※ この記事は漢直アドベントカレンダー 2025 6日目の記事になります。
はじめに
前回は,「連想式漢字直接入力とその関連技術の歴史」ということで, 「ラインプット」開発者が発明した「ソクタイプ」から,連想式漢字直接入力まで 説明し,さらっとJIS配列についても触れました。
漢字直接入力方式は私のような一部の変わり物が利用しているだけではなく,実はデータ入力専門の業務をしている 企業が手法を公開せず利用しているという雰囲気が何となくお分かりいただけたかと思います。
今回は無連想式漢字直接入力,T-CodeとTUT-Codeに歴史と その開発と同時期に発生したワープロ販売(開発?)競争について説明したいと思います。
一見無関係ではあるのですが,実はTUT-Codeについてはあるワープロの入力方式に採用されています。
それもあってというか,単にワープロに搭載されている日本語の入力方式の変遷もまぁまぁ面白いので, 漢直には関係ないのですが,軽く紹介してみるという感じです。
T-Codeの開発のきっかけとは?
これについては色々と諸説があるかと思います。
1978年当時,各企業で開発されて実用されていた「連想式漢字直接入力方式」の調査をして,この方法が英文タイプライトと同等の実力を得られるにもかかわらず, 企業内の秘密として公開されず,特定の企業だけで利用されていました。
おそらく,現在でも利用されていますがその方式の詳細は企業関係者以外は知ることができません。
そこで,「連想式漢字直接入力方式」に類する入力方式を開発することで,その利点や何故その方式だと速く入力できるのか等, 多角的な視点から研究をしたかった,というのがT-Code開発のモチベーションであったのでは?と私は考えています。
T-Code開発の歴史
T-Code開発の歴史と銘打ってはいますが,私がT-Codeに関して調べた論文のリストをまず紹介したいと思います。 リンクがあるものはその先から論文がダウンロードできるかと思います。
- 茂垣 真人: 日本語の二字組の頻度分布, 情報処理学会講演論文集 1980-21, p1037-1038, 1980
- 平賀 譲, 小野 芳彦, 川合 慧, 茂垣 真人, 山田 尚勇: 日本語入力キーボードの打鍵コードの決定について, 情報処理学会講演論文集, 1980-21, p987-988, 1980
- 小野 芳彦, 平賀 譲, 茂垣 真人, 川合 慧, 山田 尚勇: タッチタイプ向き日本語タイプライタの基本文字セットの選択法, 情報処理学会講演論文集, 1980-21, p989-990, 1980
- 平賀 譲,小野 芳彦,山田 尚勇: タッチタイプ過程の解析と日本語入力への応用, 情報処理学会講演論文集, 1981-23, p961-962, 1980
- 平賀 譲, 小野 芳彦, 山田 尚勇: An assignment of key-codes for a japanese character keyboard, COLING 1980 Volume 1, 1980
平賀 譲; 小野 芳彦 & 山田 尚勇 An Analysis of the standard English keyboard, COLING 1980 Volume 1, 1980
小野 芳彦,平賀 譲,山田 尚勇: 2打鍵日本文入力タイプライタにおける外字入力の一方式, 情報処理学会講演論文集, 1981-23, p963-96, 1981
- 平賀 譲, 小野 芳彦, 山田 尚勇: タッチタイプによる日本語入力方式, 情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション, 1981-39, p. 1-8, 1981
- 小野 芳彦, 平賀 譲, 山田 尚勇: 日本語タッチタイプ入力コード用の練習システムのテキストについて, 情報処理学会講演論文集, 1982-25, p1085-1086, 1982
- 渡辺 啓史, 山田 尚勇, 保坂 良資, 池田 研二, 斎藤 正男: タッチタイプにおける大脳半球の機能分担, 情報処理学会講演論文集, 1982-25, p1087-1088, 1982
- 平賀 譲,小野 芳彦,山田 尚勇: 日本語タッチタイプ入力コード用の練習システムの作成, 情報処理学会講演論文集, 1982-25, p1089-1090, 1982
- 山田 尚勇: タッチタイピングにかかわりのある実験心理学的および大脳神経学的現象について*, 情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), 1982-19, p. 1-8, 1982
- 山田 尚勇: タイプ作業の専門職の使う入力方法, 東京大学理学部 廣報 16-4, 1984
- 岡留 剛, 小野 芳彦,山田 尚勇: タイプ作業と言語問題処理の干渉, 情報処理学会講演論文集, 1984-29, p963-964, 1984
- 岡留 剛, 小野 芳彦, 山田 尚勇: 脳におけるタイプ作業処理過程のパイプラインモデル, 情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)1985-22, p. 1-7, 1985
- 山田 尚勇: 専任タイピスト向きタイプ入力法の研究経過,コンピュータ ソフトウェア 2-1, p.344-354, 1985
- 岡留 剛, 小野 芳彦, 山田 尚勇, タイプ入力作業の構成要素間に起こる干渉, 情報処理学会論文誌 27-3, p. 304-312, 1986
- 岡留 剛, 小野 芳彦, 山田 尚勇: タイプ作業認知モデルの脳科学的知見, 情報処理学会講演論文集 第33回 自然言語処理, p. 1797-1798, 1986
- 小野 芳彦: Tコードの補助入力: 字形組み合わせ法と交ぜ書き変換法, 情報処理学会論文誌 31-3, p. 404-414, 1990
- 小野 芳彦: 練習テキストから上達が計算できる日本文タイプ作業の認知的習得モデル, 情報処理学会論文誌 31-9, p. 1-13, 1990
1980年頃にT-Codeに関する論文が発表され始めました。1980年に基本的な設計が行われ,最上段を除いたものについては5.で発表されています。英語ですが。
その後,漢字直接入力部分については8.の論文にまとめられています。ただ,8.の論文には書かれていない根拠のようなものが1.~4.の資料に書かれています。
それと同時に補助入力と練習法の開発に移り,1982年の9.,11.で練習システムのテキスの作成が開始され,
またそれと同時にT-Codeを入力している時の脳の機能についての考察をしています。
最終は1990年に,「字形組み合わせ法と交ぜ書き変換法」と現在の補助入力のシステム,「練習テキストから上達が計算できる日本文タイプ作業の認知習得モデル」で 現在EELLLで利用されているT-Codeの練習テキストの作成した根拠が書かれています。
以上が今回確認したリストなのですが,通常ネットから見られる文献としては8.の「タッチタイプによる日本語入力方式」で,
入力方式についての説明は,大体この論文に集約されているかと思います。
ただし,何故その設計になったのかは他の論文を確認する必要があります。自分が確認したのは情報処理学会の全国大会論文誌で,
ここには8.の論文に書かれている詳しい根拠が書かれています。これらの資料は国立国会図書館に身分証明書を出して登録し,確認しました。
後日,これらの論文の内容をふまえたT-Codeの詳細解説をしたいと思うので,その記事を参考にして下さい。
現在漢直で一般的に用いられている部首合成変換と交ぜ書き変換は7.で検討が開始され最後は19.がそのものずばりのタイトルです。
この論文が1990年に発表されていて,以後直接T-Codeに関する論文は発表されていません。
その間は,漢直を入力する時のメカニズムを解明しようという研究がされています。 脳波とかも計測したりしていますが,基本的には漢直によるコピー作業中のモデルを提案し, それに基づいた練習法はどうすればいいか等の提案がされています。
具体的な練習法に関する論文は9.,11.そして20.になります。
特に20.は練習用テキストを修正した論拠も書かれていて注目の論文です。
これらの論文を元に作られた練習用アプリケーションが現在でも利用されているEELLLになります。
このEELLL,実際に東大の研究室で作られたのは,CATTT,DOS用のDOGGGを経て,Emacs上で
作成されたものです。
現存するものはjavascriptを用いたeelll.js,Emacsのtc.el上で実装されたEELLLになります。
tc.elは部首部成変換,交ぜ書き変換,EELLLとこれらの論文を
また,解説はeelll/js memoの方が詳しいかと思います。
これらについては後日,色々調べた内容を紹介できればと思います。
というか前田さんがEELLLの原作者の一人なので多少コメントいただければと思いますが,
多分どうせx.comでちょろっとコメントするだけなんだろうな。多分。
TUT-Code開発の歴史
続いては,もう一つの無連想式漢字直接入力の雄,TUT-Codeの歴史です。
TUT-Code特徴としては
- かなの入力に規則性を持たせて(必要なキー数はローマ字入力未満)初学者に入りやすくさせる
- 最上段のキーを使わないのでタッチタイプしやすい
- 3打入力の漢字を作って直接入力可能な漢字数はT-Codeより多い
- 2打鍵で入力可能な漢字は言葉のつながりをの数式を用いて最適化
しています。これだけを見ると,T-Codeよりも優秀そうに見えますし,補助入力が使えず常用漢字内でかつ難しい文字を入力する時はTUT-Codeの方が実際に優秀だと思います。 Alternative Typing Contest 2025でも漢字の入力スピードはずば抜けていましたね。
以下に調べた書籍のリストを示します。
- タッチタイプによる日本文入力の一方式とその練習法, 情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), 1981-57, p. 1-10, 1982
- タッチタイプ方式による日本語ワードプロセッサ, 情報処理学会講演論文集 第25回全国大会(昭和57年後期).2 p1091-1092, 1982
- 大岩 元, 高嶋 孝明, 三井 修: 日本文タッチタイプ入力の一方式, 情報処理学会論文誌 24-6, p. 772-779, 1983
- ギャルド 企画・編集: タッチタイプの本 : ワープロ時代の新入力方式, エー・アイ・ソフト, 1984
- 金山豊治, 竹田 尚彦, 河合 和久, 大岩 元: 日本語タッチタイプ・トレーニング・システムのテキスト作成法について, 情報処理学会全国大会講演論文集, 33-自然言語処理, p. 1783-1784, 1986
日本語タッチタイプ・トレーニング・システム作成, 情報処理学会全国大会講演論文集, 33-自然言語処理, p. 1785-1786, 1986
増田 忠: キーボードのブラインド・タッチ短時間練習法, 情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI),1987-17, p. 1-9, 1987
喜多 辰臣, 塩見 彰睦, 河合 和久, 大岩 元: 2ストローク入力用仮名漢字変換システム, 情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション, 1988-3, p. 1-8, 1988
大岩 元: Keyboard for Inputting Japanese and Training Methods for Touch Typing, Journal of Information Processing 13-1, p. 35-43, 1990
- 塩見 彰睦, 喜多 辰臣, 河合 和久, 大岩 元 2ストローク入力のための仮名漢字変換, 情報処理学会論文誌, 33-7, p. 920-928, 1992
TUT-CodeはT-Codeに遅れて1981年より論文が発表され,「タッチ16」かく戦えりにあるように,「タッチ16」としてエプソンのワープロ(HC88。ハンドヘルドコンピュータと称しているからPCという気がするなぁ)に搭載されました。しかし,他のJISかな入力・ローマ字入力によるかな漢字変換方式に遅れをとっていくこととなります。
そして,1984年にギャルド社(TUT-Codeを強力に後押しした今でいうベンチャー企業)がタッチタイプの書籍(4.)を出すなどの動きがありました。
1986年にタッチタイプ・トレーニングシステムの論文が発表される等していますが,
1987年になると,増田氏(この時はギャルドの企画)が論文を発表。その後有料での「増田式」教材の販売や「超絶技巧」という漢直の発表等,
TUT-Codeは3打入力の漢字に対する教材がないまま練習法の発表は無くなります。
そして,1992年のT-Codeの交ぜ書き変換の実装を改良したような感じの論文を最後にT-Codeの後を追ってその後の論文発表はなくなりました。
これ以降は有志による入力環境の開発にてT-Codeと同等の入力環境が用意されています。 また,実機が発売されたりギャルド社で実際に利用されていたことにより,T-Codeよりはおそらくユーザーは多いものと思われます。
今回調べた感じから言うと,T-Codeに対する比較として優位に立とうとした点がかなりあり,
- 平仮名は規則的→T-Codeよりもとっつきやすいですよ。人間はど忘れがあるからかなまで無連想とかありえん
- 使用するキー数は30キー→最上段なんか入力できるか
- 入力可能漢字数が2, 500字。T-Codeは常用漢字も入力できへんやろ
とか,カタログスペック上は断然TUT-Codeの方が上です。
また,T-Codeの論文を参考に自分らの論文を出している傾向があり,練習法とか補助入力とかはT-Codeの一年後ぐらいに 発表されていることが多いです。
なので濁音や半濁音の入力でTUT-Codeでは3~4打鍵入力なのは,
T-Codeが当初「ぱ」行は▲は丸の外字入力(今で言う部首合成変換)による6打鍵入力としていて,
それより少なければいいやということでに決まったのでは?と個人的には勘ぐっています。
T-Codeはその後入力可能数を900字から約1300文字まで増やした影響で「ぱ」2打鍵になって, TUT-Codeの打鍵数だけ多いのが目立つ結果となりました。
そしてT-Codeよりはかなり使い手目線の設計に一目見えるのですが,TUT-Codeは 3打鍵の漢字の学習に入ると全く教材がなくそこから先は自己責任の世界が広がります。
まぁ3打鍵の漢字を覚える人というのはそうとう気合いが入っていると思うので,まぁ教材などなくても勝手に学習せい,という感じなのでしょうが T-Codeが1,200字までの教材テキストを用意しているのと比較すると,上級者を突き離す傾向にあります。
これは,増田氏が有料でTUT-Codeの練習用テープを販売したりして,うかつに研究グループがそれと被る内容のものが発表できなくなった ことも関係しているのではないかと思います。
製品化もされましたし,その製品に沿った研究内容が続きTUT−Codeは「漢字を交ぜたかな漢字変換(T-Codeで言うところの交ぜ書き変換)」に関する研究を 最後に論文が発表されなくなりました。
ワープロ販売競争とその日本語入力方法
これについては,長澤 直子氏の「日本語ワープロ専用機における入力インターフェースの変遷1」に詳しいです。
この文献は1984年~1988年のワープロの入力方式とその販売台数に注目し,その推移を示して著者の考察を加えているものです。
1983年までは以下のようにまとめられています。
漢字タブレットは「文字一つにつき一つ」のキーが用意されているもので,これまでの和文タイプライターと考え方がよく似ており, 最初は好評だったようです。しかしサイズが非常に大きく場所をとるのですぐに売れなくなった,ということのようです。 1983年には初心者向けで五十音入力が広く受け入れられたようです。
長澤氏によると,1983年までは親指シフトやM式等色々な入力方式が提案されていて, ユーザーの好み(というか仕事ではなく一般のユーザーが利用するようになってきた)もあり, 五十音やローマ字での入力が出来るものが選ばれる傾向となっていたようです。
1984年以降のシェアベスト5をメーカー・入力方式と合わせて長澤氏が表にまとめているものをここで示します。 これを見ると1984年以降はすべてローマ字入力が装備されており,既に「ローマ字入力が分かっていればどのワープロでも使える」 状況になっていることになっています。
1985年の5位に,リコーから「2ストローク」が利用可能のワープロが出ています。 この「漢直」はリコー独自に開発したもので,一応論文も確認したのですが,よく分からないので割愛します。 すみません。
表3 1984年のシェアベスト5
| 順位 | メーカー | 入力方式 | シェア(%) |
|---|---|---|---|
| 1位 | キャノン | JIS(かな/ローマ字),五十音 | 27.0 |
| 2位 | 富士通 | 親指シフト/ローマ字 | 24.0 |
| 3位 | シャープ | JIS(かな/ローマ字) | 14.0 |
| 4位 | 日本電気 | JIS(かな/ローマ字),M式 | 13.0 |
| 5位 | 東芝 | JIS(かな/ローマ字) | 9.0 |
※『日経産業新聞』 1985.6.5 6面から長澤氏が作成したものを引用
表4 1985年のシェアベスト5
| 順位 | メーカー | 入力方式 | シェア(%) |
|---|---|---|---|
| 1位 | 東芝 | JIS(かな/ローマ字) | 14.7 |
| 2位 | キャノン | JIS(かな/ローマ字),五十音 | 14.5 |
| 3位 | 富士通 | 親指シフト/ローマ字/五十音 | 13.5 |
| 4位 | シャープ | JIS(かな/ローマ字),五十音 | 13.3 |
| 5位 | リコー | JIS(かな/ローマ字/2ストローク) | 12.0 |
『日経産業新聞』1986.6.4 6 面より長澤氏が作成したものを引用
表5 1986年のシェアベスト5
| 順位 | メーカー | 入力方式 | シェア(%) |
|---|---|---|---|
| 1位 | 東芝 | JIS(かな/ローマ字) | 17.9 |
| 2位 | シャープ | JIS(かな/ローマ字),五十音 | 16.5 |
| 3位 | 日本電気 | JIS(かな/ローマ字),五十音, M式 | 10.5 |
| 4位 | キャノン | JIS(かな/ローマ字),五十音 | 9.9 |
| 5位 | 富士通 | 親指シフト/ローマ字/五十音 | 9.7 |
『日経産業新聞』1987.6.10 13面より長澤氏が作成したものを引用
1987年以降は新たに策定された「新JIS」で入力できるものが現れます。 しかし,数年でどのメーカーも採用しなくなり規格自体も1999年に廃止されます。
表6 1987年のシェアベスト5
| 順位 | メーカー | 入力方式 | シェア(%) |
|---|---|---|---|
| 1位 | シャープ | JISかな/ローマ字/五十音/新JIS | 17.9 |
| 2位 | 東芝 | JIS(かな/ローマ字),五十音 | 16.5 |
| 3位 | 日本電気 | JISかな/ローマ字/五十音/新JIS/M式 | 11.8 |
| 4位 | キャノン | JISかな/ローマ字/新JIS | 9.9 |
| 5位 | 富士通 | 親指シフト/ローマ字/新JIS | 9.1 |
『日経産業新聞』1988.6.8 17面より長澤氏が作成したものを引用
表7 1988年のシェアベスト5
| 順位 | メーカー | 入力方式 | シェア(%) |
|---|---|---|---|
| 1位 | シャープ | JISかな/ローマ字/五十音/新JIS | 19.7 |
| 2位 | 東芝 | JISかな/ローマ字/新JIS | 13.3 |
| 3位 | 松下電器産業 | JISかな/ローマ字/五十音/新JIS | 11.8 |
| 4位 | 日本電気 | JISかな/ローマ字/五十音/新JIS/M式/快速ローマ字 | 11.6 |
| 5位 | キャノン | JISかな/ローマ字/新JIS | 9.9 |
『日経産業新聞』1989.6.15 15面より長澤氏が作成したものを引用
このようにローマ字入力事実上の標準になった考察として長澤氏は
- 日本語だけでなく英字や数字も入力する
- 既に英文タイプに慣れ親しんでいた人が一定数いる
ということを挙げています。Qwerty配列で英文のタイピングができるなら ローマ字入力はそんなに苦もなく受け入れられたでしょう。
英文での利用が先であれば,ローマ字入力がカナ入力より自然というのはあり得る話ではないかと思います。
長澤氏も次のように言っています。
- かな文字を頭の中でアルファベットに置き換えて
- キーボードの盤面からアルファベットを探して入力し
- 画面上にかなが表示されたら漢字に変換をする という,3つもの要素を持つ極めて面倒な方法が事実上の標準となったのだ
ただ,1., 2.は自分でも割と自然にできるので,やはり(3)が難しいのかなぁと思います。
特にこの「3.」を省略しているのが漢直(漢字直接入力)になろうかと思います。
漢直の歴史が主目的であるため,特に自分の意見も含めずここで終わりにしますが, PCの日本語入力の歴史については,様々な資料を読みました。
それらの文献2文献3文献4文献5文献6については記事の最後に一覧にしているので興味があれば参考にして下さい。
まとめ
現在の状況は
「qwerty配列のキーボードによるローマ字かな入力によるかな漢字変換」一番の主流ですが, 企業内のデータエントリー作業者が使用する入力方法は「JISカナを基本とした連想式漢字直接入力」が主流と考えられます。
データ入力を扱う企業にとっては,かな漢字変換に技術的な欠点があることは,それを使っている企業との差別化につながりますし, 一般の人で漢字を入力する人にとっては,分かり易いローマ字入力でみんながみんなかな漢字変換を使って, 入力スピードに差がつきづらい入力方式は特に入力が苦手な人にとってはメリットでしょう。
では,この状況で一番害を被っているのは誰かというと,フリーランスでかな漢字混じり文を高速に・自分が思うように入力したいという プロの物書きではないかと思います。
しかし,商品のレビューアさんとかの場合だと特徴を生成AIに突っ込んで出力したものを使う等の 別の選択肢も増えてきた中,さらにその必要とされる範囲が限られてきているような状況です。
アメリカでも現在はキーボード入力の授業は無くなってきているようです。 世界的に自分が思うようにキーボードを使って文章を書く技術というのは軽視されてきているような気がします。
現在公開されているT-Codeについては入力方式は公開されているものの, IMEについては岡さんがkanchokuWS,前田さんがMacTCodeをリリースするまでは入力できる環境が ほとんどなくなっている状況でした。(というとConvusTUT-codeを開発している木原さんにおこられるかもしれません)
自分自身としては,特にコーディング能力もなく,またキー入力の才能もない50代半ばのおじさんですので, こういう感じで「漢直」という入力方式が存在しているということをボソッと残しておくぐらいが精一杯かなぁと思います。
ただ,かな漢字変換の呪縛から解き放たれる方法もあった(ある?)ということを知っていると 何かのきっかけでそういう道を選ぶこともあるのではないかと思います。
今回で,漢直を中心とした日本語入力の歴史について紹介してきた内容については終わりとなります。 漢直以外はほぼ論文を参照しただけになっていますが,まぁそれは仕方がないことかとも思います。
もし興味のあった内容があれば,各自原文の方をご確認いただければと思います。
次回以降でT-Codeの設計方法などについて自分が論文を読んで確認した内容を順次ご紹介できればと思います。
- 長澤直子: 日本語ワープロ専用機における入力インターフェースの変遷, 立命館産業社会論集 59-4 , 2024↩
- 長澤直子: 日本語文書処理における入力方法の標準化過程, 情報化社会・メディア研究 5 21-32, 2008↩
- 浦城 恒雄 :日本の情報処理技術の足跡:漢字・日本語処理技術の発展:日本語の入出力と処理, 情報処理, 43-10, p. 1093-1098, 2002-10-15↩
- 天野 真家, 森 健一: 日本の情報処理技術の足跡:漢字・日本語処理技術の発展:日本語ワードプロセッサの誕生とその歴史, 情報処理, 43-11, p. 1217-1225, 2002↩
- 神田 泰典: 日本の情報処理技術の足跡:日本語情報処理の諸相:日本語情報処理の開発物語(JEFとOASYS), 情報処理, 44-11, p. 1176-1181, 2003↩
- 伊藤 英俊: 日本の情報処理技術の足跡:日本語情報処理の諸相:文豪,JIPS,M式入力などの日本語情報処理開発, 情報処理, 45-1, p. 68-75, 2004↩