『ツーリストファミリー』というインド映画を観てまいりました。
スリランカでの貧困を極める生活から抜け出すためにインドへ密入国した家族が、スリランカからに密入国者だとバレないように近所付き合いを避けて生活しようとしたけれども結局交流することになってしまい、笑いあり涙ありの近所付き合いに巻き込まれてしまうという内容でございます。
また一方で、同時期に起きたテロ事件を追う警察から犯人として疑われてしまうというスリリングな展開もありました。
と、そんな本作の面白かったところは、一家の父親の人柄とその次男と母親の兄の演技、あとは字幕芸でございます。
これの主役はインドに密入国したスリランカの家族なのですけれども、父親が非常に真面目で誠実な男なのでございますよ。
この自分の正しいと思うことをまっすぐやっていく感じが、以前観た『バジュランギおじさんと、小さな迷子』の主人公バジュランギおじさんことパワンを彷彿とさせます。
まあ、パワンほど融通の利かない常識外れな感じではありませんでしたけれども。
ともあれ、そんな真面目な父親なのですけれども、パンフレットを読んで面白いと思ったのが名前でございます。
ダルマダースという名前でして、どうも意味は「法の僕」らしい。
その名前はまさに彼の真面目な性格を表している感じでございましたけれども、これもパンフレットにも書いてあった通り、そんな法の僕が密入国者というのが本作の捻りのひとつですねえ。
それでこのダルマダースが実に真面目で他人思いの良いやつでして、近所の問題ばかり起こして町中の人から厄介者扱いされている若者にも声をかけたり、妻に先立たれてしまった隣人の葬式のために町中を駆け回って人を集めたりする。
そういった人柄もあって、終盤では「人から慕われるには金か権力がいるが、金も権力もないのに慕われるならそれは人柄だ」と評価されるシーンもありました。
これは今作の名言でしたねえ。
こういう社会問題系インド映画ちょいちょいキメ台詞が出るから面白い。
インド映画名物の名言登場でございます。
ちなみに、しかしそんなダルマダースですけれども実は欠点がありまして、酒癖が悪い。
仕事で試用期間で契約を打ち切られたときには禁酒していたにも関わらず酒を飲んで暴言を吐くわ吐くわで、素面の時とは打って変わって一面を見せます。
ヤケクソになるのも仕方の無い状況ではありますけれども、ここまで豹変するとは。
ともあれ、最後は家族の励ましなんかもあって正気を取り戻し反省するのですけれども、こういう荒れたところもある方が人間臭くて面白い。
そしてこの家族は他にも癖の強いのばっかりいるのですけれども、特に癖が強いのは次男と妻の兄でございます。
次男は小学生くらいの歳なのですけれども、これがやたらと頭の回転が速くて機転が利いて実に小生意気だけれども憎めないやつなのですよ。
密入国直後に警察に見つかって連行されるのですけれども、移送中に即興でうまいこと言って警官を感動的な気分にさせて解放してもらったりとなかなか非凡な才能を持っている。
一番面白かったのは、家族を励ますためにイケイケなサングラスをして踊るシーンですねえ。
余りにもキレッキレすぎるダンス。
機転も利いて口も達者だしダンスも踊れる、実に才能あふれる子供でございます。
あともう一人癖の強いやつがおりまして、一家の母親の兄もなかなか面白かった。
この男は一家とは別で先にインドに難民としてやってきており、一家の密入国とその後の生活を助ける役回りなのですけれども、いろいろ面白シーンがある。
というか、こいつは出てくるだけで面白い。
まず登場シーンが密入国した浜で一家が警察に捕まっているシーンなのですけれども、近くのボートに掛けられた防水シートの下から登場するのですよ。
防水シートをめくったらそこに隠れていたってな具合でして、見つかったときのあの気まずい表情に笑ってしまいました。
そしてこの男を演じるのはヨーギ・バーブという俳優でして、ここ数年日本で公開されたインド映画でも何本かの作品に出演しており、どの作品でもかわいそうな目に遭ってボヤいている男の役で出てくるのでございます。
本人はまあまあかわいそうな目に遭っているのですけれども、その反応が観ていて笑えるという、そんな役回りを演じることに秀でた男でございます。
例えば『ジェイラー』という映画でもお人よしの主人公にウザ絡みしていたら覚醒した主人公にひっ捕まってマフィア探しの運転手に命じられてしまったり、『マーヴィーラン 伝説の勇者』という作品では契約書をよく読まずに契約してしまった結果、めちゃくちゃ不利な条件で欠陥住宅のメンテナンスをする仕事をさせられるというかわいそうな役を演じておりました。
これと比べたら今作ではまだそこまで悲惨ではない役なのですけれども、ことあるごとにボヤくのでそれが面白いんですねえ。
そして最後は字幕芸についてなのですけれども、本作ではインド本土でのタミル語とスリランカ訛りのタミル語が両方登場するのでございますが、それを字幕の文体で表現しておりました。
主人公一家はスリランカ訛りのタミル語を話すというのが本作で重要なポイントとなってくるのですけれども、それで字幕の表現がタミル語の方だけ古めかしい文体で書かれていて、そういった工夫が面白いと思いました。
タミル語が分からない私でも字幕の雰囲気で楽しめる。
このスリランカ訛りのせりふの字幕で頻出するのが「話す」ことを「語らう」とする表現ですねえ。
主人公が言うときは必ず「語らう」になる。
例えば近所付き合いで「何かあったらいつでも語らうからな」と呼び掛けるようなシーンもありましたし、訛っていることを指摘されたら「タミル語を語らうようになって1か月です」と語らって誤魔化しておりました。
そして終盤では近所の人がみんなスリランカ訛りのタミル語で語らうようになるシーンもありまして、そこでは次から次へとこういった古めかしい表現が連発されていて印象的でした。
私のお気に入りの表現は「小生の語らう方言を厭うのか」でございます。
不法移民の主人公一家を逮捕するために町を包囲して一軒一軒尋問して回る警察に対して、スリランカ訛りを指摘されたインド出身の住民の一人がこう語らったのですけれども、警察に対するこのちょいと偉そうなせりふが癖になる。
ちなみに、尋問に来た警官を小馬鹿にしたような態度でこのせりふを語らうのですけれども、この字幕の「小生」という単語について調べてみたら「自分より目上の人間には使わない」とのことでしたので、そういったニュアンスも字幕で表現されていて面白いと思いました。
このシーンでは、このせりふを放った人物の他にも町の住人が全員スリランカ訛りで語らうことで警察から主人公一家を庇うのですが、このシーンは笑えるとともに感動的でもあり、実に味わい深かったのでございます。
というわけでして、インド映画にしては短い2時間前後という上映時間ですけれども、非常に濃い内容を楽しめる映画でございました。
おしまい。
