたうえで金と銀の色を争う、勝負は男子シングルでの最終決着に持ち込まれました。
↓「必ず20点取ってきて!」にしっかり応え、アメリカに連勝した大エースの働き!
同点で迎えた男子シングル。この演技で日本とアメリカ、上回ったほうが金、もう一方は銀となります。ジョージアとイタリアによる銅メダル争いが、地元イタリアのマッテオ・リッツォさんによる「嬉しさでリンクに泣き崩れる」ような演技で決着を見たのち、その素晴らしい空気・高揚感のなかで最終決着は始まりました。これが大会終盤であったなら…全員が大目標への挑戦を終え、「ここで出し尽くすことになっても構わない」と思える大団円の瞬間であったならと惜しまれるような時間です。
先に演技をするアメリカのマリニンさんは、多彩な4回転ジャンプを繰り出しますが、大技4回転アクセルには挑まず。4回転ループは3回転となり、演技後半に組み込んだ4回転ルッツでは大きくステップアウトしてコンビネーションにできず繰り返しのジャンプとなりました。プロトコルを見ればスピンやステップでの細かい取りこぼしも散見され「生涯最高」はもとより「期待された出来栄え」にも及ばない演技。それでもスコアは200点を超えているのですからさすが現役世界王者という話ではあるのですが、誰も届かないような演技ではありません。
順位で勝つしかない日本。団体戦最終演技者として登場したのは佐藤駿さん。今季さらなる飛躍を見せた「火の鳥」は冒頭の4回転ルッツを美しく決めると、トリプルアクセルからのコンビネーションも見事な出来栄えです。4回転トゥループからのコンビネーションもお見事。ジャンプ完璧、気迫最高潮。途中一瞬バランスを崩しそうになった瞬間もサラッと乗り越え、慌てるそぶりすら見せません。佐藤さんもこれが初の五輪・初の演技ですが、五輪の「魔物」をもぐら叩き並みの速さで返り討ちにするような素晴らしい演技です。フィニッシュのあとの力強いガッツポーズは、これ以上ない最高の演技だったことを示すものでした。よくやってくれたと抱きしめたいような誇らしい演技でした。金に手をかけるにふさわしい日本のアンカーでした。スコアを見るまで本当に決着がわからない、金に迫る銀でした!
↓ありがとう日本!ありがとう駿さん!素晴らしい団体戦でした!
ここに至るまで、メダルの色が変わりそうな瞬間はいくつもありました。フランスが決勝に進んでいればアイスダンスでもしかしたらひと波乱あったのではないか、とか。日本の苦しい種目とアメリカの特に得意な種目が重なっていなければ、とか。ここでこの演技が生涯最高レベルでなかったなら、とか。どのカテゴリに誰を出すかの采配が違っていたらあるいは、とか。あそこであのスピンが、とか。あそこであのステップが、とか。机上の計算はいくつも浮かびますが、五輪の舞台で出せたものだけが本当のチカラ。結果を真っ直ぐに受け止め、素晴らしい戦いの証としてこの銀メダルを誇ってもらえたらいいなと思います。
ここから選手たちはそれぞれ個人の戦いに向かっていくわけですが、団体戦が先に行なわれることで「一回滑って落ち着けた」とか「手ぶらではないことが確定した」など前向きな効果もあるでしょう。日本勢はホッカホカにあったまって臨めると思いますので、団体戦に出場していない選手も含めていい感じで五輪にノッていってもらいたいところ。
将来的には、やはりもう少しカップル競技での飛躍というか、個人戦でも複数エントリーできるような地力があると団体戦の金がハッキリ見えてくるはずですので、チャンスと思って各選手には狙ってもらえるといいのではないかと思います。昨今はフィギュアスケートも競技の方向性を模索しているようで、ショートとフリーで競う建付けから技術系のプログラムと芸術系のプログラムで競うような形への変更も検討されているとのこと。日本でも、これまで競技会を盛り立ててきたスケーターたちがプロとしてそれぞれの表現を追求する取り組みが盛んになってきていますので、そこで広がる価値観が競技会にも波及して、アイスダンスであったり芸術系のプログラムであったりの発展につながっていくと、必然として金にも手が届くだろうと思います。そんな明るい未来に向けて、頑張っていってください!
↓個人戦でもこれ以上の会心の演技ができますように!
団体戦であったまりましたし、今大会は個人戦での金も見られそうですね!