なんかエッセイが読みたいな、と思っていたところで、たまたま書店で見つけて迷わず購入。
志村さんが48歳か49歳ごろに出版された自伝的エッセイに、その反響への後日談を数年後に加えて出された【完全版】で、毎週「8時だよ!全員集合」を楽しみに見ていたわたしにとっては、たまらん内容でした。
ひとみ婆さんのコントの脚本が2つも収録されていたり、文通友達からの手紙や写真も収められていて、豪華な詰め合わせです。
この自伝の中にはいろんな映画や音楽の話も書かれていて、オースティン・パワーズの名前も出てきました。
わたしは心が疲れたときにオースティン・パワーのオープニング映像を見るのが好きなのですが、こういうものを見て元気になるのはこの方の影響かも。
高倉健さん主演の映画『鉄道員』について書かれた章では、健さんのお気に入り映画がパトリス・ルコント監督の『髪結いの亭主』であることがわかって意外と感じたり、副次的なおもしろ情報がいっぱいでした。
年齢を重ねても文化人にはなりたくなかった。
そんな思いを40代の後半で語り、その通りにこの世を去ったのは、やっぱりかっこいいですよね。
「東八郎さんの言葉が忘れられない」という章に、こう書かれていました。
「ケンちゃん、お笑いはバカになりきることだよ。いくらバカをやっても、見る人はわかってる。自分は文化人だ、常識があるんだってことを見せようとした瞬間、コメディアンは終わりだよ」
僕はずっと、その言葉を大事にしている。
日本ではお笑いの地位が低いせいか、お笑いをやってても年をとったら文化人みたいになったりする。けど、僕は決してそうなるまいと思ってる。
この意思表明から20年、それを貫いて他界されていった。
どのエンタメ作品からどんなインスピレーションを得たかも語られています。
一緒に組んだ人のうまさについては、特に柄本明さんと西田敏行さんの話がおもしろく、この種の解説本が一冊出たら読みたいくらいです。
わたしは林芙美子の小説が好きなので、映画作品で観れるものはすべて見たのですが、映画版の『晩菊』が柄本さんとの芸者コントの元ネタになっていると教えてもらったときには、本当にすごいことだと思ったものです。
ミュージシャンはリズム感がいいからコントもうまいという話も興味深く、子どもの頃に研ナオコさんやジュリーとやるネタでゲラゲラ笑っていた時代を思い出しました。
加トちゃんの人格者っぷりも印象に残りました。
ドリフの元付き人であった志村さんをさりげなくアシストし、メンバーになってスターになってもずっと変わりなく接していたことがわかります。
付き人時代に一緒に珍道中の海外旅行をすることになった荒井注さんとのエピソードも豪快で、今じゃありえないような内容でした。
この自伝にはこれまでの恋愛遍歴や結婚しない流れもあけすけに書かれていて、その中で何度か "寂しさ" の感覚への言及があり、「夜、部屋を真っ暗にすると眠れない」という章で
なにかいいことがあった時って、特にそうだ。いい仕事をやった後というのは、誰かにしゃべりたいんだよ。その仕事のことじゃなくても。
さすがの解像度の高さです。
うまくできたときに一人だと寂しいから、誰かを側に置こうとしたり、うまくいかない道を選んでしまう。それが寂しさの功罪。
全部分析できちゃってるのだけど、分析できてますっていう語り方をしないところに色気がありすぎて、モテモテの人生です。
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みなさんにとっては、どの時代が自分にとっての「志村けん」ですか?
わたしはやっぱり、ひげダンスと、「カラスの勝手でしょ〜♪ 」。
バカ殿の老中が東八郎さんだったことを知っている世代でもあるので、志村さんが東八郎さんのことを語ると、東さんのあのしゃべり方、あの挙動、あの顔のワンセットでおもしろかったことが脳内映像で再生されます。
世間の流れの軽さに迎合する範囲を自分で決めて、自分が無粋だと思うことには手を出さなかった。当時のコント師の粋な考えを教えてくれる、とても良い本でした。