『ティファニーで朝食を』と、ほかに3つの短編小説が収められた本を読みました。
印象に残る話ばかりで、登場人物たちの美学や優先順位のあり方に魅力を感じました。
『ティファニーで朝食を』は人間関係の距離について教えてくれる教科書のようだし、『クリスマスの思い出』は忘れてはいけない他者への視点を示してくれる教典のよう。
ひとつずつ感想を書きます。
- ティファニーで朝食を Breakfast at Tiffany's
- 花盛りの家 House of Flowers
- ダイアモンドのギター A Diamond Guitar
- クリスマスの思い出 A Christmas Memory
ティファニーで朝食を Breakfast at Tiffany's
10代の後半に映画を観ていたので、もう一度映画を観てから小説を読みました。
最初に映画を観た頃のわたしはまだ学生で、パパ活で稼ぐ生活など想像もできず*1、アメリカのとびきりお洒落な大人の男女のラブコメとして観ていました。
ですが、いまなら状況がわかります。映画のほうは将来性のない男女の行く末のことなんて考えなくていい雰囲気で終わります。小説のほうは、最初から物語の語られ方が違っていました。
小説を読んでわたしが最も驚いたのは、主人公のホリー・ゴライトリーがティファニーを「生きたまま、エゴを持ったまま行けるニルバーナ」という意味でその店(場所)を表現していたことでした。
映画でも感じられたけれど、ホリーの矜持には “頂き女子りりちゃん” との共通性が見られます。
男たちとセックスをして、金を搾り取っておいて、それでいて相手のことを好きにもならないなんて、少なくとも好きだと思おうともしないなんて、道にはずれた話だってことよ。私にはそういうのはできっこないわ。
どうですか。この美学(全面的には褒めていませんが、半分は褒めてます)。
これが戦時中の設定で書かれていたのだから、そりゃヒットするわけです。
そしてまあどうにも、名言に唸ります。くうぅぅぅ~っ、粋だねぇ! と、わたしのなかの江戸っ子おじさんが膝を叩きます。
策略にとっての飲酒は、マスカラにとっての涙の如く致命的である。
こんな一行が、しれっと差し色のように織り込まれます。お洒落!
かと思えば、英語がネイティブでない人の設定で話される人のセリフのシンプルさが強烈に刺さったりもする。
「彼女の病気はただの悲しみなのですか?」
この問いの一行に、ホリーの闇(病)が凝縮されています。
関係性の描きかたまで、いちいち粋でやがる。てやんでい。
映画のほうは、ホリーの以下の部分が最高のスタイリングで映像化されていて、もうそれだけで200点満です!
彼女は常にサングラスをかけて、粋なかっこうをしていた。着る服はとてもさっぱりとしていて、そこには揺らぐことのない趣味の良さがうかがえた。色はブルーかグレーが多く、生地もつやつやしたものではなかったので、その結果彼女自身がずいぶん輝いて見えることになった。
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これがあの「ムーン・リバー」を歌う名シーンに凝縮されています。ブラボー!!!
ジバンシィを脱いでグレーのニットにブルージーンズに着替えたホリーがさらに魅力的、というあの瞬間がやっぱりどうにも最高です。
花盛りの家 House of Flowers
生きていくことに必死で、そもそも「恋心」を主体的に抱けない女性のカントリー・バージョン。
『ティファニーで朝食を』と同じ本に収められていることで、都会と田舎の環境の違いと心理の共通点がよく見えて、とにかく不気味な感じがたまりません。
主人公がこれが恋なのかを知るために蜂を使って占いのようなことをする仕掛けも、独特の絵が浮かぶ。太陽の下のミステリー。すっかり引き込まれました。
設定は違うけれど、新藤兼人監督の映画『鬼婆』のような怖さがありました。
ダイアモンドのギター A Diamond Guitar
脳内で映像化しながらでないと読み進めにくい、アメリカ映画でしか見られなそうな話でした。男同士の信頼と裏切りの繰り返しの話なのに鬱陶しくないのは、なにかがいい塩梅で書かれているからなのだけど、どこをうまく引き算したのだろう。
境遇の描写かな。犯罪者たちの物語でした。
クリスマスの思い出 A Christmas Memory
胸がギューーーーーっとなりました。なにこれ名作じゃないかと思ったら、山本容子さんの挿絵で一冊の本が出ているんですね。これに絵がついたのを読んだら、どうなっちゃうんだろうわたし。独身女性の加齢のプレッシャーを描く場面に衝撃を受けました(いい意味です)。
その人が「町でいちばん綺麗な椿を栽培している」という描写を読んだところで、別の初期短編集に収録されていた『ミス・ベル・ランキン』という老女の話を思い出しました。ミセスじゃないの。
周囲からは「お気の毒」に見える人が、開き直らずに、正直に、したたかにコミュニティの中で生きている。その事実に向けられるフラットな眼差しをこんなふうに書くなんて。
『ティファニーで朝食を』に負けず劣らずのインパクトでした。
▼すべてこの一冊に収められています