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40歳だけど大人になりたい 王谷晶 著

もうすぐ30歳になるとか40歳になるとか、いろんな人のいろんなお話を聞く機会が増えました。

同世代や少し上の世代との会話では、もう一階層具体的な、ライフステージの話をしています。

 

ここ数ヶ月は、30歳を前に結婚に焦っている女性の話を複数聞きました。

そんなふうに自分を追い込む必要はないのにと娘を見るような気持ちで聞きながら、ぐっちゃぐちゃでしんどい時期だというのもよくわかっているので、同世代の人と「あの歳に戻れると言われても、戻りたくないね」と目を合わせてうなずきました。

 

 

王谷晶さんのエッセイの「はじめに」に、こう書かれていました。

 しかし振り返ると、この30歳になったあたりから、やっと「ものごころ」がついた気がしてならないのです。

”手元も遠くもよく見えていなかった” と。

わたしもそうでした。そもそも心が現実から目を背けてる。心の瞼をぎゅっと閉じて、闇雲にあれこれ手を出してかき分けて、無理やり道を作ってたな。

 

この本の著者の2030代の振り返りはどれも読み応えがあり、途中から襟を正して読まねばならないエッセイのように見えてきて、終盤になるほど付箋を貼る行が増えました。

 

30代って、パワーが濃いんですよね。そして、量もある。

40代になるとそれが一部片付いてくる。と同時に、片付いた場所に何を収めていくべきかを考えさせられる。プレッシャーの性質が変わってきます。

 

こういう「考えさせられる気がする」という脳の機能を、著者の王谷さんは「エア・世間様」と書いていました。

このエア・世間様は何度追い払おうとしても頭の中から出ていってくれない。リアル・世間様も辛いがこの脳内のエア・世間様も辛い。おそらく私は、自分が大人になれない中年であることが後ろめたくて恥ずかしいのだ。そんな自分がリアル世間様から隔絶されて取り残されているような気分に、ついなってしまう。

(「老いと大人」より)

どこまでも正直。

こんなふうに世間様の存在を気にしつつも、断絶上等! という考えもあって、そのバランスがこの本の痛快なところでもあり。

 

 

最も膝を打ったのは、大人として用意する上手な嘘と「苦手な恋バナ」の話でした。

「見てきたようなウソをつくのは得意だ」という小説家の話はやっぱりおもしろい。

独身で恋人がいないと言うと起こりがちな、身近な「余り物」(←笑!)とくっつけようと画策される場面への対処法が書かれていました。

村田沙耶香さんの小説『コンビニ人間』にあった世界が手前に降りてきたようなトピックで、仕事先だけでなく行きつけの飲み屋、美容院、不動産屋と、あらゆるところで大人のウソをつかされるのは社会が悪いと。うん。

そうだそうだ! と、笑いながら読みました。

プロの作家が創るウソのディテール、仮想恋人の人物像の組み立て方が大変参考になりました。

 

 

「リレーションシップと大人」という章も印象に残りました。

30代まで平均以上の数の本・映画・漫画で多くのリレーションシップを観て読んできたけれど、ほとんど己の身につかなかったと書かれていました。

フィクション(ときにノンフィクション)を大量に摂取したからといって人格が上等になるわけではない。自分で「ましになろう」と思わないと、ましな人間にはなれない。

これを書いてくれる小説家は、間違いなくいい人。

本を出す人って、逆のことを言って読書を推進してくるもの。

本は友達とかいっちゃって。慰めではあっても友達ってこたぁないだろうに。

 

同じ章の少し前の段落に、こう書かれていました。

 恋愛だけでなく、あらゆる人間関係において、自分は長く健やかに維持するための努力を怠ってきすぎた、と最近じわじわわかってきた。中年になってこういうことに気付くのは恐怖である。

これは本当にそうで、わたしもそう。

フィクションであれノンフィクションであれ、他人の物語に逃げこむことに親しんでしまうと、リアルの人間関係では酸素が薄いところで酸素を求めてる感じで、気づけば心の肺胞がたくさん死んでる。ダイナミックに呼吸ができなくなる。

そして気がつけば対人関係の筋力が衰えてる。

その実感をこのエッセイを読むことで思い出しました。

 

 

軽い気持ちで楽しんで読んでいると、ときどきバーンとドリフの金だらいみたいなのが降ってくる。笑える要素も多いエッセイ。

わたしの好きな「後悔と大人」という章は、ウェブでも読むことができます。

おもしろいよー。




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