ロでアイスホッケーの交流試合も…ロシア側が暴露した「トランプ・プーチン電話会談」の「驚きの中身」
塩原 俊彦 2025/3/21
3月18日に行われた米ロ首脳による電話会談は奇妙な結果をもたらした。双方の発表に違いがあるうえに、内容が薄い。2時間半もの協議の内容のごく一部しか明かされていない公算が大きい。
アイスホッケーの米ロ交流試合で合意
クレムリン(ロシア大統領府)のサイトに公表された「ドナルド・トランプ米大統領との電話会談」というリリースでは、プーチンは「敵対行為と人的損失の終結という崇高な目標を推進しようとしているトランプに感謝の意を表した」という話からはじまっている。ついで、「ロシア大統領は、紛争の平和的解決に対する基本的なコミットメントを再確認し、包括的で持続可能かつ長期的な解決策を検討するため、アメリカのパートナーとともに徹底的な検討を行う用意がある、そしてもちろん、危機の根本原因とロシアの正当な安全保障上の利益を排除する無条件の必要性を考慮に入れることを表明した」とのべている。
その後で、「30日間の停戦を導入するという米国大統領のイニシアチブに関連して、ロシア側は、接触線全体にわたる停戦の可能性を効果的にコントロールすること、ウクライナにおける強制動員を停止すること、ウクライナ軍の再武装に関する多くの重要な点を概説した」、と書かれている。つまり、米国側は主張した30日間の停戦について、「ウクライナにおける強制動員やウクライナ軍の再軍備が停止される」(つまり武器の納入が停止される)場合にかぎって同意するという条件をつけたことになる。
だが、「会談のなかで、ドナルド・トランプは、紛争当事国がエネルギーインフラ施設への攻撃を30日間、相互に拒否することを提案した」とあり、この提案については、「ウラジーミル・プーチンはこのイニシアチブに積極的に反応し、直ちにロシア軍に対応する命令を下した」と書かれている。
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それだけではない。「ロシア大統領はまた、黒海の航行の安全に関するよく知られたイニシアチブを実施するというドナルド・トランプの考えにも建設的な反応を示した」とし、「このような取り決めの具体的な詳細を詰めるための交渉を開始することで合意した」と解説している。リリースによると、「ウラジーミル・プーチンは、3月19日にロシア側とウクライナ側が175人と175人の捕虜を交換すると発表した」とものべている。加えて、「ロシアの医療機関で治療を受けている重傷のウクライナ軍兵士23人も、親善措置として引き渡される」という。
こうした内容紹介の後、「両首脳は、上記の米大統領の提案を考慮に入れることも含め、ウクライナの解決を二国間で達成するための努力を続ける意向を再確認」し、この目的のために、両国の専門家グループが設置されることになったという。さらに、両首脳は、中東や紅海地域の情勢など、国際的な課題についても言及した。「今後、経済・エネルギー分野で相互に有益な協力関係を発展させる方向で、多くのアイデアが話し合われた」という記述もある。
最後に、トランプ大統領は、NHL(北米のナショナル・ホッケー・リーグ)やKHL(ロシア・ベラルーシ・カザフスタンのコンチネンタル・ホッケー・リーグ)でプレーするロシア人選手と米国人選手のアイスホッケーの試合をアメリカとロシアで開催するというプーチン大統領のアイデアを支持したことも紹介されている。
米国は恒久的和平への道のりを強調
これに対して、ホワイトハウスのカロリン・リーヴィット報道官による発表では、「今日、トランプ大統領とプーチン大統領は、ウクライナ戦争の和平と停戦の必要性について話した。両首脳は、この紛争を恒久的な和平で終わらせる必要があることに同意した」という記述からはじまっている。そのうえで、「両首脳は、和平への動きはエネルギーとインフラの停戦から始まり、黒海での海上停戦、完全停戦、恒久的な和平の実施に関する技術的な交渉も行うことで合意した」と書かれている。
不可思議なのは、停戦期間についての記述がないことである。さらに、ロシア側の「エネルギーインフラ施設への攻撃」を一時停止するという話と、「エネルギーとインフラの停戦」という記述とは意味が異なっている。その意味で、いったい、何がどのように合意されたかについて、少なくとも米国側の説明は不明確だ。
その後の記述には、「両首脳は、将来の紛争を防ぐための潜在的な協力地域として中東について幅広く話し合った」とか、「戦略兵器の拡散を阻止する必要性についても話し合い、最大限の適用を確保するために他国と協力していくことを確認した」という説明がある。さらに、「両首脳は、イランがイスラエルを破壊できるような立場に立つべきではないという見解を共有した」という。
最後に、「両首脳は、米国とロシアの二国間関係が改善された未来には、大きな可能性があるという点で合意した」。これには、平和が達成された場合の莫大な経済取引や地政学的な安定が含まれると説明されている。しかし、捕虜交換やアイスホッケー・リーグの話は米国側の発表には書かれていない。
トランプは「有意義な電話」と自賛
トランプは、自身のSNS、TruthSocialにおいて、「今日、ロシアのプーチン大統領との電話会談は、非常に有意義で生産的なものだった」と投稿した。しかし、会談内容についての具体的な記述はない。「私たちは、人類のために、うまくいけば、仕事を終わらせることができるだろう!」と書かれている程度である。
ロシアとウクライナ双方のメリット
ここまでの説明からもわかるように、電話会談の中身については、現時点では判然としない。ただ、もっとも狭い解釈として、「エネルギーインフラ施設への攻撃」のみを当面、停止することが決まっただけだとしても、それが全面停戦に向けた一歩であることはたしかだろう。
ロシア側はこれまで、厳冬のウクライナ国民の厭戦(えんせん)気分を高めるために、発電施設や暖房供給施設を標的にした砲撃や空爆を繰り返してきた。そのため、ウクライナにとって、この停戦は日常生活の回復に寄与すると考えられる。
他方、ロシア側にもメリットがある。なぜならウクライナ側はこのところ、長距離の無人機(ドローン)によるロシア国内の製油所や石油施設などへの攻撃を積極化してきたからだ。最近では3月11日、モスクワ近郊の製油所と、ヨーロッパに石油を輸出するドゥルージバ石油パイプラインの一部であるロシアのオリョール州の施設を攻撃したと発表した、とロイター電が伝えている。3月19日のロシア側の報道によると、クラスノダール地方の石油備蓄基地で、ドローンの破片落下による火災が発生した。タンク間のパイプラインが損傷した。死傷者は出ていない。
2月2日には、ヴォルゴグラード州の製油所や、アストラハン州の天然ガス処理プラントが標的となった。前者はウクライナ国境から約480キロ、後者は約800キロも離れた場所にある。1月24日には、ウクライナの無人機120機以上が夜間にロシア上空で撃墜され、リャザンとエンゲルスの石油精製所が標的となった。
こうしたことから、ロシア政府は、ガソリン価格を安定させるため、ガソリンの輸出を禁止するといった措置を一時期講じており、ウクライナによる無人機攻撃の影響はボディブローのように効いていた。したがって、この合意が実施されれば、ロシアにとってもメリットがある。
ただ、よくわからないのは、プーチンはすでに攻撃停止命令を出したと報じられているのに対して、ウクライナ側の出方である。3月18日、ゼレンスキーは米ロ電話会談の合意とされる攻撃の一時停止には賛成しているが、合意の詳細を受け取った後、決定を下すことになる。
ウクライナはすでに敗色濃厚
戦争継続派は、さまざまな方法によって、ウクライナ戦争の停戦・和平を妨害しようとするだろう。ゼレンスキーは、停戦を装いながら、自らの権力維持に奔走(ほんそう)するだろう。たとえ、30日間の全面的な停戦が実現しても、彼は戒厳令を撤回して大統領選に望む気はない。そうであっても、トランプとしては、停戦の道筋を一歩でも進め、自らの功績を目に見えるかたちで示そうとしているようにみえる。おそらく、ここでも世論形成が問題となるだろう。プーチンが指摘した、①ウクライナにおける強制動員停止、②ウクライナ軍への武器納入停止――という条件は、今後、停戦拡大に不可欠な条件だ。だが、欧州は米国の支援がなくなった場合の穴埋めとして、ウクライナへの軍事支援強化の方向にある。これでは、米国がウクライナにかかわらなくなっても、欧州が支援することで戦争が継続する可能性があることになる。
欧州でも、日本と同じく、ウクライナがすでに敗色濃厚であり、軍事支援することがウクライナ人の犬死を増やすだけだという現実が知られていない。事実、奇襲作戦という卑怯なやり方で獲得したロシアのクルスク州の一部の支配権もほぼ失った。
すでに、このサイトに何度も書いてきたように、ウクライナは「負けている」。あるいは、少なくとも「勝っていない」。この現実をマスメディアがしっかり報道しなければ、ウクライナ人の死傷者を増やすだけだ。この現実を知れば、欧州がウクライナに軍事支援することが殺害(犠牲者の増加)幇助にすぎないことがわかるだろう。すでに3月14日に公表された、G7外相会談後に発表された声明では、「G7メンバーは、ウクライナの領土保全と生存権、そして自由、主権、独立を守る上でのウクライナへの揺るぎない支持を再確認した」とあるだけだ。お決まりの「我々は、民主主義の原則と自由な社会、普遍的人権、社会の進歩、多国間主義と法の支配の尊重に対する共通の信念を再確認する」のうち、民主主義も普遍的人権もない。
この大きな変化をより多くの国の国民に知らしめることこそ、マスメディアの果たすべき役割だろう。ウクライナ戦争は一刻もはやく停止しなければならないのだ。