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フィフティ・ピープル[新版] チョン・セラン著/(訳)斎藤真理子

なぜいまこういう生活をしていて、こういう人間関係の中にいるのか。

個人の物語が重なって、読んでいるうちに韓国の社会が多角的に見えてくる本でした。

この本一冊を読み通すことが、新しい業界に転職をしてその商慣習に慣れていく時の感覚とそっくり。人を知ることを通じてしか、その環境を理解することってできないんじゃないか。そうだ。そうなんだ。そりゃそうなんだよね。

 

ほのかな親しみを感じている “顔見知りの、隣の部署のあの人” の独白を盗み聞きしているようで、ページの進み方に不思議な吸引力があります。

ちょっとした表現に胸をぐわっとかき乱される瞬間がいくつもありました。

この本を読んだという人に出会ったら「どこを覚えてる?」と聞きたくなる。

わたしはここに付箋を貼りました(4つ書きます)。

 

 

ファーストキスの話

ジンゴンさんの息子のヨンモ青年が飲み会で王様ゲームをしてすてきな女性にほっぺにキスをされ、その後に告白をしてフラれたときの、別れ際のファーストキスの感想が最高。

大人の女性が粋なキスをして去って行った後に

 胸の中で白鳥が百羽、いっせいに水面を蹴って飛び上がるような音がした。

 

ですって! くうぅぅぅ~。

それまで「王様ゲームって、韓国にも全く同じ感じであるのか。てか、まだやってるんか・・・」と思いながら読んでいた自分のねじれた気分まで白鳥と一緒に飛び立っていきました。

こういうのって、お隣の国の話だからこその親近感で読める、日本人ならではの読後感のような気がします。意地悪な思考を脱ぎ捨てるきっかけになるような何かが、この本にはある。

 

 

ワーキング・ガールGの人生訓

職員寮のルームメイト三人女性(3G)の話も印象に残っています。

そのうちのひとりであるスジさんが、こんなことを言います。

「社会で長く働いていると、人に対する基準ができてくるじゃない? 私の基準は単純なの。いい人か悪い人か。心のふたがちゃんと閉まってるか、ガタガタしててすぐに中身がこぼれるか。相手のことも考えずに感情を爆発させて、何でもないことみたいに思ってる人って意外に多いじゃない? いい人で、同時に自分のコントロールができる人って珍しいし、貴重だわ」

「心のふた」という言い方から、中に臭いと揮発性の強いもの(ガスのような心)が入っている感じが伝わってきて印象に残りました。

日本のポエム文章では「心に蓋をしないで」という表現の方がよく見る気がするのだけど、「ちゃんと蓋をしておく」のほうが誠実なんですよね。

 

 

中年の停滞感の実況

高校時代に発症した持病と付き合いながら年齢を重ねてきたチョ・ヒラクさんの年齢の感覚の語りが印象に残りました。

 三十歳になったときは、実は嬉しかった。二十代は何をすべきかまるでわからなくて辛すぎたから、三十歳になって嬉しかった。四十歳は——四十歳はちょっと違うみたいだ。人生がひどく固定されてしまったような感じ。毎日、いいことが起きないように調整されたさいころを投げているみたいな感じがする。

 

チョ・ヒラクさんの章だけ読むと中年の憂いのように見えるのだけど、他の人の話にヒラクさんが登場したときにはそうではない。さいころがどんなに調整されていたとしても、客観的に見たらその人にはその人の功績と役割がある。

人生は少し固定されているくらいじゃないと、誰からも信頼されていない感じがするものじゃないか。ここを読みながらそんなことを思いました。

 

 

試験にいきなり受かったと言われる感じ

恋愛の共依存関係の入り口が短い文章でしっかりと書かれているところがありました。

ムン・ヨンニンさんのデートの場面です。彼が古いジープで迎えにきて、そのことを少し気にしているのだけど、ヨンニンさんは車に頓着がないのでよく見ないで気にせず乗ります。

「あ、ごめん、見ないで乗っちゃった。どこの車なんですか?」

 正直言ってシルバーのジープなんて全部同じに見える。免許は取ったけど、車はまだヨンニンの関心の範囲内になかった。

「ヨンニンは気さくだね」

 恋人がそう言ったとき、妙にひやっとした。知らない間に何か新しい試験に受かったらしいと思った。ただでさえ不安な人間をなおさら不安にさせるのに、試験ほどうってつけのものはない。しかもヨンニンはこの人のことが好きだった。それまでの恋人を全部集めたよりも好きだった。何としても試験に受かりたかった。だから会うたびに緊張した。

 

「気さくだね」のひとことから徐々に調教してくる男には気をつけなければならない。

別に「気さく」にならなくても「シルバーのジープは全部同じに見える」でいいのにね。

こういうことがわかってくるのって、それなりに失敗の数をこなしてからなんですよね。わたしの身近にはそれに懲りて再婚は考えられないって感じの女性が数人います。

(なんの感想だ w

 

  *   *   *

 

どうですか。おもしろそうでしょう。

発表は2016年で、これは2024年の新版。この数年の社会の変化を踏まえてチューニングが加わっているそうです。巻末に主要な社会ニュース背景の解説があり、小説を読んでからそれを読むと、もはやこれは教養のジャンル。勉強になります。

 




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