あなたに
―関東大震災時、荒川・中川土手で虐殺されたあなたに
石川逸子
どうしたらいいだろう
あなたが埋められたのは私が生まれる十年前で
あなたは いっぱいで
その姿 面差しもわからず
あなたを探しにきた同胞は
この地を「敵京」と呼んでいます
あなたに呼びかけようにも
あなたの名を知らず
あなたは後ろ手にゆわかれ
トビグチやチョウナで割られ
あなたは銃で撃たれ
川に蹴落とされ
おなかの大きな
若いあなたもいましたね
ただ勉強にやってきた
学生のあなたもいましたね
日本の高利貸に耕地をうばわれ
土方のトロ押しをしていたあなたもいましたね
一万年前のひとが描いた
オオツノシカの絵も いまは赤外線写真で浮かぶのに
六十年前の あなたのことがわからない
あなたは何百人か もっとか あなたの名前も
どうしたらいいだろう
あなたは無念に埋められたままで
私たちは平気で この中川を通り
亀戸を通りすぎ
どうしたらいいだろう
また九月がきて カンナが咲き
隣国からきた あなたたちの 名も怨みも
地に滲み 川底にはりついたまま
六十年
私たちはその上をどかどかと歩いて