こんにちは。12/22を担当しますurokogumoと申します。毎年楽しみなはとさん(@810ibara)主催企画ぽっぽアドベント。毎日わくわくするのと同時にもう師走かとそわそわもします。ありがたいことに今年で5回目の参加になりました。
今年のテーマは「枠を壊せ!」
私は変化が苦手でWOWOWが見られるホビット荘にずっと引きこもっていたいと思う人間なのですが、今年は家族、生活、職場、体調とあらゆる変化が神輿にのってやってきて、枠のほうから勝手に壊れた1年でした。何も始まっていなくても不安をこねて焼いて膨らませ自分に納品する性格なので当然気が滅入ることも多く、持病が←NEWみたいに増えたことも重なり、明るい気持ちになれないことが多かったのですが、ずっと『ファースト・カウ』で心が大騒ぎしていた1年でもありました。
*以下『ファースト・カウ』のネタバレが含まれます
西部開拓時代のオレゴン州。アメリカンドリームを求めて未開の地へ移住した料理人クッキーと中国人移民キング・ルーは意気投合し、ある大胆な計画を思いつく。それは、この地に初めてやってきた“富の象徴”である牛からミルクを盗み、ドーナツをつくって一獲千金を狙うというビジネスだった。引用元:映画.com
開拓者の一団に料理人として雇われているクッキーは、気弱な性格もあって仲間たちから酷い扱いを受けています。ある夜、クッキーは追われていた中国人移民のキング・ルーを助け、食べ物を分けてあげ、寝床も提供します。その後、二人はバラバラになりますが、クッキーがクビになった後、酒場で再会し、喜んだキング・ルーはクッキーを家に招きます。クッキーはキング・ルーが薪割りをするのを見ながら手持ち無沙汰になって、おもむろに箒で家のなかを掃きます。その後、ふらりと家から出ていき、花を手にして帰ってきます。クッキーが玄関先に花を飾るのをみて、キング・ルーは「いいね」と微笑みます。クッキーはひっくり返ったトカゲを助けてあげる優しい人でキング・ルーは頭の回転が速く有能な野心家です。二人とも成功を夢見ていますが、決して大柄ではなく腕っぷしも強くないためマッチョな男たちの中では浮いています。クッキーの顔は大体しょんぼりしていますが、同居生活がはじまってからはリラックスしているように見えました。ある日、まだその土地に一頭しかいない乳牛からミルクを盗んでドーナツを作る商売を思いつき、クッキーは気乗りしないものの、ドーナツは大評判で料理人としての喜びを感じます。二人が家事をしながらするおしゃべりは、9割はキング・ルーです。でもある日、儲けた金を木の上に隠しながらクッキーがジョークを披露して、キング・ルーが笑うシーンはとても温かく見えました。またある日、クッキーは将来、パン屋か自分のような旅人が休めるようなホテルをやりたいと話します。その日からキング・ルーが話すビジネスプランはクッキーの夢が中心になります。最初に見た時は、犯罪ものなので当然どちらかが裏切ると思っていました。ところが、ミルク泥棒がばれ、2人は再びバラバラになりますが、お互いを探し続け、やがてかつて暮らした家の前で再会します。「逃げたかと」「お前こそ」と二人は抱きしめ合い、逃げる途中で怪我をしたクッキーを介抱しながら、キングはもっと先に逃げようと前に進み、ある場所に辿り着きます。
何者でもない二人のどこにも残らない物語が、時を経て掘り起こされて私たちに届けられることは映画の冒頭で示されています。でも同時に彼らがその場所にたどり着いたことが何を示すか知っていたから私は胸が締め付けられた。
クッキーを演じたジョン・マガロは今年『パスト・ライブス』の主人公ノラの夫・アーサー役でも出演していたのですが、クッキーの生まれ変わりにも見えてしまい、ノラが幼馴染と再会することにやきもきする姿に「今世にも!あなたに!キング・ルーは!いるよ!」と思って全然集中できなかったのでもう1度見ました(素晴らしい映画でした。間違いなく。私も横断歩道越しにジョン・マガロから微笑まれたい人生だった)
キング・ルーを演じたオリオン・リーは『僕と世界の方程式』の台湾の数学の先生役で出演していたことに後から気がつきました(サリー・ホーキンスが鼻にフライドポテトをつっこむシーンで大泣きした。ギフテッドの苦しみについて描かれた忘れがたい映画)直近は『わたしときどきレッサーパンダ』のお父さんの吹替を演じていて、ちょうど劇場で限定公開されていたのですが、ほとんど日本語吹替でやっと見つけた字幕を早起きして走って見に行ったら、結局これも日本語吹替でずっこけそうになりました(この映画が10代の女の子たちのそばにあることはとても重要だと思う。日本、最初から劇場公開しろや)その後無事配信で見ることができ、お父さん!声が!良すぎます!とうめいた。
脳内で監督ケリー・ライカートは言う「これはアメリカについての話です」と。キング・ルーはもちろん、クッキーにしても善人ではない。二人はミルク泥棒をすることで先住民の少女の仕事を奪っています。領主の館でキング・ルーが話しはじめたとき、彼は明らかにそこにいないもののように扱われます。先住民との関係と後の歴史。列に並んでもドーナツが食べられなかった青年が最後にどのような行動を起こすか。私は「I know,I know,but...(分かっています、分かっています。でも)」とうめく。私は見終わるたびに拳で転生ボタンを押していた。クッキーが望んでいた暖かい土地でパン屋とホテルをやっていてほしい。二人でNetflixとかだらだらソファで見ていてほしい。迷わず川に飛び込めたキング・ルーと足がすくんだクッキーの商売が、泥棒がバレなかったとして、果たしてその後もうまくいったかは怪しい。そもそもキング・ルーがどこまで真実を話していたか分からない。彼が話していた殺された親友は、本当に存在していたのか?でもクッキーはキング・ルーが伝えた誕生日をでたらめと知りながらも今集められる材料で一番上等なケーキを焼いたと思う。そんな関係に見えた。
私にとってこの映画が大切だったのはクッキーとキング・ルーの関係性が好きだったのもあるけれど、人が人を信じる話を見たかったんだと思った。今年、枠が色々壊れて、それは愛したものや馴染んだものが変わっていくということでもあった。仕方ないことだと頭で分かっていても、不安だったし悲しかった。自分はもう大人でこんなことで落ち込むこと自体幼いと思ったし、どうしてもっとタフになれないんだろうと思った。枠は壊れたのに、枠があった場所にまだいるような気がしてならない。でももう次に行かないとな、と思う。変化や失敗でしか分からないこともあるし、自分なりの回復の手段も増えてきている。学んだことや好きなことの点と点が、年を取るごとに線で繋がっている。仕事に繋がってないし、成果物があったわけでもない。でも自分のなかの夜空に愉快な星座がどんどん増えている。縁遠かった自信、というのがついたのも今年だった。多分。
あの場所に横たわるクッキーを見たとき、私は悲しかったけど、彼は初めて寂しくなかったのではないかと思った。隣にはキング・ルーがいる。幼い時に両親を亡くし、仕事を求めて未開の地にきて、マッチョな男たちの間で気まずそうにしていた彼が穏やかに話せる相手と生活をして、自分が作ったもので喜んでくれる人たちがいて、短くはあったけど夢を見ることができた。キング・ルーが何を思っていたか分からない。でも、大金を前にしながらクッキーの隣に横たわったことは答えでもあった。
彼は信じた、彼も信じた。
その物語は私の心を温めた。
さて12/23にはokiさんです!クリスマスまであともう少しですね。すっかり寒くなりましたのでお体を大切に。皆さんの来年が健やかなものでありますように。
最後に映画『ファースト・カウ』は現在U-NEXTで配信中です。気になった方は是非。
https://www.video.unext.jp/title/SID0100699/c_txt=b