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すべての揺り戻しよ、今回こそ来い!

昨年スキージャンプ界隈を震撼させたスキャンダルについてご存知でしょうか。事の発端は2025年3月にノルウェー・トロンハイムで行なわれたノルディックスキー世界選手権でのことでした。スキージャンプ界隈の強豪国のひとつであるノルウェーが、この大会においてスーツに不正な改造を施していたことが発覚したのです。

スーツ検査を通過したのちの競技開始前の時間(=隙)に、揚力が大きくなるようにスーツを縫い直すノルウェーチームのコーチ・スタッフの姿を撮影した、内部告発者による動画の衝撃は凄まじいものでした。縫い直されていたスーツは北京五輪金メダリストにして、この世界選手権でも個人ノーマルヒルの金を獲っていたマリウス・リンヴィクと、平昌五輪の団体金メダリストであるヨハン・アンドレ・フォルファンら複数名のものだったといいます。

追及を受けたコーチらは不正改造をしたことを認め18ヶ月の資格停止処分となりましたが、「選手たちは知らなかった」としてリンヴィクらは3ヶ月の出場停止処分に留まりました。今季のワールドカップはもちろん、このミラノ・コルティナ五輪にも何もなかったかのように出場しています。ほんのわずか1センチでも2センチでもスーツを拡張すれば飛距離が数メートルのびるといわれるこの種目におけるスーツの改造は、ドーピングにも等しい許されざる行為だと僕は憤りました。今も憤っています。が、ひとり憤っているだけ、それが現実です。



その後、スーツを運営側が管理する新たな規定などが導入され、「それがどれほど効果を発揮するか」はさておき、事態は一応の収拾を見ました。が、燻る感情がおさまったわけではありません。スキージャンプの競技をめぐっては、ずっと心で耐えていることがあります。頭では「コレは日本も賛同して皆で追求した公正だ」「強い選手は結局勝っている」「特定の国を潰そうなんて悪があるはずがない」とは思っていますが、それは理屈で感情を抑え込んでいるに過ぎない話です。本当はこうじゃなかったんじゃないか、ふとしたときに陰謀論は首をもたげてきます。

特に前回北京大会ではそうした思いも募りました。ジャンプ混合団体の競技中に告げられた高梨沙羅さんの1本目に対するスーツ規定違反での失格処分。ほかにも失格者が多く出た大会であり、常日頃からさまざまな大会で失格者が出る競技であることは承知していても、「何も、今」と思わなかったわけではありません。大きな思いを寄せる選手が失意のなかで崩れ落ちている姿に、「これがルールだから」「あなたの違反だから」と思わなければならない辛さは、見る側にとっても五輪でしか取り返せない性質のものでした。あの失意の姿と、ついでにトリノ五輪で原田雅彦さんが失格したときに「私の初歩的なミスです」とひょうひょうとした態度でいたことへの「それはそれでもうちょっと何というか申し訳なさそうな雰囲気とか失意の涙みたいなものがあってもですねぇ…」という複雑な感情は、普段眠っているだけでずっと胸にあるのです。

その眠っていた獅子を起こすには、ノルウェーのスーツ不正改造は十分過ぎるほどの目覚ましでした。「支持率下げてやる」並みにカチーンときました。すべては陰謀論でしかないけれど、「ははーん、ずーっとやってたな?」「組織ぐるみでやってたな?」「縫い直して気づかないわけないもんな?」「とぼけやがって」「そのジャノメのミシンを取り上げろ!」「ていうかノルウェーだけか?」「キツネとキツネの化かし合いをやってるんじゃないのか?」「そこも含めての競技として普段から審判も使って互いに刺し合ってるんじゃないのか?」と心は黒く渦巻きましたとも。

その感情を理屈でねじ伏せながら見守るミラノ・コルティナ五輪。この五輪シーズンにきて男女ともにグッと調子をあげてきた日本勢は、スキージャンプの神様に愛されるべき側にいる、正当な揺り戻しを受けるべき側にいる。だから、この黒い気持ちまで浄化されるような笑顔を見たい。そう思って迎えたのがスキージャンプ最初の種目・女子ノーマルヒルです。





広域開催となった今大会、スキージャンプ競技はプレダッツォのジャンプ場で行なわれます。世界選手権が開催されたこともある伝統ある会場に現れた日本勢はトライアルでも順調なジャンプを披露し、丸山希さんが全体3位、高梨沙羅さんが全体7位、伊藤有希さんが全体9位、勢藤優花さんが全体11位といずれも上位につけました。トライアルでトップに立ったのは金メダルの大本命、スロベニアのニカ・プレブツさん。男子に出場する兄のドメン・プレブツさんとともに最後まで全種目で日本勢に立ちはだかる強豪・プレブツ兄妹の一角です。今までも強かったが、プレブツ家最強はあるいはペテルでもドメンでもなくこのニカさんだったのかもしれない…そう思うほど不足ない相手です。

迎えた競技開始。多くの時間で1メートル程度の追い風が吹くなかで選手たちが飛び出していきます。ジャンプ台自体が少し低めに飛び出すような構造にもなっているとのことで、競技中盤まではK点98メートルには届かないようなジャンプがつづきます。そんななか日本勢から最初に登場したのは35番目に飛ぶ伊藤有希さん。飛ぶ直前にゲートが下がったこともあって距離は92.5メートルとほどほどながらテレマークがキレイに入って飛形点は51点をマークしました。117.3点で2回目進出を決め、後半に勝負を懸けます。

つづく勢藤優花さんも着地をキレイに決め、高い飛形点でいいジャンプ。123.4点として、こちらも飛んだ時点で2回目進出は決めました。ほかのワールドカップ上位勢のジャンプを見るに、やはりメダル争いにはK点を超えて100メートルのジャンプ、そのうえで着地にテレマークをしっかり入れて、2本揃えるというところが必要になりそう。

全体42番目で登場した高梨沙羅さんは、追い風が1.25メートルというあまりよくないコンディションに当たってしまい、92メートル121.5点で1回目を終えます。そして全体49番目、最後から2番目で登場の丸山希さんは距離は97メートルとのばし、飛形点も52点と高いポイントをマークして135.7点。今季ワールドカップでの好調を念願の五輪でしっかり出しました。

1回目を終えたところでは、トップはノルウェーのストロムさんで136.9点、2位はこの人にしてはもうひとつというジャンプでスロベニアのニカ・プレブツさんがつけて135.9点。そして3位が135.7点の丸山さん。距離でいえば1メートルが2点換算ですので、50センチ差とかの際どいメダル争いです。勢藤さん、高梨さん、伊藤さんの位置からでもヒルサイズに届くような大ジャンプがあればまだまだわからないというところ。




迎えた2回目、順位の逆順に飛びますので基本的には飛んだ時点で最低でもトップに出ておきたいところ。伊藤さんは1本目より飛距離のばすも、1本目よりいい条件だったぶんポイントとしては大きくのばせず。高梨さんも同じく距離は96メートルとまずまず出ましたが、最後にポトリと落ちるような着地で、もうひとのびに恵まれませんでした。こうなると混合団体に向けて日本勢同士での争いも気になるところですが、勢藤さんも着地のところでポトリと落ちるような感じになり、先に飛んだ高梨さんのポイントを上回れず。いずれも大逆転メダルというジャンプには至らずで、日本勢メダル第1号の期待は丸山さんに託されました。

最後から3番目で飛ぶ丸山さん、飛び終えた時点でトップに立てばメダルは決まります。前回大会はシーズン中の大怪我で出場できなかった五輪の舞台で、満を持して飛んだ勝負の2本目は…100メートルの大ジャンプ!着地でもテレマークがしっかり入り、飛形点に17点台を並べました。2本目126.1点、合計261.8点でこの時点でトップに。これでまずメダルは決まりました!

さてあとは色がどうなるかですが、つづくニカ・プレブツさんは100メートルに迫る素晴らしいジャンプで、飛形点でも18点台がふたつつく見事なジャンプで丸山さんを上回ります。ただ、本人のなかでは会心のジャンプではなさそうな表情。その予感通りだったでしょうか、最後に飛んだノルウェーのストロムさんは距離も101メートルとのばし、飛形も美しく、文句なしの金メダルジャンプ。1本目・2本目ともに全体1位という完勝となりました。ノルウェーというところがチクリと気になりますが、もともと女子は無関係という話でもありましたし、世間(僕)の逆風をも制する強さに敬服するしかありません。強い選手がしっかりチカラを示し合ったうえで、日本の丸山さんが銅を勝ち取った。いい戦いだったと思います。今大会日本勢第1号のメダル、これを「1個目」と呼べることを確信しつつお祝いします!

↓仲間たちと抱き合って喜べる、この嬉しさよ!

「夢を叶えることができて幸せです」という振り返りの言葉!

最後はみんなでそれが言えたらいいですね!

僕の心もあと4回くらい拭ってもらえれば、晴れるんじゃないかなと思います!



スノーボード男子ビッグエアでの金・銀とあわせ日本勢早くもメダル3色完成!