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「気分」で採点していることは知っている!

してやったりの金メダルでした。北京五輪スノーボード男子ハーフパイプ決勝、三度目の正直を目指した日本の平野歩夢さんの金メダルは、採点競技のダメなところを重々承知したうえで、それを「全部お見通しだ」状態でコテンパンに打ちのめす会心の勝利でした。まさに圧巻、文句なし。不可解な判定への怒りすらパワーに変えてしまう「真の王者」にふさわしい金でした。



スノーボード・ハーフパイプは採点競技です。技が難しいとか、姿勢がキレイだとか、着地がキレイだとか一応の目安はあるものの、最終的には「気分」で採点しています。どの選手が一番カッコいいのか、ジャッジが印象で決めています。表示されるスコアは絶対評価ではなく、その日登場した選手たちのなかでの相対評価です。それゆえに個々の採点を見ていくと不可解なことばかりが起きます。

今回の試合でも歩夢さんの2回目の試技に対する採点は非常に不可解なものでした。歩夢さんは2本目で、トリプルコーク1440を組み込んだルーティンを決め、他選手を圧倒しました。五輪でこの技を披露したのは歩夢さんが初めてです。これは当然「史上初」にふさわしい評価をされるべきだろう……と一般的な感覚では思うところ。しかし、実際に表示された得点は暫定2位となる91.75点。最高100点での勝負において「史上初」の評価はえらく割り引かれたものだなと思います。

ただ、これは「さもありなん」という話です。

最終的に誰が一番カッコいいのかを決めるためには全員を見ないと判断がつきません。全員を見る前に100点をつけてしまったら、それ以上のスコアは出せませんので結果がおかしなことになってしまいます。M-1グランプリの採点などと同様に、序盤に登場した選手は評価が控え目にされて「基準」となり、そこからの相対評価で点をつけていくのです。

それは後出しジャンケンのようなもので、じょじょにヒートアップする勝負のなかで「あいこ」を出せば後出しのほうが勝つような仕組みになっているのでしょう。そういう壮絶な「あいこ」合戦の末に歩夢さんが金を逃したのが平昌でのショーン・ホワイトとの「バック・トゥ・バック ダブルコーク1440」の打ち合いでした。

歩夢さんの2本目での神演技は「まだ後出しがあるかもしれない」と予断を嫌う心、特に「ショーン・ホワイトがまだ何かやるのではないか?」という可能性によって、全力の評価をしづらい状況にあっただろうと思います。また、自国選手がメダルを争っている状況では「ふ、ふーん!ウチの選手のほうが、も、もっとスゴいんだからね!」くらいの態度でジャッジが採点していたかもしれません。

もう少しまっとうな理屈をひねり出せば、僅差で争っていたスコッティ・ジェームズ(平昌銅)はスノーボードを回転させるパターンを4種類全部使っていたというバランスのよさを高く取ったという理由付けはありえるかもしれません。スノボ界での定義とはちょっと違いますが、ざっくり言うと「利き足後ろの前まわし」「利き足後ろの後ろまわし」「利き足前の前まわし」「利き足前の後ろまわし」を全部使っているスコッティ・ジェームズに対して、歩夢さんのルーティンは一般論で一番難しいとされる「利き足前の後ろまわし(スイッチバックサイド)」の技が含まれていませんでした。

そういったさまざまな「まだわからんなー」という判断保留をマックス効かせて、2本目の時点では勝負が決しない程度の採点をした結果が、五輪史上初の大技を組み込んだルーティンが1位にならないという不可解採点の背景だっただろうと思います。これはもちろん納得できかねますし、よくないことだと思いますし、採点した側も「やべっ」と思った可能性はありますが、「さもありなん」な出来事だったなと思います。

↓五輪史上初のルーティンが暫定1位にもならないとは!

フロントサイドトリプルコーク1440!

キャブダブルコーク1440!

フロントサイドダブルコーク1260!

バックサイドダブルコーク1260!

フロントサイドダブルコーク1440!

これで金が決まっているべき演技でした!

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この試合の採点を担当したのはスウェーデン、フランス、カナダ、アメリカ、日本、スイスの6ヶ国。このうち最高点と最低点をカットした4ヶ国分の採点の平均点がスコアとなります。先に滑るスコッティ・ジェームズは2本目で大技「スイッチバックサイドダブルコーク1260」を含むルーティンを披露し、採点が「92、93、94、91、93、92」となり92.50点を得ました。92点と93点というところに採点は集中し、大きく評価は割れませんでした。

しかし、歩夢さんの2本目に対する採点は「96、92、90、89、95、90」とジャッジ内での評価が分かれました。スコッティ・ジェームズとの比較でも、スウェーデンと日本は歩夢さんの勝ちとつけ、フランス、カナダ、アメリカ、スイスは歩夢さんの負けとつけました。なお、アメリカの89点が突出して低いですが、アメリカはこの2本目で暫定4位のショーン・ホワイトに85点、暫定3位のヤン・シェリルに87点、平野さんに89点、スコッティ・ジェームズに91点とつけており、基準値が低いだけで極端にサゲ採点ということではありません。

「92、939491、93、92」と、
96、92、90、89、95、90」と。

不可解な採点ながらも「2勝4敗」は単純な陰謀論では片付かないでしょう。

先に挙げたようなさまざまな憶測に加え、もしかしたら「物足りない」という気持ちが各ジャッジにあったのかもしれません。歩夢さんは1本目でもトリプルコーク1440を決めていましたし、さらなる大技のダブルコーク1620を用意しているという情報も出ていました。「その技は1本目で見ましたなー」という既視感と、「もっとすごいって聞いてたのになー」という期待ハズレがダブルパンチで重なった部分はあるかもしれないなと。さまざまな競技で「自分の限界に挑む」ことでのボーナス採点が存在している気配を感じますが、そのあたりのカッコよさに突き抜けた部分を感じなかったのかなと思います。

もちろんそれで納得せよと言われて納得できるものではありません。スコッティ・ジェームズの中盤は歩夢さんに比べて難度抑え目の構成でしたし、「史上初」のトリプルコーク1440に対する評価がまったく盛り込まれていません。アメリカNBCの中継では実況と解説がキレ散らかして「何だこれは!信じられない!」「自分はどういう演技が勝つか知っている!どこに減点するところがあるんだ!」「どうかしてる!」と1分あまり文句を言いつづけていました。歩夢さん自身も不満気な表情でしたし、試合後には「納得いかない」と漏らしてもいました。

納得はいかない、けれど、そこで崩されたら真の王者にはなれない。

歩夢さんはこういった採点競技ならではの難しさは百も承知だったことでしょう。平昌での負けは試技順が逆であったら逆の結果になっただろうと思います。だからこそ「後出しジャンケン」に勝つことを最初から考えていました。最後の最後、全員の演技が出揃ったところで登場し、そこで全員をねじ伏せるために、最終滑走者となる「予選1位」にフォーカスし、狙って取りに行きました。最初から「こうなることはわかっていた」のです。

↓予選から「決勝のスタート順を気にして攻めていこうと思った」という意識でした!

その予選も何故か「得点を抑えられやすい」滑走順(1番・2番・3番)に日本勢が集中する不思議現象が起きていましたけどね!

そして、予選の滑走順4番がスコッティ・ジェームズという!

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そして歩夢さんは3本目に臨みます。注目のショーン・ホワイトは果敢な挑戦も実らず、最後の試技をすでに終えていました。暫定1位のスコッティ・ジェームズは2本目よりも難度を上げたルーティンを披露しますが、途中で流れが途切れて尻すぼみになりました。2本目の状況を更新するには至りませんでした。

最後に登場する歩夢さんには選択肢がありました。ひとつは、より難しい新技「ダブルコーク1620」を実施すること。もうひとつは、2本目と同じルーティンを「お前らどこに目ぇつけてんだ?」「もう一回やってやるからよく見てろ!」と叩きつけること。自分の手応え、会場の雰囲気、相手の試技も自分自身を超えた内容ではないこと、五輪史上初の価値を総合的に勘案して、歩夢さんは2本目と同様のルーティンを選択しました。

完成度は2本目のものより高く、2本目の際にはランディングでややバランスを崩した2つ目の技・キャブダブルコーク1440も美しく決めましたし、やや苦しくなった4つ目の技・バックサイドダブルコーク1260も余裕を持って決めました。全体的な流れがスムーズで勢いが衰えることなく、歩夢さんのスタイルである「高さ」も2本目より出ていました。

自分以外誰もできないトリプルコーク1440を、自分は何度でもできる。コケまくっているまわりの連中のなかで、自分は完璧なルーティンをできる。一番難しい技を何度でもできる。その現実を改めてジャッジたちに突きつけ、「お前らどこに目ぇつけてんだ?」と机をバンと叩いた。そのハートの強さこそが「誰が一番カッコいいのか」勝負に決着をつけたのです。

採点は「98、95、96、96、97、95」。

全ジャッジがダントツ1位につける圧勝でした。

実施内容は2本目と大差ありませんが、カッコよさは段違いでした。

平野さんは試合後に「2本目の点数はちょっと納得いってなかったんですけど」「そういう怒りが自分のなかで最後うまく表現できた」と語りました。納得していませんし、怒ってもいますが、怒りに支配されるのではなく、それを表現に変えたのです。「不可解なジャッジに翻弄されながらも、それを改めての神演技で粉砕する」というカッコよさを見せた。ただ「怒った」のではなく「怒りを表現した」。これはもうただただ納得するしかないカッコよさでしょう。






今大会の王者は、すでに引退を表明しているショーン・ホワイトに代わって、ハーフパイプ種目のアイコンとなる存在です。その役を担うのが平野歩夢さんなのかどうか、少し試されたのかもしれません。「もし3本目コケてたらどうしてくれるんだ」とか「2本目で勝ち確なら新技にトライできたのに」という恨み節は残りますが、カッコよさという意味では今回の展開も決して悪いものではありません。どんな不可解もねじ伏せる真の王者、それが平野歩夢であると全世界に叩きつけたのですから。

これができるのが真の王者で、真の王者ならこれぐらいできるはずだ、という予断。

採点競技ってこういうところがダメですよね!

↓憧れのショーン・ホワイトに勝って、時代を受け継いだ!




不可解な採点と、怒りと、それを乗り越えるカッコよさを堪能しました!