※この記事は漢直アドベントカレンダー 2025,3日目の記事になります。
はじめに
今回から数回に分けて自分が調べた漢直を中心とした日本語入力の歴史について説明していこうかと思います。
資料の方は,主にインターネット上から参照できる論文,特に情報処理学会 電学図書館 情報学広場のサイトにはお世話になりました。 それから国立国会図書館サーチと国立国会図書館デジタルコレクション利用登録をして, もう入手が不可能に近い論文についても内容を確認することができました。
2022年2月1日 「個人向けデジタル化資料送信サービス」の開始についてでプレスリリースされている サービスとなります。いや個人的に本当にありがたいです。ボンビーでも知的好奇心さえあれば過去の貴重な資料に触れることができるのは 税金払ってて良かったとホントに思います。と余談はさておき…
これ以降の私の漢直アドベントカレンダーの記事の最後の方に載せている参考文献には リンクが無ければ基本的この国会図書館のサービスで確認した内容と考えて下さい。
国会図書館の「個人向けデジタル化資料送信サービス」の登録には身分証明書の提書が必要で,私が申請した時は登録完了まで1ヵ月待ちで, さらに一回身分証明書の提出ミスをするということもありましたが,何とかアドベントカレンダーに間に合いました。 とさらに余談はこれぐらいにして…
正直に言って11月までその内容は確定しませんでした。 そして書いている今でもあまり確定している感じではありません。 その迷走ぶりをこの記事のこの後で紹介していきましょう。
日本語入力の歴史を書こうと思ったきっかけ
きっかけは,個人的に今回の漢直アドベントカレンダーに向けて,
- ちゃんとT-Codeについて調べよう
- ということは論文に当たろう
- おっ,昔の論文が結構無料で見られるようになってんじゃん
- T-Codeの論文見つけた。よしこれについて記事を書こう
- じゃ客観的に書いている論文ないかな? 長澤氏の論文1見つけた。面白そう。
- よし。T-Code自体の論文の紹介とは別に漢直の歴史について書こう
という感じでした。
この「昔の論文が結構無料で見られるようになっている」というのは, 学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針 というのが,2024年2月16日に内閣府の統合イノベーション戦略推進会議で決定されて, その方針に従って今まで学会内でしか自由に見られなかった論文(ただしほとんどのものが有料では閲覧可能)が 公開される動きのようです。さすが日本。貧乏人漢直ユーザーには有難いっす。
話を元に戻して,まずきっかけに書かれている長澤氏の論文1について紹介しましょう。 この論文のujimushi的解釈は
- 山田氏(T-Codeの開発者)がT-Codeを開発したのはアメリカの文書処理システムへの憧れからで, 目指したのは英文タイプ並の速度で入力可能な和文タイプライタの開発である
- この頃の英文タイプライタは手書き文書の清書が主な目的
- ターゲットは「専任タイピスト」
- その後ワープロの販売競争が起こり,次第にローマ字入力によるかな漢字変換に統一されていく
- 英文タイピスト検定を受ける人が数万人おり,ローマ字入力によるかな漢字変換を受け入れる 人が多かったのでは?
といった感じでした。
で,この内容を元に書きかけていたのですが,その参考文献である「専任タイピスト向きタイプ入力方法の研究経過2」 を読んでいるうちに,少しずつ考えが変わっていきます。
この中にはT-Codeを開発するまでの流れや,その後TUT-Codeがワープロに採用された話等がつづられているのですが, この中の「3 漢字コード入力方式」項で出てくる川上晃氏が開発した「ラインプット3」という入力方法について 内容がつづられています。これを見ると,T-Codeがかなりこの「ラインプット」に影響を受けていることが分かりました。
さらにこの川上氏は日本で初の速記機である「ソクタッチ」の開発・発明者であるとか。これはこれについても 調べなあかん,ということで色々調べていました。
そして「ラインプット」の共同特許者の川上 義氏のYouTubeの動画4を見つけたり,また速記関連で質のいい資料を 公開している方のウェブサイトを一時期見失う等ありながらも再度見つけ5,次のように考えるようになりました。
「漢直」はネットでよく情報が公開されている「無連想式」だけではなくラインプット,カンテック,KIS等の 「連想式」もあり,この内容についても紹介した方がいいんじゃないか? と。
また,カンテック,KISは「JISカナ配列」を利用しており,この「JISカナ配列」についても資料を紹介できれば,と。
で調べてみると,JIS配列については,スラドにいる時に日記をよくお見かけしていた安岡先生の資料6を 見つけました。
主題は「漢直」なので,JIS配列に関してはこの資料をさらっと紹介できればと思いました。
この時点で,
- 全体的な歴史
- 連想式漢直が生まれるまでの歴史
- 無連想式漢直が生まれる歴史とワープロ販売競争と日本語入力
の三本立てぐらいで考えていました。 その間も色々調べていると,この漢直アドベントカレンダーのために登録した国会図書館デジタルコレクションの中で, 1978年夏に行われた「日本語情報処理シンポジウム報告集」の中の「日本語テキスト入力法の人間工学的比較7」 という資料を見て,
- T-Code開発直前の日本語入力方式の状況がよく分かる
- 何故T-Codeを開発しようとしたかの動機がよく分かる
と自分で感じました。
そこで,最終的には
- あれやこれや迷ったことをそのまま書く(この記事)
- T-Code開発前夜の日本語入力の状況
- 連想式漢直とそれに関連する歴史
- 無連想式漢直(T-Code,TUT-Code)の歴史とワープロ販売競争と日本語入力
のような形で紹介していきたいと思います。 長々と前置きが長くなりましたが,今回の記事の主な内容は以上といたします。
次回は「T-Code開発前夜の日本語入力の状況」について,参考文献7に書かれている内容を中心に ネット上の記事とリンクしながら紹介できればと思います。
- 長澤直子: 日本語文書処理における入力方法の標準化過程, 情報化社会・メディア研究 5, p. 21-32, 2008 ↩
- 山田 尚勇: 専任タイピスト向きタイプ入力法の研究経過,コンピュータ ソフトウェア 2-1, p.344-354, 1985↩
- 川上 晃, 川上 義: タッチ打法による漢字入力, 情報処理 15-11, 1974↩
- YouTube hirosi kawakami↩
- 兼子 次生: 文字書き機械の歴史, 2012↩
- 安岡 孝一: キー配列の規格制定史日本編 : JISキー配列の制定に至るまで, システム/制御/情報, 47巻 12号 p. 559-564, 2003↩
- 山田尚勇: 日本語テキスト入力法の人間工学的比較, 日本語情報処理シンポジウム報告集 p1-33, 1978↩