韓国が放つ衝撃作、『ソウルの春』を観てまいりました。
「粛軍クーデター」などと呼ばれる史実を元に、一部フィクションを交えて描かれる最高にスリリングで息が詰まることこの上ない、背筋にじっとりと嫌な汗をかけるドキュメンタリー映画でございました。
1979年10月、独裁者とも評される韓国大統領がその側近に暗殺された直後の12月12日、権力の座を奪取すべく将軍の一人が軍内の私的組織を率いてクーデターを企てる。
しかしそれに対し一人の軍人が立ち上がり、クーデターを阻止すべく奮闘するのでして、その死闘の勃発から終結までを描いたのが本作でございます。
私自身はまったく韓国史に明るくないのでそもそもこの「粛軍クーデター」などという事件があったことをこの映画で初めて知ったのですけれども、これは物凄いですねえ。
まだ半世紀も経たたないほどの最近のうちにこんな壮絶な事件が隣国であったとは知りませんでしたよ。
鑑賞後にちょいとウィキペディアとかで調べてみたら関係者が実は結構最近まで生きていたりするくらいでして、それくらいの最近の出来事だったりするので驚きでございます。
さて、とにかく何から何まで衝撃的だった作品なのですけれども、とりあえずまずは韓国軍内に秘密結社が出来ていて、しかも主要な将校の大半がその結社に所属しているというのが一番の驚きでございますよ。
クーデターが起きて鎮圧しようとしても、その鎮圧を行う部隊がいない。
主要な部隊の大半の隊長は反乱軍側ですから。
「あいつとあいつとあいつとあいつは敵方だから呼べそうなのはあいつしかいない」みたいな状況でございます。
しかも北朝鮮との国境に配備している前線部隊まで呼び寄せて反乱に加勢させようとする始末ですからもはや手に負えない。
おまけに、本来鎮圧する側であるはずの軍のトップや国防大臣も及び腰であてにならない。
鎮圧側はただでさえ戦力が足りないのにお偉いさんは「下手に部隊を動かすと北朝鮮が攻めてくる可能性が」とかで及び腰だし、一方その裏でクーデター側は「今日の前線はここソウルだ!北朝鮮は攻めてこない!つべこべ言わずさっさと来い!」みたいな具合ですから、こんなもん勝てるはずがない。
しかしそんな多勢に無勢もいいところの状況でも、国のためにクーデターを鎮圧しようと奮闘する司令官はまさに信念の男そのもの。
というか、鎮圧側で信念を持って戦っている人間がこの司令官を始めとする2,3人の司令官の他にほとんどいないどころか、むしろ司令官レベルよりもっと上の連中がむしろ鎮圧を妨げているまでありましたよ。
一方で反乱軍側もリーダー以外は割とリーダーの圧に負けて否応なく、あるいは戻るに戻れないところまで行って仕方なくといった感じの人が多かったのですけも、数が数だけに数の暴力でごり押ししている感じですねえ。
そりゃあもう物凄い数の将軍をクーデターに引き込んでますから。
そんなこんなで一進一退の戦いのうちに次第に数の上で有利なクーデター側が優勢となって、そのままクーデター成功まで行くのですよ。
こりゃあもう一体なんということだ、って感想に尽きますねえ。
なんという事件、なんという映画でしょうかねえ。
また、映画としては反乱軍側のリーダーの演技が非常に狂人感むんむんで良かった。
及び腰な手下の連中をどやしつけたりあるいは泣きついて説得したり、狡猾な手段で鎮圧側を陥れたりとなかなか強烈なキャラクターだったのですが、とりわけ、反乱成功後にトイレで立小便をしながらタガが外れたように高笑いをするところが狂いに狂っていて素晴らしい。
作品の最後に鎮圧側のリーダーが逮捕されるシーンと反乱側のリーダーが一人トイレで高笑いするシーンが交互に映し出されるわけでして、物凄い対比でございました。
悪の帝王ここにありみたいな演技でしたよ。
名演とはこういうのを言うんでしょうねえ。
絵に描いたような悪人でございました。
というわけでして、史実を知らない人間にとってはまさかの反乱側の勝利で終わった本作ですけれども、何よりもまず驚いたのはお隣の韓国でそんな事件があってまだ50年も経っていないということですねえ。
あの国でそんな騒乱があったとは知らなんだ。
いやはや、これはもしかしたら今年一番の注目作かもしれませんねえ。
観に行って良かった。
おしまい。
