
前に読んだ小説、エッセイや対談集なども下書きに残してあるのだけど、読了したばかりのこの本の感想を感動冷めやらぬうちに…。
『天才望遠鏡』(額賀澪・著)
~描かれるのは5人の天才たち。彼らと、彼らを観測し続けた人々の姿が紡がれる連作短編集~
【目次】
星の盤側
妖精の引き際
エスペランサの子供たち
カケルの蹄音
星原の観測者
その天才たちとは、中学生棋士、浅田真央を思わせるようなフィギュアスケーター、抜群の歌声の持ち主である男子中学生、名馬、作家。それぞれの苦悩や挫折も描かれている。
第一話「星の盤側」に登場したカメラマンである多々良智司が、その後の話にも少しずつ登場する。
スポーツカメラマンの多々良は、藤井聡太の記録を塗り替え、史上最年少でプロ入りした中学生棋士の対局を撮る仕事を依頼される。フィギュアスケーター(第二話の主人公)の、オリンピックでの奇跡の一瞬を撮った実績を買われたから。
その対局で、天才中学生の対戦相手である、かつての天才中学生棋士・座間の、その擦り切れそうな瞳にこそ、多々良は注目し魅了される…。
どの話も心に残り、読んで良かったと思える話ばかりだったけど、後半3つの物語が特に胸にグッときた。
「エスペランサの子供たち」
「無料塾エスペランサ」で、高校受験のため勉強に励む天羽勇仁が主人公。
勇仁が天才的に歌が上手いことに気づいた、塾のボランティア講師・七音(ナナオ)が、勇仁が歌のオーディションを受けられるよう奮闘し、勇仁はそのオーディションを順調に駆け上がって行く。
「エスペランサに通う子どもの多くは、生まれたときから親によって可能性を握り潰されている。塾も習い事も部活も出来ない。修学旅行も行けない。家で当たり前のように家族の世話をする。『努力次第で道が開けるよ』なんて言葉がどれだけ浅はかか、そう言えてしまう人間にはそれがわからない。」
その塾でボランティアをしている人たちも、日々子供たちのために奮闘し、自身も葛藤している。
傍から見たら、裕福な人間が施しをして気持ちよくなっていると思われていると感じたり。でも、何の不自由なく大人になった自分たちが、手を差し伸べなければと思っている。
塾講師のナナオは、自分の才能、その将来についてためらっている勇仁に熱く語りかける。
「今いる(世の中の)階級から脱出したかったら、物わかりのいい顔で諦めていたらだめだ。」と。親や同じ境遇の周囲の友だちを気にして、そこから脱出することを諦めてはいけない訴える。そのナナオの熱意が特に心に響いた。
「カケルの蹄音(つまおと)」
主人公は高校生の翔琉(かける)。
かけるは中学時代、陸上の長距離で頭角を現し、スポーツ強豪校である須賀川農学校に推薦入学する。でも怪我で陸上を諦め、目標を失い、毎朝起きられなくなってしまう。
そんなとき、担任の計らいで、かつての競走馬と出会う。かけると同じ名前の「ズットカケル」という馬だ。
ズットカケルは、他のスター競走馬と比べて成績は振るわなくとも、人気があった。
普段はとぼけた表情でも、その賢明な走りっぷりからだということが読んでいて伝わって来た。
かけるとその馬には、初対面のときから、通じるものがあった。
ズットカケルは、競馬の才能はそうでもなくとも、頭が良く大人しくて、人と触れ合う才能を持っていた。
ラストでの、かけるの心情とズットカケルとのふれあいの描写には思わず感涙し、その美しい映像が脳裏に浮かぶようだった。かけるの担任、馬面の村井先生もとてもいい先生で。
作品舞台の福島県須賀川市は、高校時代の友人が住んでいた場所なので懐かしくもあった。駅前に、ウルトラマンの銅像があって。
「星原の観測者」
作家として同期デビューをし、同じ42歳の二人の作家が主人公。
デビューして15年になる二人は全く違うタイプの作家。
釘宮志津馬は大人気作家となったけれど、誰に対しても偏屈で横柄なタイプ。一方の星原イチタカは、そほど売れてはいないけれど、編集者に逆らわず、着実に仕事をこなすタイプ。
横柄な釘宮に、「性格を直さなくてもいいから、とりあえず謝るようにしろ。」と、アドバイスしてきた星原。
話の終盤、そんな星原のことを星原の義母に打ち明ける釘宮。星空の下での二人の会話からラストまでの描写に、またしても涙腺が緩んでしまった。
「才能を持った人間なんて、実はたくさんいる。でも、天才は違う。天才は、才能を見つけた連中が、一方的にそう名づけるんだ。」と、釘宮。
自分だけは、星原の才能をちゃんと観測していたから、だからアイツは天才だったと。
夜空に瞬くたくさんの星。光り輝く星もあれば、人間の目には見えない星も無数にある。でも誰でも、自分を見ていてくれる(観測してくれる)誰かがいれば、それは生きる力に繋がるということも感じさせられる小説だった。
どの話も、登場する天才たちのことを描いているようで、そばにいる観測者にも焦点が当たっていて、カメラマンの多々良はじめ、それぞれが魅力的な人物だった。
また、どの話の主人公たちも目力があり、その目の描写も心に残った。
第三話での名馬でも、「この馬の目は大きく感じた。瞳の奥に広がる空間は、とても空気が澄んでいる。そんな気がする。」とあって。
最終話「星原の観測者」には、その前の「カケルの蹄音」での、カメラマン多々良が撮った、かけると馬の写真が登場するので、かけると馬のその後の展開を知ることができて、「ああ、良かったー!」と嬉しくなった。
またこの最終話では、作家としての大変さを十分味わってきた著者だからこその気持ちが込められているのを感じた。
著者・額賀澪さんの作品は初めて読んだけれど、他の作品も読んでみたくなった。


(近所の紅葉です。)