時事ドットコムニュース 2025年08月15日
太平洋戦争の戦死者らを「英霊」として祭る靖国神社(東京都千代田区)が戦後80年を迎えた。日本遺族会会長を務めた自民党元幹事長の古賀誠氏(85)が時事通信のインタビューに応じ、天皇陛下の靖国神社への参拝を望み、参拝問題を解決するには「A級戦犯の分祀(ぶんし)以外にない」と強調した。分祀が実現していない中で、首相や閣僚が靖国参拝することに「反対」と訴えた。(時事通信政治部 大沼秀樹)
鎮魂と祈りの夏
〈太平洋戦争末期、父を出征先のフィリピン・レイテ島で亡くした古賀氏は母の苦労を見て育ち、政治家を志した。1980年の衆院選で初当選し、当選10回。一貫して「平和」を訴え続け、2012年に政界を引退した〉
―戦没者遺族として戦後80年が経過した今の思いは。
暑い夏は鎮魂の祈りの季節だ。父親は私が2歳の時に赤紙が来て出征したため、父親のぬくもりや思い出は何一つ記憶にない。5歳の時に終戦を迎え、小学校の校庭に集まってラジオで玉音放送を聞いた。それから80年、長かったようにも、あっという間に過ぎてしまったようにも思う。
A級戦犯合祀が理由
〈靖国神社は極東国際軍事裁判(東京裁判)のA級戦犯14人を「昭和受難者」として1978年に合祀(ごうし)した。太平洋戦争の開戦時に内閣を率いた東条英機元首相らが含まれ、首相らの参拝を巡る問題が注目を集める原因となった〉
遺族として極めて残念、無念だ。靖国参拝問題はA級戦犯をひそかに合祀したところから起きており、昭和天皇がご親拝できなくなった理由はそこにあると思う。解決するにはA級戦犯の分祀以外にない。
英霊の御霊(みたま)を祭るのは靖国神社以外ないというのが遺族にとっての大きな観念だ。無宗教の新たな追悼施設を建設する案もあったが、仮に新施設ができたとしてもそこにお参りすることは全く考えられない。
靖国神社としては、いったん魂を納めた以上取り除くことはできないと拒否している。ろうそくに例え、火は分けられない、と。絞首刑を言い渡された7人のうち東条元首相以外のご遺族も「いろいろな問題が生じてご親拝できなくなっているのは甚だ心苦しい」として分祀に同意している。(神社側の主張は)理解できない。
―東京裁判を否定する意見もある。
東京裁判は戦勝国による全く不公平な中で一方的に行われた裁判だから認める必要はなく合祀しても問題ない、という一握りの保守的な人の意見がある。この考えは、国際社会でとても通用する話ではない。わが国はサンフランシスコ講和条約(1951年に日本と連合国48カ国が調印)でA級戦犯が戦争責任者だと明示的に受諾し、日本再興のレールが敷かれて今日がある。歴史認識はしっかり持つべきだ。
―靖国参拝時に母親が「赤紙を出した偉い人も一緒に入っている」とつぶやいたことが分祀論の契機になったのか。
犠牲者の妻として、命令を出した人と出されて死んだ人が、同じところに祭られていることに対する正直な気持ちだ。今でも母が言ったことは理解できるし、大切にしなくてはいけないと思っている。
―政治的にどう取り組むべきか。
この問題がいまだ解決できていないのは「政治の貧困」が続いているからだ。上皇さまが世界30カ所以上の慰霊の旅を続けられたが、靖国にお参りできていない。英霊もご親拝いただきたいのに、それができないのは残念だ。靖国の御霊の思いは何かを考えて、重ねて国民に発信し、国民世論をつくり上げていくことが大事だ。ご親拝できる環境整備に全力を尽くさなければならず、われわれの世代で解決すべきだ。
―「政教分離」はどう整理すべきか。
力足らずであり、反省すべき点はたくさんある。私自身、分祀以外ないということで頑張ったつもりだが、なかなか思うような国民世論をつくり上げることができなかった。
政治利用に危機感
〈小泉純一郎首相は2001~06年の在任中、毎年参拝し、中国や韓国との関係悪化を招いた。06年は終戦の日の参拝に踏み切った。安倍晋三首相は13年12月に参拝し、オバマ米政権が「失望」を表明した。この後、現職首相の参拝は行われていない〉
―首相や閣僚の参拝についてどう思うか。
A級戦犯合祀という問題を解決しなくてはいけない。今の状況で参拝することには反対だ。近隣諸国ともめ事をつくる必要はない。
―分祀が実現すれば周辺国の理解は得られるか。
中国や韓国は戦争責任者のA級戦犯を祭っているところにお参りすることで「いつか来た道に戻るのではないか」と言っている。分祀すれば参拝を非難する理由はなくなる。
〈7月の参院選で参政党が「日本人ファースト」を掲げて躍進。神谷宗幣代表は8月1日の記者会見で「私は毎年(サンフランシスコ講和条約が発効した)4月28日に参拝してきた」と説明。終戦の日にも党所属の国会・地方議員有志で参拝すると明言した〉
―参院選で保守勢力が伸長した。今後、靖国問題が政治アピールに使われるなど影響が生じる懸念はないか。
靖国問題が政治利用されるのではないかという危機感を持っている。幸い、石破茂首相はご親拝の環境を整備すべきだという主張をしており、ぜひその先頭に立ってほしい。
自民党は参院でも少数与党という苦しい立場になった。しかし国民のために一番大事なのは政治の安定だ。長い歴史と伝統を持つ自民党だからこそ国民に示すべき方向があるはずで、靖国問題もその一つだ。(肩書は記事、写真とも当時 インタビューは7月28日に行いました)
(2025年8月15日掲載)