勤め先の社長が離婚していたらしい。
離婚したのは少なくとも今年の4月。予定表で引っ越しやらなんやらの個人的予定が立て込んでる時期があり、キナ臭いなと思って言ったら案の定であった。
心情としては、「ざまぁ」としか言いようがない。
会社をさんざん私物化しきって、下手な事業を次々と打って赤字を垂れ流し、その責任を一切取らないでのさばっている。
ただ人より早く入社しただけなのに、自分が会社を育てたと勘違いしている。
とにかく性格が陰湿、尊大で、些細なことで無礼だ、無礼だと発狂する。
誰からも信頼されていないが、株を先代から譲り受けているせいで解任もできない。
手の施しようがない老害だ。
家庭でも封建的な家長として好き放題しているエピソードを自慢していた。
外車を乗り回し、家庭を顧みず、趣味に明け暮れる。俺が食わせてやっているとふんぞり返っていた。
子どもは息子のほうがぐれまくっていて、娘のほうは超絶品行方正。
あんな独裁者の元に育てば、ぐれるのが普通で、娘が優秀なのも親の期待に背かないようにという悲壮感があり憐れだった。
離婚のタイミングは、時期を逆算すると、その娘が社長である父親が自慢できそうな大手企業に入社を決めて、社長が公私ともに絶頂を極めたまさにその瞬間だった。
もっとも調子に乗っている醜悪さの頂点で、奥さんは三下り半を突き付けたのだ。
奥さんは相手の性質を本当によくわかっている。よくわかったうえで最も精神的ダメージのでかいタイミングを狙い撃ちした。
その鮮やかすぎる報復劇に、怨みの烈しさをひしひしと感じた。
思えば4月以降の社長は確かに不自然な言動が一層強くなっていた。
怒りや憤りを腹に抱え、それを表に出すまいとして顔が赤黒く、声も神経質に震えている状態が続いている。
最も安泰と侮りきっていた身内から、あまりにも無様に見捨てられて、自尊心がズタズタに引き裂かれたのだと思う。
私にとっては離婚という事象は自分にも十分起こりうる事象だし、むしろそうなったらそうなったで一向にかまわないと生き続けているし、むしろ離婚できたらどんな暮らしをしようかと夢想するくらいひそやかにあこがれを抱く対象ですらある。そんなことで自尊心を失うこともなく卑屈になることもない。妻子ある自分も独り身の自分も変わらない。周りがそう見なかったとしても自分には関係ない、好きにラベリングしてくれと思う。
しかし、社長はそうではなかったらしい。ブランド品に身を包み、従順な妻を従え、子どもが自慢できてはじめて粋がっていられるのだ。
裏返すとその態度は自信のなさの現れで、自分の価値証明を家族や他者評価に依存していたともいえる。
そりゃあ家族からすれば、夫あるいは父を装飾する道具として使われるだけなんてやってられないだろう。
家族から捨てられ、従業員から煙たがられながら、役員のポストにしがみつき、役員報酬を搾取し続けるも、その富を分かち合うものはもういない。利害抜きの友もいない。人生の目的が存在しない。
なんて空しい老後だろうか。
本当に嫌な人間なので、いつか天罰が下ってほしいと思っていたが、それが叶って気持ちが晴れやかである。
私にはまだ家庭があるので、せっかくなので余裕綽々と家庭円満で充実した人生を送り、社長に当てこすりを続けたいと思う。
そういう思いで掃除機をかけて、妻から誉められた。