自民の「右傾化」急加速か 高市早苗総裁誕生なら「スパイ防止法」制定も現実味? 保守系野党も前のめりで
2025年7月24日 東京新聞
参院選で与党が惨敗した。世間の目は石破茂首相の進退に向くが、目を離せないのは自民党の今後もだ。参政党をはじめ、保守系の政党が議席を伸ばす中、今以上に右派の色合いを強める危惧も。かねて右派が望んだ政策、特にスパイ防止法の制定が現実味を帯びてこないか。(西田直晃、木原育子)
◆「もう一回、党の背骨をがしっと入れ直す」
参院選で傾いた自民党。既に党総裁への意欲をにじませた人物がいる。高市早苗氏だ。投開票直前の18日には地元・奈良県の演説で「私なりに腹をくくった。もう一回、党の背骨をがしっと入れ直す」と述べた。
2021年の総裁選で安倍晋三元首相に支持された高市氏。思い返されるのが、総務相時代の対応。2016年、政治的公平性を欠くと判断した放送局に対し、電波停止を命じる可能性に言及した。
メディア文化評論家の碓井広義氏は「安倍氏も放送への介入が目立ったが、高市氏は考えを継承したよう。現在に至るまで撤回していない」と語る。
保守色とも右派色とも指摘される高市氏の政治姿勢。参院選では、似た色合いを持つ他党が躍進した。目を見張るのが、参政党。比例票では自民党や国民民主党に次ぎ、742万票を獲得している。
◆参政党の新憲法構想案は「戦前回帰」?
参政党は新憲法構想案で「国家の自立」をうたい、先の大戦を「侵略戦争ではない」と喧伝(けんでん)してきた。沖縄国際大の前泊博盛教授(日米安保論)は「顕著なのは戦前回帰。自主防衛を打ち出しており、徴兵制も現実味を帯びる」と話す。外国の軍隊の駐留廃止も掲げているものの、ジャーナリストの布施祐仁氏は「人権侵害や生活不安を理由に基地縮小を求める沖縄の人と違い、国家主義のために対米従属を解消する論理だ」と解説する。
かたや自民党。参院選では「違法外国人ゼロ」などを標榜(ひょうぼう)。右派の歓心を買おうとした様子がうかがえたが、あえなく惨敗した。
自民はどうなるか。躍進した他党に負けじと、今以上の右傾化を進めるのか。
◆杉田水脈氏ら保守色の強い議員が落選
政治ジャーナリストの角谷浩一氏は「右寄りの立場で中心を占めるなら高市氏、萩生田光一氏らの顔が浮かぶ」と語る。
両氏はともに安倍氏と近い人物だ。そして高市氏に関しては、重要経済安保情報保護・活用法を巡り、中国の脅威を念頭に置いた「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度の導入を主張。改憲を訴えるほか、選択的夫婦別姓の導入には慎重で、靖国参拝を続けてきた。
ただ、先々の見通しは難しいという。
今回の参院選では、保守色の強い議員が落選した。元陸上自衛官の佐藤正久氏、アイヌ民族や在日コリアンらへの差別発言を繰り返した杉田水脈氏、LGBTなど性的少数者への理解増進法の採決に加わらなかった山東昭子氏や和田政宗氏らが含まれる。
(中略)
◆国際勝共連合の機関紙「思想新聞」では…
この法律の具体化を巡っては、連綿と受け継がれてきた歴史がある。
国際勝共連合の機関紙「思想新聞」のコピー。漫画やすごろくも織り交ぜ、スパイ防止法の制定を推した
旗振り役を担ったのが岸信介元首相。1984年に「スパイ防止のための法律制定促進議員・有識者懇談会」ができると会長に就いた。歩調を合わせて法制化を推してきたのが、国際勝共連合。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)系の政治団体で、機関紙「思想新聞」では漫画やすごろくまで持ち出し、スパイ防止法の制定を促した。
1985年には自民が関連法案を提出。防衛や外交に関する機密情報を国家秘密とし、外国に漏らすなどした場合の最高刑は死刑とした。ただ当時は自民党にも慎重派がおり、廃案となったものの、勝共連合は重ねて必要性を訴えてきた。
秘密法制に詳しい海渡雄一弁護士はスパイ防止法がはらむ危うさを指摘する。
◆「公益」重視なら容易に監視強化
「『国家の機密が他国に漏れることが命取りになる』として、国家による広範な監視が広がる。国家機密漏洩(ろうえい)を拡大解釈するなど、権力側が恣意(しい)的に摘発できる余地を残す」
2013年には特定秘密保護法が成立。機密情報を漏らした公務員らに厳罰を科すとしており、海渡氏は「スパイ防止法は秘密法のグレードアップ版だと言っていい」と語る。
そのスパイ防止法に熱視線を送るのは、参院選で躍進した参政党もだ。神谷宗幣代表は今月22日、秋の臨時国会で法案提出を目指す考えを示した。
参政党は公益に重きを置くが、その考え方に沿った運用を危ぶむのが名古屋学院大の飯島滋明教授(憲法学)。「公益を重視することは、私権制限を容認することに重なる。容易に監視が強化され、個人の尊厳や幸福追求権を侵害されかねず、ひいては憲法の基本原理である国民主権を損なう危険性がある」
◆国民民主や維新も必要性説く
同党といえば外国人規制が批判を集めてきた一方、神谷代表が「極左の考え方を持った人が社会の中枢に入っている。極端な思想の人たちには辞めてもらわないといけない。これを洗い出すのがスパイ防止法です」と述べて物議を醸した。
ただスパイ防止法の規制対象は、より広範に及ぶ可能性があるという。飯島氏は「外国人だけでなく国民全体が国家の監視の対象になりうる」と指摘し、「その議論がすっぽり抜け落ちている」と警鐘を鳴らす。
「いわく付き」のスパイ防止法にもかかわらず、他党も制定に傾く。
今回の参院選では、参政党と同様に躍進した国民民主党、さらに日本維新の会も「諸外国並みのスパイ防止法」を掲げ、日本保守党も「諜報(ちょうほう)専門機関設置の必要性」を説いた。
(中略)
自民も参院選公約で「スパイ防止法の導入に向けて検討を進めます」と盛り込んでいる。法制化を強く求めてきたのが高市氏。次期総裁に就けば、この動きが加速しかねない。
鮫島氏は、今後を危惧する。「反自民票の受け皿は野党第1党の立憲民主党ではなく、国民民主党や参政党だった。立民が対抗軸を示せればいいが、議席は横ばいにとどまり、かなり手痛い状態。攻めあぐねていると言わざるをえない」
◆デスクメモ
人権や歴史認識を巡って物議を醸す参政党。彼らの躍進は見過ごせないが、彼らにつられる動きが危うい。特に自民。1年弱で議席数を大きく減らしたが、巨大政党であることは変わりない。他党に負けじと右傾化を進める危惧。保身のために大切なものを二の次にしていいのか。(榊)