※ この記事は漢直アドベントカレンダー 2025 7日目の記事になります。
はじめに
ラインプットは他の研究者に大きな影響を与えたPC用の連想式直接漢字入力方式の一種です。
元々の考案者(特許も取得しているため発明者と言うべきかも)は機械式速記機の発明者1, ソクタッチの製造までしていた川上 明氏と,その息子 川上 義氏です。
ラインプットの発表は1970年ですが,まだコンピュータが一般的ではないなか,1960年代に 考案を始めていたといいます。
そのモチベーションとしては,ソクタッチは手書きの速記と比べてかなり効率的に 速記ができるが,反訳(ローマ字表記から実際にかな漢字交じり文にする)に 時間がかかっていて,その効率を上げるために開発されたもののようです。2
文献2の中には, 川上氏が戦後日本語がローマ字化するとみてdvorak氏と意見交換していたり, そのローマ字入力技術や速記機のノウハウ等を活かして「ラインプット」を開発したことが書かれています。
また,朝日新聞が高速入力の社内デモを実施したところ,ライプットが200文字以上/分と他の方式の約2倍の実績(日経コンピュータ 1984/8/20号) との記述もあり,優秀な入力方法と言われています。
ラインプット株式会社内でのデータ入力の業務に利用されていて,詳細については今も不明な点が多いですが,公開されている論文と 特許があって,また入力風景が公開されているので,それらの情報を元にどのような方式であったかを独自で推測して紹介していきたいと思います。
キーボードの配列
キーボードの配列については文献3に記載がありますが,どうもこの配列図はあえて間違ったまま記載しているような感じです。 明らかに企業秘密として虚偽情報を混ぜて公開しているようです。
JISキーボードの配置図と対比で説明したいと思います。
JISキーボードは次のような感じです。wikipedia中の画像です。
![]()
次に,ラインプット(ujimushi想像図)を示します。カナと英文字が混ざっている特殊な配置図となっています。

キーボードとしては縦4行,横12列が想定されています。本来一番右の下にはj(ス)が想定されますが,
JISキーボードとしては一つ足りないので,右上に持っていっています。
で,ホームポジションでの人差し指の位置は,左手はo,右手はtで,人差し指の範囲は,
中段でいうところの左手はo, u, -まで,右手はユ, h, tまでです。
平仮名については文献3に記載されています。
五十音との表は次の通りです。

左手に母音を集め,右手に子音を集める配置となっていて, かなの入力の時には自然と右手と左手を繰り返す入力となります。
ā,ī,ū,ē,ōを母音として入力すると片仮名になります。
aiueoの一段上になるので,同じような入力で平仮名,片仮名の入力ができることになります。
1,2,3,...のアラビア数字はe, i, a, ...の段を左から,第1打鍵として第2打鍵をホームキー(おそらく'か?)とすると入力できます。
また,その下のレ, リ, ラ, ...の段を左から,第1打鍵として第2打鍵をホームキーの入力とすると,漢数字の一, 二, 三,...が入力できるようです。
で,キー配列(予想図)の通り,一部の英字キーは仮想のカナとして扱っていて,
二打鍵の組み合わせで漢字が入力できます。このカナ二文字が出力する漢字に連想される組み合わせてなっていて,これが連想式漢直と呼ばれるゆえんです。
論文にある例でいうと,
- 夜(ヨル), 昼(ヒル), 来(ラi),賓(ヒン), 岩(iワ), 山(ヤマ)
- 鏡(ミラ), 母(ママ), 髪(ヘa), 空(ea)
- 刈(メリ), 化(iヒ), 今(ヘラ), 公(ハム)
- 皮(ヒフ), 秘(ヒミ), 意(iミ), 委(ii)
という文字とカナの組み合わせで,漢字の入力が可能となっているようです。
また,48 × 48 = 2404文字が基本文字でこれらは2打鍵の組み合わせで入力することができ, さらに2字の組み合わせ(合計4ストローク)で約1万字の漢字が追加で可能であるとの記述があります。
ただ,補助入力の概念があったかどうかは不明で,まさに「知らないと入力できない」を地でいったような 入力方式ではないかと思います。
この開発時点での練習時間と入力打鍵数の平均は180時間でおよそ90文字/分という関係があるようで, 英文タイプと比較しても同程度の練習効率というのが文献で示されています。
論文に書かれている内容をまとめたものは以上です。
なお,論文や特許には実際に入力しているキーと出力の文章の例が示されていますが, 意図的に明らかに違う文字の入力で表示されている例があり, 詳細の技術情報を隠そうとしている意図が感じられる内容となっています。 まぁ自分のうがった考え方かもしれませんが。
ujimushi的な注目点
一度この原稿を書いた後に,色々考えを寝かせ(私の思考パターンとして牛が食べた物を反すうするように,考え事を反すうさせることがよくあります)ていたのですが, 実はラインプットの特徴として, 「人差し指の守備範囲が3列(通常は2列)」というのが効率的に2打鍵で漢字を入力するのにすごく有効だったのではないかと感じています。 他の漢字直接入力よりも頭一つ抜き出た入力速度なのですが,これは
- 日本語を入力するのに必要なキー数をかせぐ
- 可動域が大きく他の指と比べて自由度の高い人差し指を最大限利用する
等,むしろ「漢直」が特徴的なのではなく,キーボードの利用方法が極めて人間工学的に利にかなっているのではないか? という見方もできるのではないかと感じています。
なので,自作のキー配列とかされる方で「人差し指をそれぞれ3列とかにした配列」とかも改善方法と一つとして加えると, 色々工夫の幅が広がるのではないかと思います。
さいごに
論文が発表されたのが1974年で,この時点でラインプット社はかな漢字交じり文の入力業務を大量に 抱えていたようで,日本の商習慣のもとこのラインプットの詳細な仕様は 企業秘密として扱われることになりました。
川上氏は論文の中で
(3) A.Dvorak 博士による,タイプライティングの研究では, 従来のスタンダード・キーボードの欠点を取り除き, 新しい,合理的なキーボード(Dvorak Simplified Keyboard)が発表された。 ドボラク・キーボードは,タイピストの教育のしやすさ,タイプの正確さ, スピード,疲労度等において従来のスタンダード・キーボード のそれに比べて革命的なものであった。 にもかかわらず,ドボラク・キーボードがあまりにもすばらしい成果をあげたため, スタンダード・キーボードを固守する保守的な勢力の政治的圧力などによって, その成果が人目にふれないようにされ,今日普及していないことは, ひとつの歴史的教訓である。
とあるのですが,「人目にふれないように」というのはご自身に対する ブーメランと思うのは,私の気のせいでしょうか。
実は,現在入力業務の業界のスタンダードはカンテック方式やKIS方式といわれています。
これらはまさに山田氏が危惧していた状況で,理想としていた日本語用のタッチタイプ入力,
漢字直接入力は利用が拡がることなく今日に至ることになったというところです。
漢字直接入力を特定の企業だけではなく,より良いスタンダードを利用できるようにしよう,といったところが 山田氏の研究グループによるT-Codeの開発につながったのではないか?といのうが自分が調べた感想となっています。
今回の記事の内容は以上になります。
ではまた次回。