以下の内容はhttps://ujimushisradjp.hatenablog.jp/entry/2025/12/10/000000より取得しました。


論文等から紐解くT-Code (3) 生体学的検討とモデル

※この記事は漢直アドベントカレンダー 2025 の10日目の記事になります。

はじめに

今回は,T-Codeを入力する時に脳とか運動とかどんな感じの事象が発生しているかというような ことを解き明かそうとした論文がいくつか発表されています。

本当はもっと読み込んで紹介したかったのですが,結局その時間がないまま12月に入ってしまいました。

ですが気力を振り絞って,今回は「T-Codeを入力している時に脳内で起こる何か」を解き明かそうとした論文のうち いくつかピックアップして簡単に紹介していきたいと思います。

T-Codeを使った脳科学的な考察

タッチタイプにおける大脳半球の機能分担1

T-Codeを開発した理由として,「漢字直接入力をしている時の状態分析」もありそうで,文献1には T-Codeを入力している時の脳波を測定したものについての記載があります。

よく脳の使い分けとして脳の左半分は言語機能右半分はイメージとか想像力とか言われたりします。

ここで山田氏らは文献1で熟練した英文タイピスト(ujimushi注: コピータイピングの専門家といった感じかと思います) は言語機能をあまり使わず,直接右脳の「操作・空間」的反射によってタイプをしているのではないか? という仮説をたて,T-Codeも熟練するとこの右脳依存が見られるのでは?ということで,脳波をとった,というもののようです。

脳波の比較は発生しているアルファ波のゲインを左と右で測ってL/Rの比で比較しているようです。

結論としては読み書きをしている時に発生しているL/R比でもなく,ただはめるだけのパズルをしている時のL/R比でもなく, 独立したL/R比となっているようです。

また,3人の被験者全員,どのパターンも一致したものがないという面白い結果になっています。

漢字直接入力をしている時は,ただ読んだり,書いたり,操作をしたりというのとは違う何か別の領域の脳を使っている のでは?という感じでよく分からん,という結果のようでした。

現在では,漢字を読む時とかなを読む時,脳はそれぞれ違う部位を使っているということが分かっているようで, かな漢字変換での入力と,漢直で入力している時はまた違う状況となっているのではないかということが想像できます。

自分も,漢直でコピー打鍵をは少し続けていると, トランス状態になってあまり頭で考えずに入力できているなぁと思うことが, 今回の漢直論文のコピー打鍵(手書き原稿なので,そのままでは非常に読み辛いので…)していた時に ありました。

まぁこの辺,解明されることは今となってはないと思いますが,むしろ脳科学者系の方の論文に期待ですね。

タイプ入力作業の構成要素間に起こる干渉2

これは,熟練(?)のT-Codeタイピストを2人用意(というか2人「しか」用意できないとも言います)して, 色々な邪魔な動作をさせて,入力スピードと誤字率を検証したというものになります。

「連想」の動作をさせたときに一番誤字率も上がって遅くなっているというのを言いたいのだと思いますが, 何せ人数が少なく,確かに全体的に傾向は「連想」の時が悪くなっている(逆に復唱とかさせるとスピードが速くなっていたりしますが) のですが,やや不思議な結果も混ざっているような気がします。

まぁかな漢字変換では連想とか選択とかが必要になるので,そうすると,打鍵することに干渉して スピードが上がらなかったり精神的な疲れなつながるのでは?とまとめています。

確かに自分としてはかな漢字変換がなくなったことによるメリットとしては 精神的な負担が非常に少なくなったこと一番だと思っていますし, 納得できる結果ではあるのですが,他の人が額面通りとらえるかどうかはやや疑問のある論文といえます。

その他,

脳におけるタイプ作業処理過程のパイプラインモデル3

文献3は「タイプ作業時の脳の情報処理過程には、左右の手ごとに出力キューがあるというパイプラインモデルを提唱する」という内容です。 このきっかけとなったのは,文献4の中での検討の中で,右手の文字だけが1文字ずつずれたりすることがあったことをきっかけに, 海外の論文等を文献調査し,最終的にタイプ作業処理(漢直入力中)のパイプラインモデル(脳内)を提唱している感じです。

  • 海外の論文を例示して色々考察をしている
  • T-Codeの使用者の入力エラーの特徴を見て,そのエラーの内容と各海外の論文と比較して,どれと一致しているかを確認している

ということを論文内で行っています。

最終的に著者らが提唱しているモデルは次の図の通りです。(文献3)

ここではT-Codeのメインの用途である(専任タイピストによる原稿を清書するような)コピー打鍵が想定されています。

視覚による情報を言語の知識から文字情報に直して,数文字先読みした内容を視覚の短期記憶で記憶しておき, 指の運動記憶を元にどう入力するのかを左手,右手のバッファ(キュー。先入れ先出し)にため,実行部で左手と右手の現在の状態や 同期をとる複雑な処理を行って,最終的に文字の入力が行われているというものです。

わりと,このモデルはかな入力やローマ字入力で文字を入力している時にも,わりと当てはまるところがあるのではないかと思います。

T-Codeの場合は,モードの切替が漢字直接入力モードと本来のキーボード入力(英数入力)との切替しかないので, 基本的には左手・右手の文字の入力をどう行うかの制御しか行いませんが, カナ入力でのシフト入力があったりすると,その分複雑な処理が必要だったりとか,実は指ごとの状態保持が必要だったりとか 考慮することが増えてくることは容易い思い付くところです。

ローマ字入力は比較的単純に右手と左手のキー入力と同期が速くできる人にとっては,かなり速く入力できる だろうということは容易に予測でき,ローマ字入力タイパーさんの入力の速さが説明できるのではないかと個人的には思っています。

また,エラー検出のところでは,自分らでも思い当たる「入力する直前に間違っていることに気付く」とか 「入力してい文字を見ていない状態で指の感覚で間違いが気付く」等の説明があったり興味深い内容でした。

特に「入力する前に先読みをして短期記憶をしている」ところは,漢直特有の練習方法EELLLに活用されています。 これはこの「パイプラインモデル」の考え方を考慮したものになっています。

また,この練習方法については漢直の練習方法についての記事を別途用意して, そちらで説明したいと思います。

さいごに

今回は,T-Codeを利用中の脳の動きというか,どういう風な生体の動きで入力されていかどうかを説明しようとした論文について いくつか紹介しました。

およそ40年前の論文としてはなかなか野心的なテーマではなかったかと思います。

また,漢直を利用している人だけでなく,タイピングに興味のある人の観点からも興味深い内容ではなかったかと思います。

それではまた次回。


  1. 渡辺 啓史, 山田 尚勇, 保坂 良資, 池田 研二, 斎藤 正男: タッチタイプにおける大脳半球の機能分担, 情報処理学会講演論文集 第25回全国大会(昭和57年後期).2 p1087-1088, 1982
  2. 岡留 剛, 小野 芳彦, 山田 尚勇: タイプ入力作業の構成要素間に起こる干渉, 情報処理学会論文誌 27-3, p. 304-312, 1986
  3. 岡留 剛, 小野 芳彦, 山田 尚勇: 脳におけるタイプ作業処理過程のパイプラインモデル, 情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)巻 1985, 号 22(1985-HI-002), p. 1-7, 1985
  4. 岡留 剛, 小野 芳彦,山田 尚勇: タイプ作業と言語問題処理の干渉, 情報処理学会講演論文集 第29回全国大会(昭和59年後期).2 p963-964, 1984



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