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まず謝罪というのをしておかないと死ねない  樹木希林

樹木希林の言葉

 

 まず謝罪というのをしておかないと死ねない

 

 私はがんになったときに、命がかぎられたと思いました。そのとき、私がやらなければならないことは何だと考えたんです。子どもは自立して、孫もいて、孫は親たちがいるから大丈夫だと。

 問題は夫なんですね。さして自分では悪いと思わなかったんですが(笑)、長い間ほっぽっといたことはとりあえず悪い。向こうの悪いことは棚に上げておいて、私の悪かったことをずっと考えていって、まずはどうあれ夫に謝まってしまおうと思ったんです。まず謝罪というのをしておかないと死ねないと思ったんですけど、それを夫に伝えるのも大変なんです(笑)。電話だとお互い話してるうちにカアーッとくるので、最近は必要なときはファックスで連絡を取り合ってるんですね。

 それで何とか会うことになったんですが、夫は最初からテンションが上がっちゃって、一人でしゃべり続けて、私が、「今日は……」などと言いかけると、「ちょっと待って」と言って、関係のない日常の話をするわけです。向かい合ってきちっとした話をするということが、今日まで三十何年間したことがなかったので、彼としては居たたまれないわけですよ。でもこっちはこれを逃がしたら二度と機会はないと覚悟しているので、食事もとっくに終わっていますし、いよいよだと正座をして、「今日までいろいろとご不満もおありでしょう。大変申し訳ないことをいたしました。すみませんでした」って、芝居みたいになりましたが、それだけ謝って別れたんです。それくらい私の家は、夫婦であっても、会話のできない家族でした。

 結婚生活なんて、何か月もなかったという感じなんです。でも私は、病気をした結果、そこに行きつけたというのは大変な収穫だったと思うんですね。

 その後、あの話をした夜、夫がある人を呼び出して、そば屋でビールを飲んで、お銚子を20本くらい空けたと聞いたんです。呼び出された人によると、夫はすごくテンションが高くて、とても嬉しそうで、あんな姿を見たのは初めてだって。その話が私のところに伝わってきたとき、私はこれでもう死ねると思いましたね。

(「宇津井健さん、樹木希林さんをお迎えして。」2007年1月)

 




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