対談集『虫坊主と心坊主が説く 生きる仕組み』(養老孟司・名越康文)


目次
第一章 「仕事」ってなんですか
第二章 「成功」ってなんですか
第三章 「世の中」ってなんですか
第四章 「自分」ってなんですか
第五章 「現実」ってなんですか
第六章 「死ぬ」てなんですか
この二人の対談を収録したのは、こちらで三冊目だそう。
お二人の共通点は「社会を1ミリも変えようと考えていないこと。これまでしゃべったことは、お経みたいなもん。」とのことで、様々なことを様々な観点から自由に語られてます。
「お経というのは、苦しみや、モヤモヤをすっきりさせてくれるもの。要するに『これでいいのだ!』とバカボンのパパのようでありながら、いい加減に言っているのではなく、人の幸せを祈るもの。」
現代の底の見えない不安の中で、どのように現在地を確かめれば良いのか、というのがこの本の無意識的なテーマ。
名越氏は精神科に進み、そこからさらに宗教心理学へ。密教や仏教も研究し、仏教と身体技法の研究者。だからなのか、懐がとても広いのを感じた。
(以下、心に残った箇所を備忘録として。)
第一章 「仕事」ってなんですか
「やりたいってことは仕事じゃねえよ」(養老氏談)
「好きでやる仕事」をやる人は二番目で、好き嫌い関係なく、楽しんでやるのが一番。なんでもない仕事に面白みを見つける。やってみなきゃわからないんだから。
この部分を読んで、その前に読んだこちらの短編集『おひとりさま日和』(part2)での、この話にも通じているなと思った。

『セッション』(松村比呂美・著)
夫と離婚し娘とも喧嘩別れをして疎遠になってしまった70代女性が主人公。ひょんなことからライブハウスでドラムの響きの魅力に出会い、ドラム教室に通い始める。
それから、つまらないと思っていた毎日の工場での単純なライン作業も、脳内の音楽から身体でリズムをとってやってみると、弾みがついて楽しくなってくる…。
第二章 「成功」ってなんですか
「『成功』は初めから物差しが決まっているから、すればするほど苦しくなる。」
「人の評価はあまり意味がない。競争があるところには必ず評価がつきまとうので。」
「承認要求」については、他人に価値を置くと自分が苦しむので、人に評価を預けてしまったらだめ。」
また、「戦中から戦後にかけての社会の変化や価値観の激変により、困り果ては人が相当数自殺している。」のだそうで、こういうことはマスコミでもほとんど取り上げられなかったそう。
人間は、上から言われる通りにしているほうが楽な生き物だ。ということも二人の対談から改めてわかった。
人が住める面積に対する人口密度を測ると、日本は世界1位。人口密度は、鳥取県か島根県が世界の平均値。
ぎゅうぎゅう詰めの環境に生きているから、日本ではできるだけ波風を立てないことが大事になっている。そういう環境で大事なのは、自分の好きなものを持っていること。
第三章 「世の中」ってなんですか
「世間にまぜてください」ってくらいの感覚だと楽。「ときどき参加するのが世間である。」スマホをこうやって持っているのも世間のお付き合い。
私も本当にそう。出来れば持ちたくない。でもこれがないと、今はもうドラムの自己練習もできない。
「修行をすると、価値判断とは違う世界に入れる」
その仏教での修行の話も面白かった。
修行というと仏教に結び付けたがるけど、「独特の集中の世界に入ることで、『体と心が充実する』ことなのかも知れない。」
「自然も人体も本当は正体不明。人体は小宇宙というけれど、本当はわけのわからないもの。」
「みんな自分の願望の充足のために、現実を利用しようと躍起になっている」
第四章 「自分」ってなんですか
読み進めていくと、養老さんとブータンは、良いご縁があるってことが伝わってきた。
ブータンは生まれ変わりの仏教だから、みな誰かの生まれ変わりなんだという考え。
「必然的に立ち上がってくるものは、遠くからの縁かも知れない」
って考え方にも共感できた。
それは、養老さんがブータンで初めて入ったお寺で、以前会ったことがあるような気がするお坊さんに、「どこかでお会いしましたか?」ときくと、その偉いお坊さんは、「そんなの当たり前だよ。あなたがはるばる日本からこんな田舎まで来て私に会うってことは、昔から決まっていたことで、お釈迦様はちゃんと知っている。」と言われたそう。
どっかで何かの縁があったのだから、会って当たり前という考え。
会うのは昔から決まっていたと考えると、色々想像力が働くけど、日本はそういうのを組織的に消してきたのだそう。
「日本人は、運命を受け入れるということを忘れて抗う。そうすると苦しい。」
ブータンでは、自分でお坊さんを選んで、一生の師にする。
死ぬときは何も残すながブータンの教え。
また、名越氏は「もし東京にでてきたとき近くにお寺がなかったら、自分は本当に苦しかったと思う。」といわれていた。
「10分間座るだけで頭が切り替わるお寺は、タイパがいい。」
「そこここにお寺や神社があるので、行ってみて、悠久の存在としておられる仏様と繋がるって感覚を持ったら、落ち着く。」
「気持ちがざわざわするときは、大きな木に抱きつきなさい。ほっとするし、エネルギーがもらえる。」
「癒しだったら、森の中に入った方が絶対に癒される。」
「よくみな同じ人とずっと付き合っているでしょう。すごいなと思う。」
このあたりの言葉も、なるほどな~と共感した。
第五章 「現実」ってなんですか
カール・ポパーという科学哲学者の考えは、
「世界1」は、物質の世界。「世界2」は一般的に理解されている科学みたいなもの。「世界3」は、そういうものとは別に、個人の中に閉ざされている心の世界。
養老氏は、ことあるごとに地震について言及している。
大地震が起これば、日本人の暮らしは変わらざるをえない。
地震の災害から生き延びても、その後に色々な変化が待ち受ける。
東京のように流通に頼っている都市は一番弱い。流通がズタズタになるから、食料が消える。水道もだめだから、火を起こすとか、アウトドアの能力が役に立つ。
日本人の体の6割は、外国産食物でできている。一番強いのは、ローカルで自給している地域。
都会に住む人も、どこか逃げる場所を決めておいて、今のうちに畑などをやっている人の所に手伝いにいって、作物を栽培する体験や交流を積み重ねた方がいい。
農地として機能していない、耕作放棄地にたくさんの人が入って栽培をし始めたら、日本の食料自給率の低さなんて、何の問題もなくなるんじゃないか。
また、「関東大震災が、日本を戦争に突き進めた。」という考えは初めて知った。
天地異変によって、歴史が大きく変わってきた。
一晩で10万人が亡くなったのは、相当なダメージ。
政府の人間も、その悲惨な状況を見ている。そうすると、人が死ぬことに対する感覚が鈍る。自分の目の前で起きると、考えていることなんてガラッと変わってしまう。
よくブータンに通っている養老さん。
2023年に行ったときは、アメリカのコンサル会社が入ってしまい、最悪だなと思ったそう。
「幸せ度世界一」といわれ注目されて、ホテルができお金もどんどん入って来ると、人々の生活も変わり、人と比べるようになる。そうすると、幸せの感覚も違って来る。「じゃ、どうしたらいい?」って考え方も、そもそも脳化している。
とのことだけど、やはり人と比べることは、不幸の始まりのような気がしてしまう。
「成功ってなんですか」の章で、音楽が大好きな名越氏の、ビリー・ジョエルのエピソードも面白かった。
ビリージョエルほどの有名人でも、アルバム制作とかでの音楽業界のシステムには苦労して、精神を病むほど苦しめられてきたのだそう。
「世の中のシステムが大きくなり過ぎて、壊せなくなっている」とのこと。
この本は2月初めに読んだのだけど、下書きに書き過ぎて、まとめるのに時間がかかりそうと思いつい後回しに。でもやはり書き出すと長くなってしまった^^;
☆
ブータンのこともたくさん登場していた本書を読んで、ブロ友のはなさんが以前ブータンに関する本を読まれ、ブータンの記事を3回にわたって書かれていたのを思い出しました。
それもとても興味深かったので、最後にご紹介させて頂きます。

新緑が綺麗な季節になってきましたね。
近所のこの木をSiriで調べたら「ハンカチノキ」と出ましたが、「ハナミズキ」のようですね🌸