『アハーン』を観てまいりました。
この映画の主人公アハーンはダウン症で両親から過保護気味に育てられている青年なのですけれども、彼には職を見つけ家庭を持って自立したいという夢があるのでございます。
一方で、オジーという中年の男は行き過ぎた潔癖症のせいで妻アヌに愛想をつかされて家出されてしまうのですけれども、アヌと親交のあったアハーンと出会い、妻の手料理を食べるためにアハーンを利用することを思いつくのでございまして、そこからアハーンとオジーは奇妙な関係を持つにいたるのでございます。
要するにこれは、ダウン症の男と潔癖症の男が織りなす異色のドラマでございます。
そしてこの奇妙な人間関係によって、アハーンは仕事を見つけ、オジーは潔癖症を克服して妻との関係を取り戻すまでのお話でございます。
これの一番の見どころは、アハーンとオジーの関係性が変わっていくことでして、最初はアハーンのことを鬱陶しくてたまらなく思っていたオジーが、最後にはアハーンの仕事探しを手伝うまでになっていくことですねえ。
初めアヌに招かれて自宅にアハーンがやってきたときには、食べ物をこぼしたアハーンに「部屋を汚すな!」と激怒するほどだったオジーが、医者のところに通ったりして潔癖症を克服し、最終的にはアハーンのために仕事を探したり障害を持つ子供の親に話を聞いたりするようになるのですよ。
そしてアハーンはオジーの車に乗って仲良く会話しながら仕事の面接に向かい、次のシーンではアハーンが通勤電車に乗っていったところで映画が終わるという、なかなか味わい深い象徴的なエンディングでございました。
この最後のシーンで、オジーが面接の準備としてアハーンに面接で聞かれそうな質問をいくつかするのですけれども、その中で特に印象的だったのは「10年後にどのようになっていたいか」という質問に対するアハーンの回答ですねえ。
日本の就職活動でも良く聞かれるようなこの質問へのアハーンの回答は、シンプルに「アハーン」の一言。
堂々の回答でございます。
気取ったり飾ったりしない正直でまっすぐな回答が実に記憶に残りました。
10年後も自分は自分でいたいということなのでしょう。
あと他に単純にコメディとして面白かったのが、オジーが医者に騙されて下剤を飲まされるシーンですねえ。
医者と二人で車に乗って外出中、医者の勧めで薬を飲んだオジーはその後腹痛に見舞われるのでして、そのまま車を降りて近くの公衆トイレに行くのでございます。
この公衆トイレはこの世の終わりみたいな汚さですから、極度の潔癖症にとっては地獄のようなものでしょう。
しかしそれでも自らの尊厳のためには地獄に行かねばならないのでして、男オジーは決死の決意で行くわけでございます。
最後は涙を流しながらも試練を乗り越えたオジーに、「これは暴露療法だ」と悪気も無くしれっと言う医者に笑ってしまいましたねえ。
オジーは真剣に潔癖症を直したいと思っており、医者も真面目に治療しているわけなのですけれどもやり方がやり方だけに笑ってしまう。
他にもゴミだらけの浜を素足で歩かせたりするシーンもあるのですが、それにしてもこの下剤のシーンだけあまりにも行き過ぎている治療が衝撃的でしたねえ。
というわけでして、『アハーン』は他に類を見ない異色の映画で面白かったのでございました。
おしまい。
