大学1年の時、8か月ほど体育会系テニス部に所属していたことがある。サークルというものを鼻から軽薄と決めつけて、硬派な団体に所属しようとした、というのは後付けの言い訳で、単にうかうかしていたらサークル加入の波に乗り遅れただけである。いつの段階で募集されていたのか、いつの段階で男子は募集停止になってしまったのか、あのメカニズムをついに解明せぬまま卒業してしまったことはほろ苦い後悔である。
いずれにせよ、なんとかキャンパスライフを送るための拠り所を見つけることに成功した私だが、一人嫌いな3年がいた。熱血漢で人当たりもよくひょうきんなのだが、後輩に対しては実力で露骨にえこひいきする先輩だ。下手なやつ、どんくさいやつ、従順でないやつ、可愛げのないやつには冷酷で、いびったり無視したり仲間外れにする。3年全体がそういう選民思想を持っていたが、その男はとくに苛烈だった。酒や芸の強要、パシリ、お気に入りの後輩に対する練習コートの特別待遇や、シークレットイベントの開催など、とにかく集団の中に格差を作り、選ばれざる者に疎外感を味わわせることに躍起になっていた。テニスの腕はチーム内で4番手くらい。もちろんかなりうまい部類に入る。練習も熱心で自分に厳しいが、肝心のセンスの部分が凡人の域を超えず、トップ3には食い込めていなかった。普段イキりまくっているのに見合うだけの実力まで絶妙に届いていない感じが痛々しい人間だった。
私はその男の存在以外にもいろいろと肌の合わないことがあって、1年の途中であっさり辞めてしまった。その嫌な男とはそれきりになった。もうその存在も意識することなく学生生活を楽しんだ。敷地の無駄に広い大学だったので、学部が違えば構内で出くわすこともなかった。
自分が4年になった頃、引退まで部活に残り続けた同級生と再会するということがあった。そのとき、例の嫌な先輩が大手の素材系メーカーに就職したという話を聞いた。大手は大手だが、イキったキャラのわりにまだどうにも地味な泥臭い企業だったので、相変わらず絶妙にダサいなと思ったきり、その男のことは意識から抹消した。
時は流れてウン10年。先日Wantedlyから送られてきたメールに、同じ出身大学のユーザーが紹介されていて、その中に例の男が掲載されていた。うへぇ、こういうとこだぞあんたがダサいの、と思いつつ、プロフィールを見てみると、数年前に新卒で入った会社を辞め、ベンチャーの執行役員をしていた。その会社のHPに例の男のヒストリーが掲載されていたので、興味本位で読んでみた。
記載内容で意外だったのは、奨学金を借りながら通っていた苦学生であったという事実だ。当時の3年は、いいとこのボンボンを誇るやつが多く、羽振りが良かった。いいマンションに住み、常に最新モデルのラケットやシューズを持ち、金遣いが荒かった。4番手の男もその中で楽しそうにつるんでいたから同種の一派かと思っていたが実は違ったのだ。金持ちどもと対等につるみ、溶け込んでいるように見えた彼は、地方の公立高校から浪人して入学してきた、たたき上げだった。そんな素振りは微塵も見せなかった。強がっている様子もなかった。同級に対する屈託もなかった。親ガチャにもテニスの才能にも恵まれた集団において、その格差を最も露骨に味わう組織の中心に、平然と我が身を置き続けていた。彼の心の内の暗闘を想像したとき、あれはあれでなかなか根性あるじゃん、と少し見直してみる気持ちになった。コンプレックスに囚われず、見返してやろうと人生一発逆転狙いの外資系金融などにも手を出さず、自分の内面のビジョンに従い堅実に人生を歩んでいる様子だった。
HPに映る彼は、往年の高慢さを少し残しつつも、柔和な雰囲気をたたえていた。今だったら少しだけ腹を割って話せるかも、と思った。
あんたのこと、すげー嫌いだったよと。
そんなことを言ったら、またあの暑苦しい笑顔を浮かべてケタケタと笑い、度の強い酒を強要されるんだろうな。
今週のお題「部活」