『明けないで夜』(燃え殻・著)



燃え殻さんの本を読んだのは、今回で二冊目。
日々で感じた可笑しみや、悲しみなどが書かれたエッセイ。後半は日記形式になっている。
前回読んだのは数年前に読んだこちら『相談の森』で、どちらも読むとホッとする、安心感が詰まったような本。学生時代に聴いていた、ラジオの深夜放送のような…。
それはやはり、華々しい道を歩んで来たわけではなく、性格的にも引っ込み思案でピュアな著者の人柄が滲み出ているからだと思う。
心に残った章を挙げていくと…
「映画館での暗闇が好きだ」
日常をなんとかやり過ごすためには、
映画館の暗闇の中のような、絶対的な安心感が必要だ。
映画館の中の暗闇の中のような言葉や音楽。
誰にも教えていないパートナー、一人の時間。
寄り道と空想。
人生に必要なのは、確かな肩書や名前の付いていない、
そういうあれやこれやな気がしている。
この言葉は特に共感できた。
スマホも見ない、映画に集中できる時間や、空想に思いを巡らすことができる一人の時間。確かに自分にとっても大切。
「恥をかきたくないとか、上手くいかなかったらどうしようとか」
「恥をかきたくないとか、上手くいかなかったらどうしようとか、本当は、そんなことはどっちでも良かったんですよね。だって、生きて、自分がやるべきことができていたら、もうそれで十分幸せですよね?」
この言葉は、燃え殻さんの大ファンで、癌で闘病中だった女性が、お見舞いに来た燃え殻さんに語った言葉。その女性自身も、ネットでエッセイを発表していたそうだ。
生きて、自分がやるべきことができていたら、それだけで十分幸せ。それに付随してくる悩みや葛藤などは、幸せだからこそ感じられることなのだ。と、最近気弱になっている自分にも言い聞かせてみる。
「風が吹いていた」
血が滲む努力をしてもだめなものはダメになる。
それとは逆で、気分転換に何気なく書いたものが大きなプロジェクトになったりする。そのときの風みたいなものだと思う。
あまり落ち込み過ぎず、あまり奢らず、ある程度風まかせに進むくらいの気持ちでいい気がしている。
その大きなプロジェクトというのは、『あなたに聴かせたい歌があるんだ』という燃え殻さん原作による成田凌主演の作品のこと。
成田凌出演作品といえば、燃え殻さんは今泉力哉監督作品の中で、映画『街の上で』が群を抜いて好きだそう。
下北沢で古着屋をやっている、青年(若葉竜也)の、その何気ない日々を描いたこの作品は、ほのぼのとしていて私も好きだったので嬉しかった。(成田凌は、映画の中でも俳優役として出演していた。)
その映画ののんびりした空気感も、燃え殻さんに共通しているように感じる。
あの彼と彼女は、きっとこれからもまた泣いたり、怒ったり、
ガッカリしたり、愛したり、愛されたり、別れたりするんだと思う。
それはとても人間らしいことだと思う。
不完全な僕たちは不完全なまま、あのまだ名前のついていない感情になりたくて、
味わいたくて、生きているんじゃないかとすら思う。
という感想にも、あの若い二人の取り留めもない会話を思い出し、そうだったな~と。
映画についてはほかにも、『パーフェクト・デイズ』を観て、「やけに人生を見つめ直しているというのも否めない。」とも書かれていた。この映画を観て、主人公のシンプルな生き方に憧れた人は多かっただろうな。
その言葉が出てきた「一日ちょっとの旅」の章では…
「今、三十時間を自由に使えたら何をするか?それを書いて欲しい。」と編集者からの依頼で、燃え殻さんは、三十時間の使い方について思いを巡らせる。
昨年50歳になり、親しかった寺山修司の年齢を越え、中島らもの亡くなった年が迫ってきたと思ったところで、父方の実家、沼津へ10年ぶりに行くことにする。
水が良い土地だし、「中央亭」の美味しい餃子もあるとうことで。
今はシャッター商店街と化している、家族で沼津の商店街を歩いたときの子どもの頃の思い出。
祖母と二人よく行った公園には、当時と同じ蒸気機関車がまだあった。
祖母が蒸気機関車を見つめたまま、はらはら涙を流していたことがあったのを思い出したり。
その公園で著者は、時間を忘れ、持参した漫画を読み切ってしまう。
その後ホテルで夜まで爆睡した後は、集中力が高まり不思議と仕事がはかどり、「この旅のように、ふっと日常から消えることは大切だ。」と書かれていた。
「LINEもXも触らない一日は、心を健康にする。」
この言葉にも、全く同感。ほんの十数年前までは、LINEなんてのも無かったんだし。
この章で、沼津駅前の「中央亭」の餃子の美味しさについて書かれている箇所は、本当に食べに行きたくもなった。
ほかにも、
「人生に孤独はマストだ」と言ったのは、谷川俊太郎。同じく、人生に悩みもマストだ。マストだと考えていた方が先に進める。
という言葉も心に残った。
疲れた心に効いてくるような一冊でした。
*
詩の絵本『ありがとう』(詩・谷川俊太郎/絵・えがしらみちこ)

卒業シーズンにぴったりのこの絵本は、先月6年生の教室で読みました。短いので、他の絵本とともに。
空ありがとう
今日も私の上にいてくれて
曇っていても分かるよ
宇宙へと青く広がっているのが
花ありがとう
今日も咲いていてくれて
明日は散ってしまうかもしれない
でも匂いも色も もう私の一部
お母さんありがとう
私を生んでくれて
口に出すのは照れくさいから
一度っきりしか言わないけれど
でも誰だろう 何だろう
私を私にしてくれたのは?
限りない世界に向かって私は呟く
私 ありがとう
卒業式当日の、少女の思いが描かれています。
最後の「私を私にしてくれたのは?」から、自分に感謝する言葉が特に好きです。
えがしらみちこさんの美しい絵が、谷川俊太郎さんのシンプルだけれど深い詩を、より一層引き立てている感じがします。
周囲への感謝ももちろん大切ですが、何よりも自分自身を大切にして、これからも生きていって欲しいという願いをこめて読みました。


【おまけ】
この前ライブで一緒だったバンドが、この曲をやっていて、かなり久しぶりに聴いたので嬉しくなりました。
ポール・マッカートニーの、1999年に発表されたカバーアルバム『Run Devil Run』からシングルカットされた「No Other Baby 」(オリジナルは「バイパース」)。
ポールのベース音が耳に心地いい一曲です♪