※この記事は漢直アドベントカレンダー 2025 の12日目の記事になります。
はじめに
T-Codeのもう一方といえばTUT-Code。今回はTUT-Codeについて論文等を参照しながら 説明していきたいと思います。
ただ,自分自身利用していないのでうまく説明できるかどうかは分かりません。 むしろ大岩先生が慶應大教授だった関係である慶應大にあるTUT情報のサイト を見た方が分かり易いかもしれません。
設計の方針とかT-Codeを徹底的に意識しているところとか,この辺り面白い感じです。
では早速確認してみましょう。
開発の方針
文献1には次のように記載されています。
- 通常の英文タイプ鍵盤の3段(30キー)を用いる
- ひらがなのコード化には「行」「段」の情報を用いる。この2打鍵を基本に一部3又は4打鍵とする。
- 漢字の頻度の高い725文字を2打鍵で入力する。頻度と他の文字との接続関係を考慮しながら,高速にタイプにできるコードを割り当てる。
これらの方針に従って開発がされています。
ひらがなの入力
ひらがなの入力に関しては, かなのしくみ(慶應大のサイト)とかの説明を見た方が分かりやすいかと思います。
次のように左手が子音,右手が母音に分かれていて,ローマ字入力のように組み合わせて入力する方法になります。 ローマ字入力と違うところは,濁音や半濁音用の子音が用意されていないところ, また,拗音等も用意されておらず,「▽」という特殊なキーとの組み合わせによって入力する方式をとっています。

これは,「平仮名の入力ではローマ字よりも使用キーを少なくする」という裏のテーマがあったのではないか? と想像しています。TUT-Codeが実際の製品に採用された時の「タッチ16」いう名称は 明らかに平仮名の入力に必要なキー数のことですし。
カナ入力と比較した時にローマ字入力が「カナ入力よりも使用キー数が少ないので覚えやすい」といった評判があったそうで, ローマ字入力よりも更に使用キーを少なくしたという事情もあるのではないかと思います。
片仮名の入力
文献1には
これはひらがなと異なるコードを割り当てるのは妥当ではない。 カタカナは一度あらわれるとしばらく続きやすい性格から,モード切り替えによって, それ以後のひらがなをカタカナに変換する。
とあります。これはT-Codeと真っ向から対決している姿勢ですね。
ただ論文中に頻発する「キー」とか明らかにモード切替が頻発すると思うのですが,大丈夫かなぁとか思ってしまいます。
漢字の打鍵方法と最適化
TUT-Codeの特徴は2打鍵の入力で725文字の漢字を,また3打鍵の入力で1,800文字(論文ではなく慶應大サイトの情報)が入力出来ます。
また,725文字の2打鍵頻出漢字については,一つ前の字も考慮した打鍵位置の最適化を行っています。
文献2を参照いただければと思うのですが,文献3で提案された打鍵速度式(実際は入力にかかる時間を示す式)を利用しています。
次式になります。単位を書くのを忘れましたが,[ms]だそうです。ATCの動画とか見てると遅いと思うかもしれませんが,多分この程度が普通なんでしょうね。1分あたり4打鍵弱ぐらいのスピードになっています。ただ負の係数が含まれるのでその場合256msより時間が短くなるということを示しています。

式の半分から左側が使用している指の影響による速度,右側が一打鍵前に入力したキーの影響になります。 交互打ちだと右側の項の影響はなくなるのですが,同じ手だと時間がかかるようになる影響があったり, 打鍵時間が短くなるような影響があったりします。
この数式ではアルペシオ的な動きで速くなるといったものを表現されていて面白いですね。
なお,TUT-Codeでは式全体の「右手・左手」に関する項を無くしているそうです。ほとんどが右利きなので あってもいい項目だと思うのですが,左利きの私に対する配慮でしょうか? 私はTUT-Codeを使っていないので関係ないですね。
そして,文献2には考慮した内容について具体的な記述があります。次の通りです。
- 打鍵の前後関係も考慮に入れた打鍵速度の数式化データ
- 1文字ごとに出現頻度
- 2文字組の出現頻度
これらの考慮を平仮名の打鍵を固定して725字の漢字に対して適用して打鍵の最適化をはかっています。
なので,一文字に対し3打鍵以上必要な平仮名に対してはT-Codeには劣るものの,頻度の高い漢字のつながりを考慮しているため, TUT-Codeの二打で入力できる漢字に対しては非常に入力しやすい方法となっているようです。
ただ,725字を超えて3打鍵必要な漢字が含まれてくると,今度はややT-Codeが速いという結果となっていて, TUT-CodeとT-Codeはお互いに一長一短の関係があるようです。
ATCのTUT-Codeを利用されている方の入力スピードを見ても,漢字の入力速度はかなり速そうですね。
このあたりのT-Codeとの比較による性能評価は文献2を直接ご確認いただければと思います。
練習方法
練習方法については,文献4,文献5に記載があります。文献3に,ひらがなに関しては既に論文を発表済みとの 記載があるのですが,自分は発見できませんでした。テープ(カセットテープの音声)による学習方法が記載されていたようですが, 内容の方は確認できていません。
文献3は725字の漢字のうち基本100字の学習システムのようです。
文献4は海外留学生向けに,漢字の読み書きを練習するよりも,TUT-Codeの入力で漢字を覚えさせた方が楽,という 考えで,作成した練習システムのようです。
なので,タッチタイプを練習する方法とはやや外れているところもあるような気がします。
現在は,eelll/js等に練習用テキストがあることは知っていますが,詳しいところは分かりません。
ただ,TUT-Codeは常用漢字全て入力可能なので,文章のコピーをして片っ端から覚えていけばいいといえばいいのかもしれません。
補助入力
補助入力方法としては,文献16,文献27のように交ぜ書き変換機能を有した,かな漢字変換が提案されています。 TUT-Codeの研究グループとしては部首合成変換は提案されていないです。
前者は実装方法について,後者は漢字交じりのかな漢字変換(交ぜ書き変換)の通常のかなだけの変換に対しての 優位性を語った論文となっています。
「常用漢字が全て入力できるので覚えるべき」という立場のようで, 交ぜ書き変換は「初心者用」という位置付けだったようですが, 当時主流の「かな漢字変換」を使った漢字入力に対してTUT-Codeが優秀だと言いたかったようですね。
ujimushi的TUT-Codeに対する印象
この漢直アドベントカレンダーを主催する前は偏見でわりと否定的だったのですが, 漢字の運指の最適化等をやっているところとか,後Alternative Typing Contestのオリジナルの入力動画を見ていると, かなり漢字部分の最適化が効いてるなぁと思いながら見てました。
常用漢字内であれば補助入力がいらないのは魅力的ですが,なかなかそこまでは覚えられないだろうなぁと思う ところも自分としてはあって(現在T-Codeで1,000字はいってないぐらい),T-Codeで提案されている補助入力を 使うと,2500はちょっと…とか思うところもあります。
やはり素の漢字を入力する能力が高い点に対してTUT-Codeがうらやましいですね。
平仮名は…コメントを差し控えさせていただきます。
さいごに
全然情報として見るところはないのですが,以上が自分が調べた内容になります。
個人的には,11月の間に見つからなかったTUT-Codeの最適化で用いられている打鍵特性解析の原論文が直前に 見つけられたのが収穫です。
漢直関連の論文が発表されていた時代には,キーボードの入力特性について様々な論文が発表されているので,かな漢字交じり文の入力方法を改善しようとされている方にとって, 改善の参考のために色々過去の文献にあたるのもいいのではないでしょうか?
この回で論文を読んでの記事は終わりになります。 もっと色々準備してちゃんとした記事にしたかったのですが,まぁ私の説明能力では仕方がないですね。
次回以降は,私がT-Codeを利用する際に利用している色々なツールについて,紹介していきたいと思います。
それではまた。
- 大岩 元: タッチタイプによる日本文入力の一方式とその練習法, 情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI) 巻 1981, 号 57(1981-HI-004), p. 1-10, 発行日 1982-03-17 ↩
- 大岩 元, 高嶋 孝明, 三井 修: 日本文タッチタイプ入力の一方式, 情報処理学会論文誌 24-6, p. 772-779, 1983 ↩
- 小西 和憲, 博松 明, 田代 秀夫: タイピストの打鍵特性解析による英語鍵盤配列の検討, 電子通信学会情報・システム部門全国大会講演論文集 昭和56年度分冊2, 559, p.216 , 1981 ↩
- 金山 豊治, 竹田 尚彦, 河合 和久, 大岩 元: 日本語タッチタイプ・トレーニング・システムのテキスト作成法について,情報処理学会 全国大会講演論文集 第33回 自然言語処理, p. 1783-1784, 1986 ↩
- 竹田 尚彦, 金山 豊治, 河合 和久, 大岩 元: 日本語タッチタイプ・トレーニング・システム作成, 情報処理学会 全国大会講演論文集 第33回 自然言語処理, p. 1785-1786, 1986 ↩
- 2ストローク入力用仮名漢字変換システム, 情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション, 巻 1988, 号 3(1987-HI-016), p. 1-8, 1988↩
- 2ストローク入力のための仮名漢字変換, 情報処理学会論文誌 巻 33, 号 7, p. 920-928, 発行日 1992-07-15↩