回想 松崎水星
病室からレントゲン室までの距離は
五十米にも足りなかったけれど
土の上を歩くと云うことは
ベッドに寝たっきりの私には
こよなく嬉しいことだった
足萎えの私は看護婦に支えられて庭に出た
昼近い初冬の柔かい陽差しを浴びて
すずらんの花のように甘く漂う
看護婦の体臭に 私は
忘れていた君の面影を思い出した
二十数年前の白根神社の祭の夜
赤い名古屋帯に縞の単衣の君は
悪い片足を労わるように
私と腕を組んで佇っていたのだった
波が寄せて返すように
みこしは近づき 遠去って行った
私達も旅館に帰ったのだったが━━
半年の灸点治療は二人の距離を遠くした
病気の快くなった君は故郷へ
病気の悪くなった私は国立療養所へ
互に互の面影を抱いて
別れなければならない縁(えにし)だった